「寝ぼけた目をスッキリさせてくれる朝のコーヒーや、心を落ち着かせてくれる昼食後のコーヒーは欠かせない」という人は少なくないでしょう。

ちょっとしたコーヒーブレイクがあるだけで、心には余裕が生まれるものです。

そして、過酷な環境で生活する宇宙飛行士たちにも、そんな心休まる時間が必要です。

しかし、無重力下では「いつものように」コーヒーを飲むことはできません。

そこでNASAは、無重力下でもコーヒーを飲むための特殊なカップを開発しました

目次

  • 宇宙では、「いつもの」コーヒーブレイクを楽しめない
  • 無重力下でもコーヒーを楽しめる「スペースカップ」

宇宙では、「いつもの」コーヒーブレイクを楽しめない

コーヒーブレイクは心の余裕を生む大事なひととき
コーヒーブレイクは心の余裕を生む大事なひととき / Credit:Canva

国際宇宙ステーション(ISS)などの無重力下(正確には微小重力下)でも、コーヒーを飲むことはできるのでしょうか。

もちろん、簡単に飲むことができます。

他の飲料と同じく、パックの中にコーヒーを閉じ込め、ストローで吸えばよいのです。

しかし、ISSに1年余り滞在したNASAの宇宙飛行士ドナルド・ペティット氏は、「パックとストローで液体を飲むことは、それほど楽しいものではない」と伝えています。

「コーヒーを飲む」ことに関しては、特にそう言えるかもしれません。

私たちがコーヒーブレイクに求めているのは、ただコーヒーを胃の中に流し込むことではないのです。

まずコーヒーの注がれたカップを持ち上げて香りを楽しみます。

次にカップを傾け、“ズズズッ”とコーヒーをすすり、ホッと一息つく。

この一連の動作がとても大切なのです。

「いつものように」カップを傾けてコーヒーを飲むには、重力が必要。
「いつものように」カップを傾けてコーヒーを飲むには、重力が必要。 / Credit:Canva,ナゾロジー編集

しかし、「カップを傾けて飲む」という動作は、上図のように重力のある環境だからこそできることです。

重力が働くからこそ、カップを傾けてもコーヒーの面は水平を保っており、私たちは、カップの縁からこぼれそうになるコーヒーをすすることができるわけです。

また無重力下では、カップにコーヒーを注ぐことはできても、コーヒー(液体)は、カップの壁を濡らしながら、外にはい出てしまいます。

注ぐ勢いが強ければ船内のあちこちに水球が飛び散ることもあるでしょう。

カップにへばりつくコーヒー(左)と、カップの外にあふれ出て船内をさまようコーヒー(右)
カップにへばりつくコーヒー(左)と、カップの外にあふれ出て船内をさまようコーヒー(右) / Credit:SciNews(YouTube)_How to Drink Coffee in Space – ISSpresso & Zero-G Coffee Cup(2015)

もしくは、表面張力により、液体がカップの底や内側に張り付いたたまになり、カップを傾けてもなかなか飲むことができないかもしれません。

つまり宇宙飛行士たちが「いつものように」コーヒーブレイクを楽しむことは簡単ではないのです。

それでもNASAは、「スペースカップ」と呼ばれる特殊なカップを開発することにより、無重力下でも「カップを傾け、コーヒーをすする」ことを可能にしました。

無重力下でもコーヒーを楽しめる「スペースカップ」

NASAが開発したスペースカップ
NASAが開発したスペースカップ / Credit:NASA / Rochester Institute of Technology

NASAが開発したスペースカップ(またはキャピラリーカップ)は奇妙な形状をしていますが、この形状には宇宙でコーヒーをすするための秘密が隠されています。

このカップは、表面張力によって液体が細い隙間を移動する「毛細管現象」を利用しています。

毛細管現象の身近な例としては、細い管の中を重力に逆らって水がのぼることや、ティッシュに水がしみ込んでいくことなどが該当します。

そしてスペースカップでは、飲み口に向かって全体の形状が細くなっているのが分かりますね。

スペースカップでは、この細い部分で、表面張力の作用により毛細管現象が起こるようになっています。

スペースカップで「すする」宇宙飛行士
スペースカップで「すする」宇宙飛行士 / Credit:NASA(YouTube)_Open Science: Space Coffee Cup(2016)

結果として、重力が無くても、コーヒーが飲み口に流れていくのです。

後は、少し広がった飲み口にたまるコーヒーを「ズズズッ」とすすることで、まるで地上にいる時のようにコーヒーを楽しむことができるというわけです。

またスペースカップを用いると、パック+ストローではあまり感じられなかった「コーヒーの香り」も楽しむことができるのだとか。

もちろん、その涙型の縁と全体の形状により、慎重にコーヒーを注ぐなら、コーヒーがカップからあふれ出ることもありません。

そしてこの発明は特許も取得されており、現在ではプラスチック製のほかに陶磁器製のスペースカップも存在するようです。

陶磁器製のスペースカップ。宇宙でコーヒーを楽しむのにぴったり
陶磁器製のスペースカップ。宇宙でコーヒーを楽しむのにぴったり / Credit:NASA / Rochester Institute of Technology

無重力下でもカップでコーヒーが飲めるなんて素敵ですね。

次にコーヒーブレイクを楽しむときには、宇宙ステーションにいる宇宙飛行士たちのことを思い出してみてください。

ISS 内で、スペースカップを使ってコーヒーを飲むイタリアの宇宙飛行士サマンサ・クリストフォレッティ
ISS 内で、スペースカップを使ってコーヒーを飲むイタリアの宇宙飛行士サマンサ・クリストフォレッティ / Credit:NASA / Rochester Institute of Technology

過酷な環境にいる彼らも、私たちと同じようにカップを傾けてコーヒーをすすっており、ほっと一息ついているのかもしれません。

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参考文献

NASA engineered a cup to drink coffee in zero gravity
https://www.zmescience.com/future/nasa-cup-zero-gravity/

NASA: Capillary Cup
https://www.rit.edu/vignellicenter/product-timecapsule/nasa-capillary-cup

宇宙船内で水を飲むときは、どうやって飲むのでしょうか?
https://humans-in-space.jaxa.jp/faq/detail/000710.html

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

NASAが開発した変な形のカップが宇宙でコーヒーを飲むという問題を解決!