業界・マーケットリーダーを模倣する「フォロワー型経営」は、昨今のような不確実性の高い時代に適したものとはいえません。とくに「経営の自由度」を最大の特長とする非上場オーナー企業は「フォロワー型経営」を採用すべきではなさそうです。本稿では、企業の経営変革を支援する株式会社TS&Co.の創業者兼代表取締役グループCEOである澤拓磨氏が、いくつかの経営類型について概観しながら、非上場オーナー企業が「フォロワー型経営」から脱却するためのポイントを解説します。

"競争弱者"企業が採用しがちな「フォロワー型経営」とは何か

結論から述べると、フォロワー型経営とは「業界・マーケットリーダーの模倣を基本方針とする経営」のことだ。ビジョン・戦略をはじめとする企業の方向性を、業界・マーケットリーダーの動向に、原則、委ねるのである。

一般的に、フォロワー型経営を採用する企業は、参入している市場におけるシェアが低く、低利益率、経営資源は少量・低質と他プレイヤーに劣後する競争弱者である。

そうした自社の競争ポジションを知ってか知らずか、フォロワー型経営を採用する企業は生存をめざし、市場のゲームメイカーである業界・マーケットリーダーの模倣を試みるのだ。

そして多くの場合、たとえ生存に成功したとしても、市場シェアが高まることも、低利益率が改善されることも、経営資源の量と質が競合を上回ることもない。そればかりか、資本主義の原理原則である拡大再生産の影響を受け格差は広がるばかりで、すべてが後手に回ることとなる。

では、どうすれば良いのか?この問いに解を見出すために、そのほかの競争ポジションにある企業が採用する経営類型についても概観しておこう。

リーダー型経営

リーダー型経営とは「業界・マーケットリーダーとして他競争ポジションにある企業の同質化・差別化阻止を基本方針とする経営」のことだ。ビジョン・戦略をはじめとする企業の方向性を自ら構想し創りたい未来を拓いていく。

一般的に、リーダー型経営を採用する企業は、参入している市場のシェアがNo.1であり、高利益率、経営資源も多量・高質と相対的に秀でた強者である。

従って、リーダー型経営を採用する企業は、さらなる市場シェア拡大及び市場拡張をめざし、自社の市場シェア拡大を脅かす可能性ある競合の同質化・差別化阻止を試みる。油断や慢心をせず、破壊的イノベーション等へも適切に対応し、市場シェアを維持することができれば、資本主義の原理原則である拡大再生産の影響を受けて強者はより強者となる。

チャレンジャー型経営

チャレンジャー型経営とは「業界・マーケットリーダーが模倣困難な強みで勝つを基本方針とする経営」のことだ。

ビジョン・戦略をはじめとする企業の方向性を、対業界・マーケットリーダーを強く意識し自ら構想し、創りたい未来を拓いていく。一般的に、チャレンジャー型経営を採用する企業は、参入している市場のシェアがNo.2やNo.3であり、低利益率、経営資源は多量・低質であるリーダーに次ぐ強者である。

従って、チャレンジャー型経営を採用する企業は、業界・マーケットリーダーからの市場シェア奪取をめざし、業界・マーケットリーダーが模倣困難な強みを活かした大胆な戦略を実行するゲーム・ブレイカー、ゲーム・チェンジャーだ。当該戦略の成否が今後の明暗を分ける。

ニッチャー型経営

ニッチャー型経営とは「業界・マーケットにおいて差別化を図り独自のポジションを確立することを基本方針とする経営」のことだ。ビジョン・戦略をはじめとする企業の方向性を、競合との差別化を強く意識し自ら構想し、創りたい未来を拓いていく。

一般的に、ニッチャー型経営を採用する企業は、参入しているニッチ市場ではシェアがNo.1であり、高利益率、経営資源は少量・高質と、ニッチ市場における強者である。

従って、ニッチャー型経営を採用する企業は、競合との差別化を図り独自のポジションを確立することに集中し、ニッチ市場No.1を維持し続けるゲーム・メイカーだ。差別化の方向性が今後の明暗を分ける。

フォロワー型経営はVUCAの時代と相性最悪。舵取りを放棄するな

「VUCA」の時代といわれて久しい。VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、しばしば現在の経営環境をそう呼ぶ。

このVUCAの時代とフォロワー型経営は、相性が最悪だ。

前述の各競争ポジション別経営類型でみた通り、フォロワー型経営のみ受動的な経営(業界・マーケットリーダーの模倣を基本方針とし方向性を業界・マーケットリーダーの動向に、原則委ねる)なのだ。まさにこの点が、VUCAの時代とフォロワー型経営が相性最悪である所以だ。

VUCAの時代の経営は、業界・マーケットリーダーといえども、数多の失敗を経験しながら前進していくこととなる。そんななか受動的な経営を採用することは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)が常態化した経営環境における舵取りを放棄し航海していくことを意味する。

ここで注意しなければならないのは、業界・マーケットリーダーは仮に針路を誤ったとしても、高利益率、経営資源も多量・高質を誇る強者であり、多少の針路の誤りは痛くも痒くもないが、フォロワー型経営を採用する企業にとっては致命傷となり、たちまち窮地に陥りかねないことだ。

そして、窮地に陥った自社を救済してくれるプレイヤーは基本的には存在しない。なぜなら、フォロワー型経営を採用する企業は、参入している市場におけるシェアが低く、低利益率、経営資源は少量・低質と他プレイヤーに劣後する競争弱者であり、他競争ポジションにある企業からみて、たとえばM&Aの対象とはなりにくいからだ。

非上場オーナー企業がフォロワー型経営から脱却するための要諦

VUCAの時代においてフォロワー型経営を志向することは、非上場オーナー企業においても得策ではない。

それどころか、非上場オーナー企業の最大の特長である「経営の自由度(非上場のため株主からの株価上昇期待は相対的に低く、オーナー企業のため独断専行も選択肢として取りうる)」を有効活用するためには、フォロワー型経営からの脱却は急務といえるだろう。

では、非上場オーナー企業はフォロワー型経営からどのように脱却したら良いか?要諦に絞り解説する。

要諦1:「我々は何者か」の再発見

フォロワー型経営を採用する企業は「我々は何者か」を見失っている場合が多い。従って、非上場オーナー企業がフォロワー型経営から脱却するための出発点は「我々は何者か」を再発見することだ。

具体的には、過去・現在・未来の時間軸における経営評価と構想を行い、自社の実力・真価・アイデンティティ(らしさ・ならでは)を抽出することが重要だ。いまはフォロワー型経営を採用する企業も、創業期から同様の経営を志向していたのではなく、何らかのきっかけによりフォロワー型経営に行き着いているはずである。

従って、一度原点に立ち返り自社らしさ・ならではを探求していくことが求められる。認知バイアスを排除すべく、外部アドバイザーを起用して第三者視点を取り入れることも有効だろう。

要諦2:外部環境の変遷を見極めコア・コンピタンスと価値創造ストーリーの再発見

外部環境の変遷を見極めコア・コンピタンスと価値創造ストーリー(価値創造プロセス[事業を通じ資源・資本を交換・増減・変換するプロセス]にストーリー性を持たせ説明したもの)を発見する際は、過去・現在・未来の時間軸における政治・経済・社会・技術の各分野の変遷、変化の方向性、課題(需要)を把握する。

そして、外部環境の変化の方向性と課題に自社をケイパビリティ(戦略の源泉となる「希少」で「模倣困難[できない・やらない等]」な活動力。ベストを目指すことで強化される)と、ポジショニング(戦略の源泉となる「差別化」された事業の位置取りのこと。ユニークを目指すことで強化される)の2つの切り口で照らすことで自社固有のコア・コンピタンスを発見する。

最後に、どんな機会と脅威に発見したコア・コンピタンスを活用していくべきか検証し、価値創造モデル(インプット→プロセス→アウトプット→アウトカム→インパクト→トランスフォーメーションの流れを図式化したもの。事業ポートフォリオ戦略、サステナビリティ貢献、事業ビジョン*等の構想含む)や成功事例として形式知化しながら、価値創造ストーリーを再発見する。

*事業ビジョン……事業のあるべき姿。事業を通じた課題解決、世界の持続・Well-being(如何なる瞬間も完全に良好と感じられる状態)への貢献、世界になくてはならない等が事業ビジョンの必要条件。必要条件を満たす事業ビジョンはAspiration(志。利他+利己)と言われ、満たさぬ事業ビジョンはAmbition(野心・野望。利己)と言われる。

要諦3:事業ポートフォリオ戦略と参入事業の競争戦略の構想

事業ポートフォリオとは自社が所有・経営している事業群のことであり、一般的に、事業ビジョンの実現、全社企業価値最大化、リスク(不確実性)分散を目標に組成される。

事業ポートフォリオ戦略は、まず「事業ビジョン実現」「全社企業価値最大化」「リスク分散」の3つの切り口で現状の事業ポートフォリオを評価し、既存(コア・ノンコア)事業、シナジー創出事業、企業価値創造(ROIC>WACCとなる事業)・破壊(ROICWACCとなる事業)事業、コングロマリット・ディスカウント(プレミアム)創出事業、リスク分散効果創出事業等を炙り出す。

次に事業ビジョン実現、全社企業価値最大化、リスク分散を実現する事業ポートフォリオへの再編に向け、各事業領域に対する方針(成長投資、維持・自立、リストラクチャリング[分割・統合等]、縮小、再生、売却、撤退・清算、新規投資等)を固める。

これらの方針に基づき、最後に多角化を企図した成長戦略やリスク分散を企図したリスク最適化戦略(リスクの性質が異なる事業への新規投資)の実行等を検討するのだ。

この検討の結果定まった事業ポートフォリオ次第では、フォロワー型経営で模倣相手とみなしていた現参入事業における業界・マーケットリーダーは、今後模倣相手ではなくなる可能性もある。

そうなれば、新たに参入する事業に最適化された競争戦略をゼロベースで検討していくことで、フォロワー型経営から脱却できるだろう。

以上、非上場オーナー企業がフォロワー型経営から脱却するための要諦に絞り解説した。繰り返しになるが、VUCAの時代においてフォロワー型経営を志向することは得策ではない。

脱却後の理想像(リーダー型経営、チャレンジャー型経営、ニッチャー型経営のいずれか)については、要諦1~3を熟考することで、自ずと最適解を見いだせるはずだ。

必要に応じ、認知バイアスの排除や足りない経営知見等を充足すべく、外部アドバイザーも起用しながら、フォロワー型経営からの脱却を図りたい。