神奈川芸術劇場(KAAT)の2024年度ラインアップ発表会が2月14日に行われ、長塚圭史芸術監督らが出席。気鋭の作家・加藤拓也キッズ・プログラムのために書き下ろす『らんぼうものめ』、日英共同制作で村上春樹の小説を原作とする『品川猿の告白 Confessions of a Shinagawa Monkey』などのラインアップが明らかになった。

長塚芸術監督が2024年度メインシーズンのテーマとして掲げたのは「某 -なにがし-」。ものや人の名前をあえてはっきりさせないための代名詞として使用される言葉だが、SNSなど発信者の“匿名性”が高まる中で「その言葉は誰の言葉でどの立場で語っているのか?」といったことなど「社会と個」の関係性について考えていく中で浮かんだとのことで、“某”が指すのは「あなたかもしれないし私かもしれない。“某”というレンズを通して何が見えてくるのか」と問いかける。

気になる上演演目だが、プレシーズンでは沖縄返還50年の2022年に上演され、読売演劇大賞の優秀作品賞を受賞した兼島拓也作、田中麻衣子演出の『ライカムで待っとく』を再演。アメリカ統治下の沖縄で1964年に起こった米兵殺傷事件を基に書かれた伊佐千尋によるノンフィクション「逆転」に着想を得た物語で、6月以降、京都、久留米をまわり、さらに6月23日の「沖縄慰霊の日」には沖縄(那覇文化芸術劇場なはーと)でも上演される。

ライカムで待っとく』 2024年公演チラシ

7月からのキッズ・プログラムでは、アンディ・マンリー作による、鳥のさえずりや歌をモチーフにしたノンバーバルパフォーマンス『ペック』を上演。同じくキッズ・プログラムとして、多彩な活躍を見せる加藤拓也作・演出による『らんぼうものめ』が上演される。わがままな少年が神々の世界に足を踏み入れる冒険物語とのことで、加藤は「少し不思議でちょっと怖い話になっている」と語る。長塚芸術監督は加藤について、「クールな視点で人間をグロテスクとも思える視点で描く作家ですが、キッズ・プログラムを手掛けたらどうなるのか? 子どもたちにどんなアプローチをしていくのか?」と期待を寄せる。

9月のメインシーズンの幕開けを飾るのはシェイクスピアの『リア王の悲劇』。河合祥一郎翻訳によるフォーリオ版をシェイクスピア初挑戦となる藤田俊太郎が演出する。同じく9月のKAAT EXHIBITION 2024では「南条嘉毅展 | 地中の渦」を開催。美術家の南条嘉毅による、横浜に積み重なった地層に着目したインスタレーション作品を展示する。

10月には、ダンサーで振付家の山田うんと人工生命の研究者として知られる池上高志による試みの第2弾となる『まだここ通ってない』(仮)を上演。コンテンポラリーダンスと最先端の科学のコラボレーションを通じて、人間とサイエンスの関係を、またアートとサイエンスの関係に光を当てる。

そして11月から12月にかけては、日英共同制作として、長塚がイギリス留学中に出会い、感銘を受けたというアーティスト集団「Vanishing Point」とKAATのコラボレーションで村上春樹の短編「品川猿」「品川猿の告白」を舞台化した『品川猿の告白 Confessions of a Shinagawa Monkey』を上演。Vanishing Pointの創設者で芸術監督であるマシューレントンが演出を務める。

また気鋭のダンスカンパニー「ケダゴロ」を主宰する下島礼紗と韓国国立現代舞踊団の国際共同制作による『黙れ、子宮』(仮)を上演。2021年に発表された同名の作品を再創作した作品で、18歳の思春期に判明したという下島自身の身体にまつわるある出来事を背景にした物語がダンスで表現される。

KAAT神奈川芸術劇場 2024年度ラインアップチラシ

2025年2月には、長塚が福田転球、大堀こういち、山内圭哉と共に2017年に始めた「新ロイヤル大衆舎」による新作で、これまで幾度も映像化されてきた芥川賞作家・火野葦平の自伝小説を舞台化した『花と龍』(長塚演出)を上演する。

さらに『バナナの花は食べられる』で岸田國士戯曲賞を受賞した、「範宙遊泳」の山本卓卓の書き下ろし新作が益山貴司の演出で上演される。

長塚芸術監督の下、4シーズン目を迎えるが、新作に国際共同制作、大反響を呼んだ作品の再演など、充実のラインナップとなった。

取材・文:黒豆直樹

KAAT神奈川芸術劇場 2024年度主なラインアップ

<プレシーズン>
■KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
ライカムで待っとく』

も読もうとしなかった、読まれなかった沖縄(こっち側)の物語。2022年の話題作が、待望の再演&ツアーを経て沖縄での上演が実現。

作:兼島拓也
演出:田中麻衣子
出演:中山祐一朗 前田一世 佐久本宝 蔵下穂波
小川ゲン 神田青 魏涼子 あめくみちこ

2024年5月24日(金)~6月2日(日) <中スタジオ>
<ツアー>
【京都公演】6月7日(金)・8日(土) ロームシアター京都<サウスホール>
【福岡・久留米公演】6月15日(土) 久留米シティプラザ<久留米座>
【那覇公演】6月22日(土)~23日(日) 那覇文化芸術劇場なはーと<小劇場>※この事業は令和6年2月の那覇市議会で予算の議決が延期または否決された場合、事業を延期又は中止する可能性があります。

■KAATキッズ・プログラム 2024
『ペック』

のさえずりや歌をモチーフに、“とりのうたごえ”にさそわれて、見て、聞いて、楽しむ、こどもとおとなのためのノンバーバルパフォーマンス!

作:アンディ ・マンリー、イアンキャメロン、ショナ・レッペ
音楽ウィル・カルダーバンク/サウンドコラボレーター:荒木優光
出演:アンディ・マンリー

2024年7月上旬<大スタジオ>

■KAATキッズ・プログラム 2024
『らんぼうものめ』

気鋭の劇作家・演出家 加藤拓也が初のキッズ・プログラムで描くのは、神さまたちの世界に迷い込んだ少年の、ちょっと怖くて不思議な物語。

作・演出:加藤拓也

2024年7月下旬<大スタジオ>
<ツアー(予定)>
福島県いわき公演】8月4日(日) いわき芸術文化交流館アリオス
長野県・松本公演】8月17(土)・18日(日) まつもと市民芸術館<小ホール> ほか

<メインシーズン「某(なにがし)」>
■KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
リア王の悲劇』

文学の最高峰に、実力あるキャストと魅力的なスタッフと共に新演出で挑む 。

作:W.シェイクスピア
翻訳:河合祥一郎
演出:藤田俊太郎
2024年9月<ホール内特設会場>

■KAAT EXHIBITION 2024
南条嘉毅展|地中の渦

太古から現代にいたる自然と人間の記憶と記録。時間と空間の積層に宿る膨大な世界の軌跡を現代に呼び覚ます。美術家の南条嘉毅によるインスタレーション作品。

2024年9月22日(日・祝)~10月20日(日)(予定)<中スタジオ>

■KAAT×山田うん×池上高志
『まだここ通ってない』(仮)

いつも、新しいものや考え、動きを探してる。それはあるソフトウェアかもしれない。散歩の途中か、踊っているときかもしれない。でも未来は、きっとそこから一気に始まる。舞踊家と科学者の未知なる競演。身体とサイエンスは未来に共存できるのか。

企画・構成:山田うん 池上高志
2024年10月中旬<ホール内特設会場>

■日英共同制作 KAAT × Vanishing Point
『品川猿の告白 Confessions of a Shinagawa Monkey

「カイハツ」プロジェクトを経て、国際的に活躍するアーティスト集団ヴァニシング・ポイントと日英共同制作で贈る、村上春樹原作のコミック・ミステリー

原作:村上春樹(短編「品川猿」「品川猿の告白」より)
演出:マシューレントン
2024年11月29日(金)~12月8日(日)<大スタジオ>
【英国公演】
2025年2月下旬~ Tramway, グラスゴー

■KAAT x ケダゴロ x 韓国国立現代舞踊団 国際共同制作
『黙れ、子宮』(仮)

気鋭のダンスカンパニー・ケダゴロを率いる下島礼紗による、子宮とキンタマを巡る壮大なダンス作品!

振付・演出・構成:下島礼紗
2024年12月13日(金)~12月15日(日)<大スタジオ>

■新ロイヤル大衆舎×KAAT vol.2
『花と龍』

ロイヤル大衆舎とKAATが再びタッグを組んで贈る、激動の時代に繰り広げられる骨太で濃密な人間ドラマ。

原作:火野葦平
脚本:齋藤雅文
演出:長塚圭史
音楽:山内圭哉

2025年2月中旬~下旬<ホール>
<ツアー(予定)>
【富山公演】2025年3月初旬 オーバード・ホール <中ホール>
【兵庫公演】2025年3月8日(土)・9日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急<中ホール>
【福岡公演】2025年3月15日(土)・16日(日)J:COM北九州芸術劇場<中劇場>

■KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
新作書き下ろし演劇作品(タイトル未定

岸田國士戯曲賞受賞劇作家・山本卓卓による新作書下ろし戯曲を、益山貴司演出で上演!

作:山本卓卓
演出:益山貴司
2025年2月~3月<中スタジオ>

■YPAM ‒ 横浜国際舞台芸術ミーティング 2024
2024年12月上旬<大スタジオ>等(予定)

【提携公演】
■Baobab:『DANCE×Scrum!!! 2024』4月27日(土)〜5月6日(月・休)<大スタジオ・アトリウム>
CCCreation:『白蟻』2024年6月 新作公演<大スタジオ>
KUNIOKUNIO16『(Title未定)』2024年6月<中スタジオ>
■横浜夢座:横浜夢座25周年・五大路子舞台生活50周年記念『ヨコハマの夜明け ~富貴楼お倉の物語~』(仮)2024年9月13日(金)~16日(月・祝)<大スタジオ>
■劇団た組:『ドードーが落下する』2025年1月上旬~<大スタジオ>
■Co.山田うん:「新作」2025年1月24日(金)~26日(日)<大スタジオ>

※各公演の最新情報は、劇場公式サイトにてご確認ください。

KAAT 神奈川芸術劇場 2024 年度ラインアップ発表会より、スクリーン手前中央 長塚圭史、スクリーン内(上段左より、兼島拓也、田中麻衣子、アンディ・マンリー、加藤拓也/中段左より、藤田俊太郎、南条嘉毅、山田うん、池上高志/下段左より マシュー・レントン、下島礼紗、山本卓卓