多くの飲食店が働き手の確保に苦労している昨今、ユニークな取り組みでアルバイトのモチベーション向上を図っている居酒屋がある。

 ビール110円、ハイボール99円……思わず二度見してしまうような格安料金でアルコールを提供する「たんと③」。新宿歌舞伎町にある同店では投げ銭機能付きのセルフオーダーアプリを2022年6月より導入している。

◆「投げ銭」で変化した働く意識

 アルバイトスタッフのだいちさん(20代)は「厨房と店内を行き来する回数が激減しましたし、オーダーミスもなくなったので、以前よりも働きやすくなりました」とセルフオーダーアプリ導入を振り返るが、投げ銭システムには懐疑的だったという。

「いろいろな居酒屋で働いてきましたが、チップをもらったことはありません。店長に言われるがまま、チップの価格を設定しましたが、正直、もらえるとは思っていませんでした(笑)」

 だが、アルバイト仲間が投げ銭を実際にもらったことで、だいちさんの働く意識にも変化が起きる。

「『がんばっていたから贈っておいたよ』と、プレゼントしたお客さま自身も会話のきっかけになって楽しそうでしたし、お客さまに頑張りを認められたうえで、たとえ少額でもお金をいただけたらうれしいですよね。

 新しくアルバイトに入ってくれた子たちにも、『がんばったぶんだけ給料が増えるかもしれないよ』と説明すると、よりやる気になってくれるのも印象的です」

◆過去には1日で2万円以上を稼いだ経験も

 もともと会話が好きで、長年、居酒屋アルバイトを続けているというだいちさん。コロナ禍が落ち着きを見せた昨今、店を訪れた人たちと積極的に話すようにしているそうだ。

「僕は俳優業の傍ら、複数のアルバイトを掛け持ちして生計を立てているのですが、先日、俳優の夢を応援してくれている常連客の方が友人を連れて大人数で来店してくれました。

そこでいろいろお話したところ会話が弾み、アルコールも進んで財布の紐もゆるくなったのか、多くの方が贈ってくれたんです」

◆求人に悩む飲食業界の新たな選択肢に?

 その総額はなんと2万円以上。通常の時給が1200円で、だいちさんは1日8時間勤務なので、1日9600円。投げ銭だけで、2日以上分の稼ぎになったのは、非常に夢のある話だ。

「大金をもらえることは滅多にありませんが、いただけるなら100円でもありがたい。週5日働いて毎回100円もらえれば、月に2000円も給料がアップしますから。投げ銭を気軽に贈ってくれる常連客や、夢を応援してくれる人が増えれば、給料をさらに伸ばすこともできると思います」

 配信者への投げ銭が当たり前になりつつある今、飲食業の店員への理解が今後広まれば、アルバイト不足が解消されるうえ、働き手も時給以上に稼げる可能性も。求人に悩む飲食業界の新たな選択肢になるかもしれない。

<取材・文/黒田知道 取材協力/たんと③(東京都新宿区歌舞伎町2-45-13 フソウビル)>