将来的に年金減額が現実路線のなか、早めに資産形成に着手したいもの。しかし50代から資産形成をスタート、毎月資産運用に回せるお金は10万円だとしたら、年金支給が始まる65歳までに「老後資金2,000万円」をつくることは可能なのでしょうか。考えてみましょう。

老後を見据えた資産形成「50代」→「60代」で資産700万円上乗せ

老後を生き抜くために、資産形成が必須とされている日本人。いくら必要かは人それぞれではありますが、2019年に世間がざわついた「老後資金2,000万円不足問題」の影響からか、「とりあえず夫婦で2,000万円」というケースが多いようです。

老後を見据えた資産形成。早く始めることにこしたことはありませんが、子どもの教育費に住宅ローン……と家計負担が大きいなか、資産形成を進めるのは現実的に厳しいという声を耳にします。

第1子の誕生年齢は男性33歳。子育てから解放されるのは早くで50代前半といったところでしょうか。教育費の負担がなくなってから、老後を見据えた資産形成をスタートさせると、原則年金支給が始まる65歳まで、10~15年ほどしかありません。

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]』によると、50代の金融資産保有額(金融資産非保有世帯は除く)は平均1,684万円、60代平均は2,317万円。50代から700万円ほど上乗せして老後を迎えるというのが平均値のようです。

55歳からの資産形成…預貯金だけで「2,000万円」は可能?

50代ですでに1,500万円を超える資産がある……これが平均であり「50代でゼロから資産形成をスタートさせ、老後資金2,000万円を貯める」というのは少々難しいと感じられます。しかし「子どもの教育費が落ち着かないと、とても資産形成を始められない!」という声は多数。そのような場合、老後の安泰は諦めるしかないのでしょうか。55歳から「資産形成をスタート!」の場合を考えてみましょう。

厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、55歳サラリーマン(正社員)の平均月収は43.1万円、年収で701.6万円。教育費が落ち着いたので「月10万円を積み立てる」を前提に考えてみましょう。利率ゼロ%であれば、単純に10年間で1,200万円が貯まります。

年率の高いネット銀行の定期預金を利用したらどうでしょう。年率0.3%だとしたら……利息は18.0万円となり、10年で貯められるのは1,218万円。預貯金だけで老後資金2,000万円は、少々現実的でないことが分かります

55歳からの資産形成…65歳までに「2,000万円」を貯めるには年率何%必要?

55歳からの資産形成。預貯金だけでは目標額到達は難しく、投資が必須だということが分かりました。ではどれほどの利回りを目指せばいいのでしょうか。

●毎月「10万円」を積み立てて「年率1%」で運用したら……10年後には1,261.5万円になります。

●毎月「10万円」を積み立てて「年率2%」で運用したら……10年後には1,327.2万円になります。

●毎月「10万円」を積み立てて「年率3%」で運用したら……10年後には1,397.4万円になります。

●毎月「10万円」を積み立てて「年率4%」で運用したら……10年後には1,472.5万円になります。

なかなか2,000万円が見えてきません。

●毎月「10万円」を積み立てて「年率8%」で運用したら……10年後には1,829.5万円になります。

2,000万円が見えてきました。

●毎月「10万円」を積み立てて「年率9%」で運用したら……10年後には1,935.1万円になります。

●毎月「10万円」を積み立てて「年率10%」で運用したら……10年後には2,048.4万円になります。

とうとう、2,000万円を超えました。もし55歳から資産形成をゼロから始め、毎月10万円を積み立てていったら、年率10%で「老後資金2,000万円」を到達することができます。

たとえば、投資でメジャーな投資信託の過去3年の平均利回りは、国内株式型が10%程度、海外株式が17%、国内債券型が▲0.8%、海外債券型が3.7%。「この株高の流れにのることができたら、2,000万円を貯めるのも夢ではないな」と思うかもしれません。しかしこの状態が10年続くかは不透明ですし、また年率10%の運用を10年続けるというのもなかなかのもの。投資である以上、元金割れのリスクも考えられ「ハードルは高い」と言わざるを得ません。

もうひとつ現実的な懸念として、定年後の給与。現在多くの企業で60歳を定年年齢とし、以降は契約形態を変えて再雇用、というケースが多くなっています。このとき、定年を境に給与減が見込まれます。もし仮に正社員→非正規社員となったら……60代前半の非正規社員(男性)の平均給与は月28.3万円、年収で428.0万円。月収は65%に、年収は61%に減少します。

さらに65歳定年などで、引き続き正社員だった場合は、月収は35.0万円、年収は537.2万円。月収は81%に、年収は76%に減少します。いずれにしても50代から60代にかけて「給与減」はまぬがれません。毎月10万円の積み立てという資産形成の前提自体が厳しくなるといえるのです。

55歳から資産形成をゼロからスタートし、老後資金2,000万円を貯めることは可能か? そんな問いに対して「可能ではあるが現実的にはかなり厳しい」というのが回答でしょうか。やはり「若いうちに可能な範囲で資産形成をスタートし、50代で本格化させる」というのが現実的だといえそうです。

[参考資料]

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]』(令和4年)

厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』