お笑い芸人や俳優、モデル、アーティスト、経営者、クリエーターなど「おもしろい人=タレント」の才能を拡張させる“タレントエンパワーメントパートナー“FIREBUGの代表取締役プロデューサー・佐藤詳悟による連載『エンタメトップランナーの楽屋』。

参考:【写真】大田高彰×佐藤詳悟の撮り下ろしカット

 第10回はFIREBUGが活動のサポートをしているバンド・いきものがかりのライブプロデューサーを務める、株式会社インターグルーヴプロダクションズ代表取締役・大田高彰。『第74回NHK紅白歌合戦』出場&『第65回 日本レコード大賞』の「日本レコード大賞」に輝いたMrs. GREEN APPLEのマネジメントに携わりながら、SEKAI NO OWARIVaundyなどの注目アーティストの ライブプロデュースに関わる裏方のキーパーソンだ。

 日本の音楽がK-POPの世界進出と比較され、「ガラパゴス化」と言われて久しい。しかし昨年のYOASOBIの「アイドル」のヒットなど、日本の才能がアニメにブーストされて海外に飛び出し始めた現状は、いよいよJ-POPのグローバル化が始まったと言えるだろう。

 そんな動向を業界人であり仲間同士でもある両者が、大田の生い立ちやプロデュース論、具体例も含めて語り合った。時代を駆け抜けた彼らにいま観えているのはどんな景色なのだろうか。

・国内アーティストのライブ制作を始めたきっかけは“クールジャパン戦略”

佐藤詳悟(以下、佐藤):出会ったのはちょうど10年前ですよね。20代後半から30歳くらいのとき。

大田高彰(以下、大田):もともとSEKAI NO OWARIのマネージャー(宍戸亮太氏)から繋がった縁ですよ。

 彼が同い年で「同世代がエンタメで面白いことをしてるね」と話していたんです。それから輪の中心にいた佐藤さんをきっかけに色々な人が集まり始めたんですよね。

佐藤:その頃はまだ一緒に仕事していませんでした。

大田:最初にご一緒したのは、いきものがかり水野良樹くんのソロライブだったと思います。なんと水野くんも同級生で(笑)。

佐藤:今は、いきものがかりのライブ制作をやってもらっているので、がっつり仕事仲間ですね。この年齢でライブ制作会社の代表をやっている人って少ないですよね?

大田:たしかに10~20歳上の人が一線で活躍する現場だったから、お互いに珍しい存在だったかも。そこにどう入り込んで上がっていくか、という話をよくしていました。

佐藤:当時はテレビ主体でいまよりも閉鎖的な業界でしたけど、そのなかで好き勝手している人が集まっていて。

大田:いまは新興企業や個人事務所がどんどん出てきたり、メジャーインディーズ関わらずヒットが生まれたり、誰でも勝負できる時代になりましたね。

佐藤:「もう10歳若ければ」と思うこともあるけど、40代じゃなかったら上の世代のことを知らないと思うから、我々は「はざまの世代」かな。

佐藤:業界に入る前はなにをしていたの?

大田:大学卒業してからエンタメ系か教育系で働こうと考えていました。ただ前者は新卒採用の会社がなく、後者のベンチャーに就職しました。ただ教育といっても教育コンテンツを作るわけではなく営業だったので、本音を言うと楽しくはなかったです。ただ営業としての売り上げはしっかり上げてましたよ(笑)。

 それから会社が上場したタイミングで組織に違和感を感じて、辞めました。それで英語を使った仕事を派遣サイトで探していたら、『SUMMER SONIC』を主催しているクリエイティブマン・プロダクションを見つけて。

 「とにかく行ってみよう」というところから、採用して頂いて、7年間勤めました。それで英語力もぐんと上がりましたね。音楽業界に入ったのは完全に運でした。

佐藤:いまの会社を立ち上げたきっかけは?

大田:前職の会社を辞めた頃に、ちょうど東京オリンピックの流れで日本のコンテンツを海外に輸出する、クールジャパン戦略がエンタメ業界で動き出したんです。そこで英語も含め、海外とプロジェクトを進めるメンバーとしてアサインしてもらったんですよ。

 最終的に日本人アーティストのコンテンツを作って広げていくことの面白みに気付き、自分も1からライブ企画制作をしてみたいという気持ちが強くなりました。

佐藤:なるほど。

大田:それからクールジャパン関係で海外に行くなかで、当時所属アーティストやコンテンツを海外に積極的に出そうと仕掛けていた芸能事務所・アミューズの方々とご一緒する機会が多くなりました。そこでのお付き合いが増えた結果、「事業を一緒にやってみないか?」と声をかけてもらったんです。

 ちょうど30歳前半だし、なにかあっても方向転換できる。そう思って挑戦し、できた会社が株式会社インターグルーヴプロダクションズ。2014年に立ち上げたので、まもなく10年になります。

佐藤:当時アミューズから海外へ売り出していたアーティストはどんな人がいたんですか?

大田:PerfumeBABYMETALONE OK ROCKなどですね。いまは垣根なく色々な会社との付き合いがあり、SEKAI NO OWARIMrs. GREEN APPLEVaundy、Eveといった方々との付き合いが濃くなっていますが、やっていることはスタート時と変わらないですね。

・ミセス・セカオワVaundy 三者三様のライブプロデュースの関わり方

佐藤:日本のアーティストはどんなプロデュースを大田さんに求めているのでしょう?

大田:基本的にライブのプロデュースは、アーティストと1から一緒に曲や演出を決めていくやり方もあれば、アーティストが構想を決めて「こんなことをやりたいけど、どうしたらいい?」と相談から始まることもあります。

 たとえば、Perfumeの場合は演出振付家・MIKIKOさんやクリエイティブチームのライゾマティクスが関わるパッケージで、日本国内では通常1万人規模のLIVEを実施している。じゃあ、その国内のパッケージを元に、海外の2000~3000人規模の会場ではなにができるかということを考えるんですね。あとは海外のマーケットでは何がウケるかも大事になってくるので、そこの戦略も練ったり。

佐藤:やはりアーティストファーストなんですね。自分から提案できる人が売れる時代なのかもしれません。

大田:ますます加速していくと思います。

佐藤:コミュニケーションはどのように取るんですか?

大田:近年は直接アーティストと話すことがほとんどです。そして、ソロだったらわかりやすいけど、グループの場合は誰がインスピレーションを固めていくかが一番重要ですね。

佐藤:Mrs. GREEN APPLEにはいつから、どのように関わっているんでしたっけ?

大田:2018年頃からライブプロデュースで関わり始め、いまはアーティスト活動全体を支えるマネジメントに携わっています。ユニバーサルミュージックと連携しながら、僕は特にモノづくりや世の中に対する面白い仕掛けなどのクリエイティブ部分を担当しています。タイアップもこちらで動くときもあるので、総合的にご一緒している感じ。

佐藤:「こうしたい」と提案するのは大森元貴さんなのかな。

大田:彼のインスピレーションをみんなで膨らませていくことが多いです。2023年でいうと「結成10周年」というテーマがあって、なにか面白いことをしたいと。そこから「対バンををしよう」などのアイデアが出てきました。アイデアが出たらすぐに会場を抑えて、内容や対バン相手などを一緒に吟味して、ももいろクローバーZさんやPEOPLE 1、フジファブリックさんらとの「Mrs. TAIBAN LIVE」の開催に至りましたね。これは一例に過ぎませんが。

佐藤:彼らは2年間の活動休止を経て、2022年に「フェーズ2」として再始動しています。心機一転がプロデュースのミッションとしてあったのでは?

大田:そうですね……コロナ禍を含めて色々ありました。それが結果として花開いたのが昨年だったような気がしています。もともと一緒にライブを作りながら、「邦楽、ロックなどといったジャンルや概念にとらわれないスタイルをとっていて、どこか洋楽にある自由な雰囲気も持ち合わせているし、ミセスは日本だけで聴かれるべきではない」という意識がありました。活動休止についても伺っていましたし、今後のビジョンについてもかなり前から語り合っていました。

 ミセスは音源もライブのクオリティもずば抜けて高いし、どこか考え方が海外に近い。だから「邦楽」や「邦ロック」というカテゴリを崩して、総合エンタテインメントのアーティストとしてさらに幅を広げるのが次にやることだなと。その間のビルドアップを活動再開で発揮し、フルスロットルで駆け抜けたのが2023年だったのかなと思います。

佐藤:事前に目標を立てて動いていったの?

大田:もちろん。まだまだこれから控えていることはたくさんありますが、フェーズ2では総合的に仕掛けていこうという目標を掲げていました。その流れで「日本レコード大賞を取る」、「『紅白歌合戦』に出る」、「テレビで露出をする」などといったことは休止中から想定していた内容だったので、ひとまずそれらは昨年実現できてよかったです。もちろん色々なご縁を頂いたり、機運もあったと思います。

佐藤:SEKAI NO OWARIのライブ制作手法も気になります。

大田:そもそも彼らはいわゆるロックバンドという形態ではないので、エンタテインメント性が高く、存在自体がキャッチーで、、世界観がしっかりあり、いつも挑戦しがいがありました。特に記憶が強いのが、ドームツアーTarkus』の発表をした日に、Fukaseくんがすごい長文のストーリーをスタッフに送ってきた時です。あれは驚きましたね。

 そこに1から10まで描いてあるので、内容に沿って会場レイアウトを含めた全体演出の構成が進んでいきました。彼の強く明確なインスピレーションをどうエンタメとして拡大するかをみんなで考えたのは楽しかったです。いまではSaoriちゃんが台本を書きますが、当時は放送作家の鈴木おさむさんに脚本のお手伝いをお願いさせて頂きました。そこからまた一気にアイデアが広がって。大変でしたが、クリエイティブな仕事でした。

佐藤:Vaundyは?

大田:彼はこの新しい時代をまさにいま作っているアーティストで、かなりクリエイター気質な方だと思います。アーティストであると同時にデザイナーであり、確固たる感覚を持ちながら、「面白いと思ったらOK」というような間口の広さも持ち合わせています。クリエイターとしての秀逸な感覚値と考え方をもったトップアーティストで、これからが本当に楽しみです。

・アジアから海外進出する突破口

佐藤:大田さんから見て、世の中に刺さっている人の共通はなんですか?

大田:個人的に感じるのはなにかしらの反骨精神だったり、強い意志やバイタリティを持っているということでしょうか。世の中には色々な反応があるし、タイアップだったら起用する側の意見があるし、事務所の意見だってあるじゃないですか。だから自由に制作できない環境だったりすることもあるけど、そこに敢えて、きちんと自分達の正解を見いだして、作りたいものを提案して、それが結果としてヒットに繋がるというパターンが多い気がしてます。

佐藤:初めからそういうキャラクターの人が多いんですか?

大田:そうだと思います。特に最近はそのフェーズの若いアーティストと多く関わらせて頂いているので、そう感じるのかもしれません。大御所のアーティストだとまた違うはずです。

佐藤:なぜ若いアーティストが大田さんと仕事をしたがると思いますか?

大田:どうなんでしょうか(笑)。たまたまご縁があるとしか言いようがないですが、年齢的にも、海外を含めた経験値は多少はあるので、具体的な提案だったり意見交換がしやすいというのはあるかもしれません。僕が海外のアーティストを少なからず見てきた、見ているということがあるのかもしれません。

佐藤:海外を見ている点は共通していると。どんなアーティストを参考にしているんですか?

大田:時代によって変わっていきますが、これまでだとジャスティン・ビーバーテイラー・スウィフト、ケイティ・ペリー、The 1975などですかね。海外の方が圧倒的にアーティストがアイコンになっているし、やっていることがキャッチー。そういったアーティストの方々と実際にお仕事をさせて頂いた経験値は大きいと思います。

佐藤:意識しなくても海外に飛び出していく感じはありますね。いきものがかりも現在、海外のユーザの再生数が多くなってきています。

大田:洋楽の要素がありつつ、自由な構成を持つK-POPが垣根を壊したと思います。欧米はここ数年ボーイズ/ガールズグループが不在だった。

 そこに音楽的には最前線の洋楽で、ダンスもバキバキで現れたBTS。「アジアってカッコいい」というイメージが刺さった。マーケティング的には完璧ですよね。

・「自由に表現するという素晴らしさ」 ミセスが若年層に刺さる理由

佐藤:日本のアーティストは海外から見ると独特だから英語力が上がってコミュニケーションがもっと取れれば、もっと新しいものだと受け入れられるのかなと。

大田:もはやあとは言葉の壁だけかもしれない。

佐藤:令和生まれの子たちは日本だけではきついので、必然的に海外に行かざるを得ないと思います。

大田:昔はX JAPANLUNA SEAL'Arc-en-Cielなどのヴィジュアル系バンドが世界に進出し、、続いてPUFFYPerfumeBABYMETAL、ONE OK RCOKといったアーティストが次々に海外に進出していました。でもいま起きているのは、それとは別の流れに見える。J-POPにとってやっと本当のグローバル化が始まったと思っています。

 ただ音源、動画やデータだけではなく、人間が動く「ライブ」としてのコンテンツ拡大は改めて始まったばかりですから、人脈などはまだまだ開拓中ですね。もっと日本のアーティストには色々な選択肢やルートがあっていいはずなんです。だからいまは投資が必要だと思っています。

佐藤:20年後くらいが楽しみじゃないですか?

大田:いま感じている目に見えない垣根が無くなって、色々なことがもっとナチュラルになっているでしょうね。いまの子にはもう「アメリカンドリーム」が通じなくなってきてますし、どんどん「海外がすごい」という考えも薄くなっていくはず。

佐藤:逆に日本国内だとなにが人気に繋がっていると感じます? ミセスは音楽以外にもメイクなど色々な見せ方をしていますが。

大田:これは長らく考えていて、結果自分自身では気づけなかったのですが、様々なアンケートやヒアリングで聞いたことが実に面白くて「好きなことで自由に表現をしていることが素晴らしい、そして羨ましい」という思いが今の若い年代にあることなんです。これで自分も考え方が変わりましたね。

 恐らくいまの若い層の根源にあるのは「好きなように生きたい」ということなのかもしれないと思っています。だとしたら、いまこの時代を作っているアーティスト達ももっと色々なことを自由にやった方がいいと思いますし、それがもしかしたら、昨年のミセスの躍進の要因にもなっているのかもしれませんね。

佐藤:なるほど。今年はまた一緒に新しいことを形にできたらいいね。

大田:ぜひ認知を広めるメディアを含めた施策とかもやっていきましょう。

(取材・文=小池直也)

大田高彰×佐藤詳悟(撮影=林直幸)