勉強する際に付箋やマーカーを引いてインプットする人は少なくないのではないでしょうか? しかし、大人の脳の使い方としては少々非効率のようです。果たしてその理由とはいったい何なのか、著書『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)より、 加藤俊徳氏が解説します。

付箋を貼っても線を引いても残念ながら覚えられないワケ

勉強をする際、テキストの大事なページに付箋を貼ったり、重要な言葉や文章に蛍光ペンなどで線を引いたりする人は多いと思います。

しかし、これも残念ながら、学生時代とは脳の仕組みが変わっているので、大人脳には効果的ではありません。

大人の場合、付箋を貼ったり線を引いたりして得られるのは、“やった気分”だけで、しっかり記憶に残すことはできないのです。

なぜなら、働いている脳番地が少ないから。

「お、ここは重要そうだな」というセンサーが働いて、忘れないようにと付箋を貼る。

なんだか勉強した気にはなりますが、脳の働きを見てみると、文字を目で追うだけの黙読では、メインの視覚系脳番地以外はほとんど働いていません。

「いや、いや、ちゃんと覚えようと意識して線を引いているよ」と反論したくなる気持ちもわかりますが、学生脳ならともかく、大人脳の記憶系脳番地は先ほどからお伝えしている通り怠け者なので、自分1人では働こうとしません。

大人になったら線を引いた程度では記憶系脳番地に伝えるメッセージとしては弱すぎて、暗記など到底できないのです。

大人脳で効率的に勉強するためには、1つの脳番地に頼るような方法ではダメで、脳番地のトップ3[思考系・理解系・記憶系]を巻き込みながら、さまざまな脳番地を一気に働かせることが重要です。

脳の神経細胞は年齢とともに減少していきますが、神経細胞同士をつなぐネットワークは年齢に関係なく成長します。

複数の脳番地を同時に働かせることは、このネットワークを強化することとイコール

少なくとも3つ以上の脳番地を動かすことで、脳はフル回転しはじめます。 ネットワークを強化すればするほど脳全体の機能も向上させることができるのです。

脳は命に関わる重要な情報を記憶する

勉強する上で強化したい記憶力について正しく理解するためにも、脳の記憶システムについてお話をしておきましょう。

大前提として、脳は記憶するよりも忘れるほうが得意です。

脳には1ペタバイトともいう膨大な記憶容量があると言われていますが、見聞きしたものをすべて記憶していたら、あっという間に容量オーバーになってしまいます。

また、脳は身体の中でも膨大なエネルギーを使い、大量の酸素を消費する器官であるため、できるだけ省エネモードで働きたがるという特性があります。

だから脳は、重要と判断したもの以外はどんどん忘れていくことで、効率よく頭を働かせたがっているのです。

私たちが目や耳から集めた情報は、いったん、脳の「海馬」へと送られます。記憶は大きく「短期記憶」と「長期記憶」に分けられますが、海馬が担当するのは短期記憶。

短期記憶は、いわば、記憶の一時的な保管庫のような存在です。

そして、保管庫であると同時に、保管庫の管理を一任された記憶の“調整役”としての役割も持ち、短期記憶から消去するものと長期記憶として残すものを選別しています。

海馬はタツノオトシゴを横向きにしたような形の小さな器官ですが、その役割の大きさは調整役と呼ぶにふさわしく、記憶力を上げていくためには海馬に長期記憶へとつながるルートの鍵を開けてもらう必要があるのです。 

ところが、海馬はすぐに居眠りしやすく、サボりやすい性格です。

本来、そんな海馬が長期記憶に残そうと覚醒するのは、自分が生き延びる上で必要な危機や命に関わるような重要な情報です。

英文法も法令も計算式も海馬からしてみれば何の魅力も感じません。

そこを何とかして、海馬に「やばい! 重要だ」と思わせて長期記憶へと送り込む!

それが、大人の暗記法のヒントでもあります。

これから詳しくその方法を解説していきます。

大人の記憶力がアップするコツ

記憶の調整役「海馬」には、記憶の一時的な保管庫としての役割がある、というのはすでにお伝えした通りです。

では、一時的とは具体的にどのくらいの期間だと思いますか?

人それぞれ海馬の元気度が違いますし、記憶する内容によってバラつきはありますが、2〜4週間が1つの目安です。

たとえば、昨日のランチのメニューは思い出せても、3週間前の水曜日に何を食べたのかはなかなか思い出せませんよね。

3週間前の、いつもと同じ顔ぶれでよく行く定食屋の日替わりメニュー。突出した情報がなければ海馬はこれを重要な情報ではないと判断し、短期記憶から消去します。昨日のメニューも同様に、あと数週間もすれば海馬から消えてなくなるでしょう。

では、質問です。

ここ3カ月以内で記憶に残っているランチはありますか?

テレビで見て行こうと決めたイタリアン。休日にパートナーや家族と出かけた観光地のレストラン。仕事が一区切りしたご褒美にと奮発した寿司。

何か特別な出来事があったときのことなら、何カ月経っても覚えていますよね。

テレビで見た、休日に出かけた、仕事のご褒美などストーリー性のある出来事には、楽しい、嬉しい、悲しいなどの感情がともないます。

こういった記憶は、いつもと変わらぬ日常とは区別され、「エピソード記憶」に分類されます。

実は、記憶の調整役・海馬の隣には感情系脳番地の中心である扁桃体があり、感情が大きく動く出来事があると感情系と記憶系をつなぐ脳番地ルートが刺激されて、海馬はそれを重要な情報だと判断します。

つまり、エピソード記憶無条件で長期記憶へと送られるという仕組みになっているのです。

これを活かさない手はありません。

この脳の特性を活かすカギは、感情を動かすこと。勉強に感情がともなうようにするだけで、記憶力はぐんとアップします!

加藤 俊徳

加藤プラチナクリニック院長/株式会社脳の学校代表

脳内科医/医学博士

(※写真はイメージです/PIXTA)