「度肝を抜かれたのは『五右衛門』の通称『レッドカルボナーラ』。これを考えた人は天才」と語るリュウジ
「度肝を抜かれたのは『五右衛門』の通称『レッドカルボナーラ』。これを考えた人は天才」と語るリュウジ

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。今回は料理研究家のリュウジさんを迎えての6回目。イタリア料理店で働いていたリュウジさんに、「これはおいしい」「これはすごい!」と驚いたパスタメニューを教えてもらいました。

「度肝を抜かれたのは『五右衛門』の通称『レッドカルボナーラ』。これを考えた人は天才」と語るリュウジ

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ひろゆき(以下、ひろ ラーメンと違って、パスタはいわゆるオタク的な人が少ないですよね?

リュウジ(以下、リュウ たしかにあまり聞かないですね。その理由はブランディング的な問題があるかもしれません。「最高においしいカルボナーラだけで勝負します」みたいな店はあまりないじゃないですか。例外は、福岡市にある『らるきい』ですかね。ここは「ぺぺたま」というペペロンチーノをベースにふわふわの卵を絡めたパスタが看板メニューで、あの王貞治さんが入院中に病院を抜け出して食べに来たという噂もあるくらいです。

ひろ ブランディングが難しい理由って何ですか?

リュウ 例えば「カルボナーラ」で売り出してもなかなかヒットしないんですよ。だから「ぺぺたま」みたいにアレンジしたり、新しいネーミングをつけないと勝負しづらいんです。

ひろ オリジナリティを出して、「ここでしか食べられない感」を演出する。そうすれば、みんなが頼むようになるし、口コミで広まりますよね。

リュウ ちょこちょこはあるんですよ。例えば、ある人気店には「真夜中のパスタ」というスープパスタがあるんですけど、本場のイタリアにはそんなメニューは存在しない(笑)。でも、そうやってブランディングするとお客さんはこぞって頼みます。

ひろ ちなみに、リュウジさんおすすめのパスタ屋さんってどこですか?

リュウ 有名ですけど『壁の穴』ですね。ここは「たらこスパゲッティ発祥の店」とも言われているんですが、おすすめは断然「ボンゴレといろいろきのこ&納豆〝壁の穴風〟」です。このパスタを初めて食べた時は、体中に衝撃が走りました。

ひろ 納豆パスタですか......リュウジさんに紹介されなかったら一生頼まないですね(笑)。

リュウ ですよね(笑)。正直「誰が頼むんだろう?」というパスタなんですけど、たまたま食べたらものすごくおいしかったんです。

ひろ へえー、今度帰国したときに食べてみよう。

リュウ 僕がオススメのパスタとして壁の穴を紹介すると「アイツは本場の味をわかってない」と言われるんです。壁の穴のパスタは日本風に味付けられているんですけど、僕はそれが新鮮だったりもするんです。

ひろ 僕、『五右衛門』が好きでよく行くんですけど、日本風のパスタを扱う店も増えていますよね。

リュウ 五右衛門もおいしいですよね。僕はイタリアにも行きましたし、本場のパスタの作り方も教わりました。すると、逆に本場じゃないパスタのほうがおいしく感じるようになったんです。

ひろ 本場のパスタに忠実に作ると予想を超えないからですかね。逆に日本風にすると「こんな発想があるんだ」と新鮮味がある。

リュウ そうなんですよ。「え、箸で食わすの?」みたいな、いい意味での衝撃がありますよね。度肝を抜かれたのは、五右衛門の『海老とモッツァレラチーズのカルボナーラチリトマトソース』。通称〝レッドカルボナーラ〟。これを考えた人は天才ですよ。

ひろ 五右衛門にそんなメニューありましたっけ? まあ、その名前を見つけてもカルボナーラの卵の感じとチリの辛さは合わないだろうと思って、避けちゃいますけど(笑)。

リュウ わかります。あれはカルボナーラと言っていますけど、卵黄だけが乗っているだけで、全然カルボナーラじゃないんです(笑)。あれはカルボナーラの皮をかぶったクリームパスタ。トマトークリームパスタに近いんです。

ひろ たしかにトマトと卵、海老とチーズの組み合わせは、おいしくなるかも。

リュウ これはネーミングセンスの勝利ですよね。「トマトークリームパスタ」とつけるのか「カルボナーラチリトマトソース」とつけるのか。カルボナーラ好きは多いので「こんなカルボナーラは見たことがない。頼んでみようか」となるんです。

ひろ トマトのクリームパスタはどこにでもありますからね。

リュウ でも、赤いカルボナーラとか、チリソースカルボナーラは珍しい。実はこういうブランディングの仕方は僕のレシピでも参考にしているんですよ。「これは正式にはカルボナーラじゃねえだろう」というレシピでも、卵黄を乗せて〝カルボナーラ〟にしたりします。本場の人たちからは怒られそうですけど(笑)。

ひろ よく「本場のイタリアにはナポリタンはない」と言われるじゃないですか。でも、実際にイタリアへ行ったら「ナポリタン」が普通にあったんですよ。日本でおなじみのケチャップ味ではないかもですけど、ナポリタンという名前のパスタは普通にメニューにはありました。

リュウ イタリアの人はパスタケチャップを入れることが本当に許せないらしいですね。なので、あったとしても、トマトソースで作っているかもしれないです。パスタ以外でいえば、天津飯とかもそうですよね。天津飯も中国の天津市にはない。

ひろ 日本人は〝魔改造〟みたいにアレンジする力がハンパなく高いっすよね。ラーメンだってもとは中国ですけど、日本で独自の進化をして「日式拉麺」とか言われて中国でも売られていますよね。

リュウ イタリアで発祥したピザもアメリカで魔改造してますよね。結局はその国でウケるように進化しちゃうんでしょうね。

ひろ で、魔改造とかネーミングって、料理人よりもリュウジさんのような料理研究家のほうが作りやすいと思うんですよ。

リュウ それに、日本は魔改造するポテンシャルが高いと思うんですよ。

ひろ というと?

リュウ 日本の家庭料理のレベルって世界でもトップクラスです。多くの国の家庭料理って、毎日同じようなものを食べていたりする。しかも、結構質素なんですよね。

ひろ ドイツとかは食へのこだわりが少ないから、質素なメニューになりがちと言われたりしていますよね。そう考えると、日本人の食へのこだわりは「執着」と言えるレベルですよね。

リュウ あと、日本の家庭料理は各国のメニューが出てきますよね。和食だけじゃなく、カレーに麻婆豆腐、ハンバーグにグラタン......と様々じゃないですか。

ひろ 料理を作る人のスキルが高いんでしょうね。例えば、コロッケみたいな揚げ物って、冷静に考えると、作る工程が多いじゃないですか。

リュウ はい。あんな料理はほとんどの国で家では作りませんよ。レシピ本も日本では異様に売れる。食に関わると日本人は相当なこだわりを持つし、異様に高いレベルを要求する。

ひろ まあ『ミシュラン』が一番多い都市も東京ですからね。「ものづくり大国」としての日本の影は薄くなりつつありますけど、「食」のポテンシャルはまだまだ眠っていますよね。

リュウ そうですね。

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西村博之(Hiroyuki NISHIMURA 
元『2ちゃんねる管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

リュウジ(RYUJI) 
1986年生まれ、千葉県出身。料理研究家。近著に『虚無レシピ』(サンクチュアリ出版)など。公式X【@ore825】、公式Instagram【@ryuji_foodlabo】、公式YouTubeチャンネル『料理研究家リュウジのバズレシピ』

構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

「度肝を抜かれたのは『五右衛門』の通称『レッドカルボナーラ』。これを考えた人は天才」と語るリュウジ