新しいシーズンの幕開け、それは昨シーズンを称える賞レースの始まりでもある。特に今季は、2023年にハリウッドで起きた歴史的なストライキの影響で、通常であれば昨年中に行われるはずだったイベントのいくつかが後ろ倒しになったこともあって、2024年1月のロサンゼルスはいつになく華やかで騒がしいものに!第81回ゴールデン・グローブ賞授賞式(1月7日開催)、第29回クリティクス・チョイス・アワード(放送映画批評家協会賞)授賞式(1月14日開催)、第75回プライムタイムエミー賞授賞式(昨年9月開催予定だった延期分で1月15日開催)、そして第66回グラミー賞授賞式(2月4日開催)のレッドカーペットから、今年のトレンドになりそうなファッションをご紹介!

【写真を見る】たっぷりのフリルで魅せたジェニファー・ロペス。今年のレッドカーペットから、センス抜群なスタイリングを紹介!

■女子らしさ全開!“ガールコア”

1月に開催された3つの授賞式でのレッドカーペットウォッチしている限りでは、最も流行っていたのはレッドのようだが、2024年前半に来そうなのは、“ガールコア”なカラー。ガールコアとは、女子らしさを堪能するファッショントレンドのこと。カラーパレットとしてはベビーピンクがその代表で、このトレンドに欠かせないのが、リボンやフラワーといったモチーフだ。

これぞ、ガールコア!なボールガウンを選んだ、ゴールデン・グローブ賞でのジェニファー・ロペスウェディングドレスをメインで発表している姉妹デュオデザイナーのブランド、ニコルフェリシア・クチュールをチョイス。アイメイク、リップ、そして合わせたブシュロンのジュエリーやアクセサリーも、潔くピンクで統一。ピンクによる可愛さって、永遠!

ゴールデン・グローブ賞でのハンター・シェイファーは、ベビーピンクが愛らしいカスタムメイドプラダで来場。オリジナルは、ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズによって発表された2024年春夏のランウェイのもの。シアーで軽やかな雰囲気はオリジナルそのままに、長くセパレートになった丈が、彼女の登場をよりドラマティックなものに。

『哀れなるものたち』でゴールデン・グローブ賞の主演女優賞を獲得したエマ・ストーン。フラワーが散りばめられたシアーでヌーディなドレスは、カスタムメイドルイ・ヴィトン。装飾を最小限に抑えているのにあふれ出る自信と魅力による輝きが、まさに満開!といった様子。

ゴールデン・グローブ賞でのナタリーポートマン。ストラップもフラワーシェイプになっている可憐なガウンディオールのオートクチュール。デビアスのジュエリーを合わせた。

ゴールデン・グローブ賞でのエリザベス・オルセン。コルセットスタイルの胸元、ヒップと腿、そして裾のレースの部分にフラワーをあしらったドレスは、ヴィヴィアン・ウエストウッド。耳元にもフラワーモチーフのジュエリーをコーディネート。

ゴールデン・グローブ賞でのジリアン・アンダーソン。ヘアを“たわわ”にして、女性らしさを演出するとともに、切りっぱなしのような裾がユニークなガブリエル・ハーストのドレスは、女性器をモチーフにしたフラワー刺繍が施されている。ミニマルというかシンプルにみえて、24年は女性性の開花がテーマであろう!とおもわず深読みしたくなるほどの、ディテールにこだわりが詰まったさすがのルックを披露。

2023年に放映されたドラマの中で、ぶっちぎりの人気と話題をさらったA24制作によるNetflixのドラマ「BEEF/ビーフ~逆上~」に出演したアリ・ウォンは、どの授賞式でも引っ張りだこ。ゴールデン・グローブ賞でのホワイトドレスもすてきだったけれど、CCAエミー賞では、フラワーを取り入れたドレスで登壇した。いずれも、おろすことで一層魅惑的になる豊潤な黒髪を魅せつつ、花といっても寒色のカラーパレットでまとめることで、単なるキュートにとどまらない、アジア人に合うKawaiiらしさを表現した。

昨シーズンより、各所ですばらしいコーディネートを披露しているエル・ファニングは、ゴールデン・グローブ賞でも、トレンド先取りのガールコアなリボンが主役のドレスをチョイスヴィンテージ、バルマン(現在のデザイナーであるオリヴィエ・ルスタンではなく、創設者のピエール・バルマンによるもの)のボールガウンには、リボンのスウィートさを引き立たせるために、シャープな印象にまとめたヘアスタイルとポインテッド・トゥ(つま先がとんがったシューズ)を合わせるあたりが、かなりのスタイル上級者!

全身ガールコアでまとめたのは、グラミーでのラナ・デル・レイ。ヘッドピース、ウエストマーク、グローブ、シューズにはリボンを。フラワーがあしらわれたレースのドレスは、ヴィンテージのものだそう。シアーでパフィーなショルダーが抜け感を演出している。

CCAでのエリザベス・デベッキ、ゴールデン・グローブ賞でのクリスティン・ウィグ、エミー賞でのスキ・ウォーターハウス。彼女たちのルックに共通しているのは、リボンのコーディネートに技ありテクニックが効いているところ。デベッキは、ゴールデン・グローブ賞での柔らかスタイルとはうってかわって、ウエストのブラックリボンに合わせアイメイクもクールに。

ウィグの場合は、オールブラックにまとめた代わりに、バストにあしらわれたリボンが甘さを演出している。

ウォーターハウスのルックは、中央に鎮座するリボンは主役ではなく、あくまでも幸せ度と比例するおなかの引きたて役として存在しているのだ。

スパイダーマン」シリーズ出演などで知られるドナルド・グローヴァー、今回のエミー賞授賞式でのホストを務めたアンソニーアンダーソン、そしていま最もホットなセレブのうちの1人、ペドロ・パスカルの3人に共通するのは、いずれもエミー賞でのルックへ“ガール”コア要素を取り入れたことだ。グローヴァーが、スリッポンにも見えるフラットなシューズに合わせたのは、丁寧に花が刺繍されたベルベット素材のセットアップ。

アンダーソンは、ユリのデザインが華麗さを演出する一方、エトロのスーツ含む全体のスタイリングは、王道を踏襲しているから奇抜に見えない。

3つの授賞式に、怪我の影響でアームスリング(腕を吊る“三角巾”)姿で参加したパスカルだが、そのどれもがおしゃれなアクセサリーとなっていって、話題をさらっていた。特にスタイリッシュだったのが、エミー賞で着用したメゾンヴァレンティノのトップスと合わせたもの。セレブ・ヘアスタイリストのココがアップしたインスタの写真が一番わかりやすいのだが、トップスの袖同様、スリングにはフラワーがあしらわれている。ガールコアは、女性だけのトレンドではないのだ!

■スタイリッシュな“ハンサム”スタイル

ガールコアなどを通じて、女性が真正面から女性らしさを打ち出す一方で、むしろメンズライク、ハンサムなファッションを身にまとうことで出せる、オンナならではの色気の表現がとても今っぽい。レッドカーペットに出席するセレブでなくても、そんなスタリッシュさをすぐに取り入れられるアイテムが、ジャケットだ。

賞レースの最前線に常にいる大御所アクトレスたちが、こぞってゴールデン・グローブ賞で選んだのは、ドレスではなくジャケット。メリル・ストリープはヴァレンティノ、アネット・ベニングが選んだのは、ドルチェ&ガッバーナだ。

ディズニー映画『ウィッシュ』で声優を務めたアリアナ・デボーズは、エミー賞に出席。オフホワイトなヌーディーカラーでまとめたルックは、ウィメンズよりはメンズラインのほうに定評のあるブルネロクチネリのもの。合わせたジュエリーはデビアスのものだそう。メンズライクなスタイリングとして、全体のコーディネートを引き締める役割を果たしているのは、オメガウォッチだ。

各授賞式でメインのアワードを総なめにしているコメディドラマシリーズ「一流シェフのファミリーレストラン」で、主演女優を務めるアヨ・エデビリが、ゴールデン・グローブ賞やエミー賞のレッドカーペットよりも、少しだけユルいCAAでチョイスしたのは、オルセン双子の手掛けるザ・ロウのオールホワイトのセットアップスーツ。全体のスタイルをまとめるのに一役かっているアイウェアは、オリバーピープルのものだ。

コートニー・カーダシアンとトラヴィス・バーカー夫妻は、ラペルの大きいタキシードのペアルックでエミー賞へ参加。コートニーのボトムの丈を含むラインやファッションについてよりもフォトコール(写真撮影)中にキスしまくる様子の方が話題になるなど、ツッコミたくなるポイントはあるものの、レッドカーペットにおけるメンズスタイルの定番であるタキシードルックを選ぶという遊び心はアリ!さすがのカーダシアンファミリー、トレンドの最先端を走ってます。

HBOで放映されたヒューマンならぬゾンビドラマ「ザ・ラスト・オブ・アス」でペドロ・パスカルとともに主演を務め「ゲーム・オブ・スローンズ」以来の代表作を得たベラ・ラムジーは、3つの授賞式へ、いずれもメンズライクのクールなスタイリングで出席。ゴールデン・グローブ賞とエミー賞では、ジャケットのシルエットが美しいプラダCCAではトム・ブラウンチョイスした。トム・ブラウンでは、淡い色で柔らかさを醸し出すが、ぼんやりした印象にならないように、ネクタイをすることで洗練さを加えている。

2月18日から来日ツアーを敢行するボーイジーニアスは、見事「最優秀ロック・パフォーマンス」など 3部門を受賞した。ジェンダーについて揶揄する意味をもつバンド名同様、ハンサムなファッションを得意とする話題の3人組は、お揃いのトム・ブラウンのスーツで登壇。昨今あまり見かけないアームバンドといったメンズのファッションアクセサリーを取り入れる感じも、とてもモダンだ。

■シンプルだからこそ光るセンス。メンズのデコルテ

ヨーロッパでは、1月の第2週からメンズのファッションコレクションが始まっている。昨年から大流行のクワイエット・ラグジュアリー(派手やあからさまではないが高品質なものを身に着けるトレンド)は、今季もしばらく続くよう。そのトレンドを受けて、伝統的やクラシックなスタイルが注目のメンズファッションなのだが、それと逆行するような兆候をレッドカーペットでは発見。授賞式でのメンズのドレスコードといえばブラックタイなので、ボウタイまでいかなくても、せめてタイは締めるのがお約束。ところが、タイどころかシャツのボタンをとめず、デコルテやチェストまで見せるセレブがたくさんいて、メンズのデコルテ事情は変化している様子!そのなかでも、シンプルだがスタイリングを格上げするネックレスを身につけたセレブたちをピックアップ。このスタイルは、ストリートで流行りそう!

ゴールデン・グローブ賞でのティモシー・シャラメ。エディ・スリマンのセリーヌ・オムにカルティエを合わせた。

マット・ボマーゴールデン・グローブ賞ではブリオーニ、CCAではベルルッティをセレクト

1963年にキング牧師とワシントンでの大行進を主導した伝説の活動家、バイヤード・ラスティンを描いた『ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男』(Netflix)での好演が評価されたコールマン・ドミンゴカスタムメイドのヴァレンティノのゴージャスなルックで。

山田太一の原作を映画化した『異人たち』で主演を務め、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされたアンドリュー・スコット。セットアップはヴァレンティノ。アクセサリーはティファニーで、シューズはクリスチャン ルブタンだそう。

全世界でバズっている話題作『Saltburn』(Prime Videoで配信中)に出演したバリー・コーガン。開襟はしていないものの、タイの代わりにつけたネックレスがスタイリッシュ。コーガンの個性を引き立たせるオールレッドのルックは、ルイ・ヴィトンのもの。

2月10日ニューヨークで行われたトミーヒルフィガーのファッションショーで、サプライズゲストとしてパフォーマンスし、話題をさらったジョン・バティステ。襟のデザインをシルバーのネックレスで強調させたグラミーでのルックは、アトリエ・ベルサーチェのもの。スカートや同じシルバーで統一したバシュロン・コンスタンタンウォッチなど、どれもスマートでスタイリッシュ。プレゼンターを務めたゴールデン・グローブ賞でも、このトレンドルックを披露。ブラックのシャツやジャケットを際立たせているのは、ティファニーのシルバージュエリー。惜しくもグラミー受賞はならなかったものの、レッドカーペットでのベスト・ルックの称号は得たようだ。

文/八木橋恵

賞レースから読み解く、 2024年のファッショントレンド/[c]SPLASH/AFLO