トラック

新型コロナウイルス感染の流行で外出しにくくなったこともあって、インターネットなどの通販で商品を購入する人が増えたが、コロナが収まっても、その傾向は続いている。私もそうで、配送料無料というサービスも多く、利用者にとっては、外出する時間と交通費の節約にもなる。

その配達を担っている業界で、運転手不足という問題が生じている。これが「物流2024年問題」である。

【関連記事】舛添要一氏連載『国際政治の表と裏』、前回の記事を読む

 

■時間外労働の規制

2024年4月から、トラック運転手の時間外労働が年960時間までに制限される。“長時間ハードワーク”が当たり前だった業界の現状を是正するためだ。トラック運転手が不足していることに加えて、残業時間短縮で労働時間が短くなるために物流が停滞することが懸念される。これが物流2024年問題である。

何も対策をとらないと、輸送能力は、2024年には14.2%、2030年には34.1%不足し、営業用トラックの輸送トン数でみると、2024年には4.0億トン、2030年には9.4億トン不足するという。そして、物流の停滞は、2030年にはGDPを10兆円押し下げるという。

そうなると、たとえば、これまでは消費者の許に1日で届けられていた荷物が2日かかることになる。とくに、魚、野菜などの生鮮食料品は自宅まで運んでもらえなくなるかもしれない。農産物の3割は運べなくなるという試算もある。

時間外労働規制強化は、トラックのみならず、バスやタクシーについても同様で、運転手不足が大きな問題になっている。

 

関連記事:50代男が嫉妬で理性失い刃物で自殺 20代の元恋人が乗る車に追突し…

■運転手の労働実態

年間960時間という時間外労働規制を月単位に換算すると、80時間となる。一方で法定労働時間が週40時間×4.3週=172時間、休憩時間が1日時間×22日=22時間となり合計274時間である。これまでは、繁忙期には275時間を超える事業者が全体の約3分の1というのが実態である。

また、勤務間インターバルは、従来は継続8時間以上確保とされていたのが、11時間以上の努力義務、最低9時間となる。この休憩時間の延長によって、運行計画の見直しが必要となる。たとえば、今まで2日で済んだ荷物の到達時間が3日かかるということになるからである。

さらに運転手から見れば、残業規制は収入源につながるということにもなる。それは、運転手不足をさらに悪化させることになってしまう。今でも、トラック運転手の年間所得は、全産業の平均と比べて、大型トラックで26万円、中小型トラックで58万円低い。

 

関連記事:50代男が嫉妬で理性失い刃物で自殺 20代の元恋人が乗る車に追突し…

■物流2法の改正案

14万人のトラック運転手が不足するというこの深刻な物流2024年問題にどう対応するか。政府も様々な対応策を考えている。2月13日には、物流関連2法(「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」と「貨物自動車運送業法」、なお前者は「物資の流通の効率化に関する法律」と名称変更する)の改正案を閣議決定した。

それによると、物流の大手事業者に中長期計画の作成や定期報告など(違反した場合は最大100万円の罰金)、荷主には物流統括管理者の選任を義務化した。また、元請け業者には、下請け状況が分かる取引管理簿の作成を義務づけ、下請け事業者に仕事内容、対価(付帯業務料などを含む)を明記した契約書を渡すことを義務づける。全国のトラック事業者の74%が下請けを利用しているので、この点の規制が不可欠である。

また、国交省は、標準運賃を現行水準から平均で8%引き上げる。運転手の賃上げを促進するためである。

 

関連記事:郵便配達員が飼い犬を思い切りキック 住人からの苦情でトラブル発覚

■具体的な対策

まずは消費者については、不在による再配達を防止する対策として、「置き配」を促進し、それにポイントを付与することを政府は考えている。再配達削減によって、トラック運転手3万人分の効果がある。

また、輸送手段をトラックから鉄道や船舶に転換する。これをモーダルシフトというが、政府は、鉄道や船による貨物輸送量を10年で倍増させるという。これによって、トラック運転手5千人分の効果があるという。

また、物流施設の自動化・機械化、配車・配送計画のデジタル化などによって、荷待ち・荷役時間を削減するなどの業務効率化の取り組みを実行し、運転手4万5千人分の効果を上げる。また、今は約4割という積載率を向上させることによって、運転手6万3千人分の効果を期待する。

以上を合計すると14万3千人に当たり、不足する14万人分を超えることになる。

その他にも、高速道路での自動運転トラック走行への環境整備、普通自動免許で運転できる3.5トントラックの開発、大型トラック2台分の荷物が運べる「ダブル連結トラック」の活用なども行われている。

私たちにとっても、物流2024年問題は深刻である。

 

関連記事:郵便配達員が飼い犬を思い切りキック 住人からの苦情でトラブル発覚

■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「物流2024年問題」をテーマにお届けしました。

【舛添要一連載】トラック運転手不足で深刻化する「物流2024年問題」 国と事業者はどう解決していくか