昨年75歳以上の人口が2,000万人を超えるなど、超高齢社会を突き進む日本。国民のほとんどが介護する側・される側のどちらかになる“1億総介護時代”になる日もそう遠くありません。こうしたなか、なくてはならない職業が「介護福祉士」です。しかし、その給与額が実情に見合っていないと、医師の秋谷進氏は警鐘を鳴らします。今回は、介護福祉士の給与が上がらない理由とその背景についてみていきましょう。

高需要も“3K”で人が集まらない…深刻な「介護福祉士」の実態

日本はどんどん高齢化が進んでいます。2023年には、75歳以上の人口が初めて2,000万人を超え、国民の「10人に1人」が80歳以上となりました。

また、日本の高齢者人口の割合は29.1%と、世界最高水準です。

このような超高齢社会のなか、なくてはならない職業のひとつが「介護福祉士」でしょう。年齢を重ね、自分でできることが少しずつ減ってくる高齢者にとって、これをサポートしてくれる介護福祉士の存在は不可欠です。

一方で、介護職というと労働環境が厳しいことで有名です。その厳しい労働環境から「3K(きつい・汚い・危険)」と呼ばれることが少なくありません。

介護福祉士は、高齢者の食事介助やレクリエーションだけでなく、トイレからお風呂まで、生活のすべてをサポートしているためです。

このように、非常に心身を酷使する仕事であるにもかかわらず、介護福祉士の給与は実情にあっていないようです。どうしてこのような状況に陥っているのでしょうか。

介護福祉士の年収は381万円と、日本人の平均より低い

厚生労働省の「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」によると、令和4年現在の介護福祉士の基本給は月額23万9,800円〜24万790円となっています。

賞与などを含めた平均給与額は月額31万7,640円〜31万8,230円と、年収に直すと381万円程度です。男女別にみると、男性:月額33万4,250円(年収401万円)、女性は月額30万8,880円(年収:371万円)となっています。

他方、一般的な日本人の給料をみてみましょう。国税庁の「令和4年分民間給与実態統計調査」によると、給与所得者の平均年収は458万円となっています。男女別にみても、男性が563万円、女性が314万円です。

したがって、介護福祉士の年収は労働者平均より17%程度低いということがわかります。前述のとおり非常にきつい仕事であり、高齢化が進むにつれてますます重要視されるべき仕事なのにもかかわらず、どうして介護福祉士の給与は低いのでしょうか。

介護福祉士の給料が上がらない「2つ」の理由

介護福祉士の給料が低い理由はいくつか考えられますが、主なものは下記の2つです。

1.医療や福祉自体が「給料が上がりにくい」産業だから

まず大前提として、医療・福祉業界が「給料が上がりにくい」産業です。

国税庁の「民間給与実態統計調査」をもう少し詳しくみてみましょう。同資料では業種別の平均給与も記載されていますが、医療福祉業界全体でも平均給与は409万円と、労働者全体の平均給与458万円より低い値となっています。

ちなみに、一番高い産業は「電気・ガス・熱供給・水道業」で747万円です。なんと、300万円以上もの差があります。

介護保険に「支給限度額」があるから

医療における保険と同様、介護にも「介護保険」といい、介護サービスを受けるために国から補助を受けられる制度が存在します。

しかし、実は、この介護保険は「どれくらいの介護が必要か」によって支給限度額がそれぞれ下記のように定められているのです。

●要支援1……50,320円

●要支援2……10万5,310

●要介護1……16万7,650円

●要介護2……19万7,050円

●要介護3……20万7,480円

●要介護4……30万9,380円

●要介護5……36万2,170円

要支援は自分の身の回りのことはひととおりできて、軽度の支援が必要なレベルですが、要介護5になるとほとんど寝たきりで、食事や排せつなど生活にかかわるほぼすべての動作に介護が必要な状態です。

もちろん、限度額を超えてサービスを享受することも可能ですが、料金が高額であることから、基本的にはこの限度額に収まるように介護サービスを選ぶ場合がほとんどでしょう。

つまり、介護事業ではだいたいの「収入の上限」が見えている、というわけです。

もちろん被介護者が増えれば増えるほど企業としては収入が増えるわけですが、介護が必要な人が増えればそれだけ職員も必要になりますから、当然人件費も増えます。

介護は体力仕事であることも多く、人の命や生活がかかっていますから、1人で大勢をみるというわけにはいきません。となると、1人あたりの給料がなかなか上がらないという事態になってしまいます。

ベースアップ+能力のある職員はさらに上乗せ…国がすすめる「加算」制度

政府はこうした現状を改善すべく、介護職員の基本給を上げるためのさまざまな取り組みを行っています。

その1つが「介護職員等ベースアップ等支援加算」です。これは、令和4年10月の介護報酬改定(臨時改定)をきっかけに創設されたしくみで、介護職員に対して3%程度(月額 9,000 円相当)給与を引き上げるためにつくられました。また、介護職員以外の職種にも配分することが可能な加算であり、柔軟性が強い加算として注目を集めています。

加えて、「介護職員処遇改善加算」といって、処遇改善を目的として月額1.5万円〜3.7万円が国から介護事業所へ支給される制度があるほか、「特定処遇改善加算」という、経験や能力のある介護職員に対してさらに上乗せされる制度もあります。

このように、国はさまざまな加算制度を通して、介護福祉士の給料を上げようという試みを行っています。一方、こうした加算を取得しない(=制度導入に取り組んでいない)施設が10%程度あるようです。

その理由としては、「賃金改善のしくみを設けるための事務作業が煩雑」「計画書や実績報告書の作成が煩雑」「賃金改善の仕組みの定め方が不明」といったものが挙げられます。

しかし、職員の処遇改善は施設の安定的な運営において必須です。こうした制度の力を借りながら、給与のベースアップと人員の安定的な確保に動くことが急務でしょう。

まとめ…介護業界の“あたりまえ”を変えるために

高齢化が進むなか、ますます重要度が増す介護福祉士。一朝一夕では叶いませんが、「介護福祉士の給与=高いのが当たり前」となるように、私たちは高齢者と介護業界をともに支えられるだけの「新しいシステム」を作る必要があるといえます。

いま、日本は介護において1つの「転換期」を迎えているのではないでしょうか。

秋谷 進

医師

(※写真はイメージです/PIXTA)