中高年男性の会社に尽くそうとする意欲が低下するきっかけとなるのが役職定年です。本記事では、役職定年が引き起こすモチベーション低下の問題とそれを踏まえた必要な施策について、株式会社日本総合研究所創発戦略センター・スペシャリストの小島明子氏が解説します。※本記事は、「中高年男性の働き方の未来」(金融財政事情研究会・小島明子著)の内容を一部改編・追加の上、掲載しております。

役職定年でモチベーションが低下する中高年男性

定年は、多くの男性にとって、人生の節目といえるが、むしろ精神的な節目を感じさせる大きなきっかけは、定年よりも、むしろ「役職定年」という男性も多いかもしれません。

なぜなら、中高年男性にとって、役職の高さや給料の多さに、自分の価値のよりどころを置いている人も少なくないからです。

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構によれば、役職を降りたあとの変化として、約6割弱の経験者が会社に尽くそうとする意欲が下がっています。同調査によれば、役職を降りたあとの職場や職種として、「職場は同じであるが、職種は異なる」経験者および「職場と職種の両方が異なる」で「会社に尽くそうとする意欲」が低下している者が多くなっているのに対して、「職場と職種の両方が同じ」経験者で低下している者が少なくなっていることが挙げられます。

一方、役職を降りたあとの主な仕事・役割別にみると、主な仕事・役割が「社員の補助・応援」を行っている経験者ほど、「会社に尽くそうとする意欲」が下がっている者が多くなっているのに対して、「経営層・上司の相談・助言+所属部署の後輩社員の教育」を行っている経験者ほど、その傾向は低いことも明らかになっています。

役職定年を機に、子会社や取引先へ異動させ、仕事の環境が変わるケースは少なくありませんが、そのような状態が必ずしもいいとはいえないことがわかります。

一方で、「社員の補助・応援」ではモチベーションが下がり、「経営層・上司の相談・助言+所属部署の後輩社員の教育」では意欲が低下しづらいという結果を踏まえると、職場においてどのような役割を与えるということが非常に重要であるといえます。

最近では、派遣会社で顧問を登録・派遣するサービスが出てきていますが、年齢を経ると、役割以上に対外的な呼称も本人にとっては、モチベーションに影響することが窺えます。

ただし、組織側の事情を踏まえれば、役職定年者が多い場合、すべての役職定年者をアドバイザー的な役割にするのでは、適正な配置とはいえません。仮に、70歳ぐらいまで従業員が働き続けるような場合、アドバイザー的な役割の従業員が増えるばかりでは、業務のために汗をかいて手を動かす人が相対的に減るどころか、若手が発言をしづらく疲弊してしまうリスクが懸念されます。  

年齢を経てもフラットに働ける環境づくりを

働く意欲のある多くの中高年男性が、組織の事情と折り合いをつけながら、働き続けるためには、年齢を経てもフラットな関係で、働き続けられる環境づくりと個人の意識の醸成が必要です。

人事制度面では、役職定年という制度の在り方を見直すことだけではなく、副業・兼業やフリーランスへの転換など、個々人の希望や能力、ライフスタイルにあわせた働き方や、働き続けていくための技能やスキルの獲得機会を早いうちから、柔軟に選択できるという選択肢はもっと与えられてもよいと感じます。

加えて最近では、メンターとメンティの年齢や職位を逆にして行うリバースメンター制度を活用している企業が出てきています。たとえば、ITリテラシーなどは若者のほうが高く、若者が得意な分野を年齢層の高い人に教えることで、若者の活躍や生産性の向上のみならず、年齢が異なる層同士のコミュニケーションの活性化にも寄与することが期待できます。日ごろから年齢の若い人から教えてもらっていれば、将来、職位が逆転したときの仕事のやりづらさも軽減できると考えます。

一方、働く側も自分のキャリアを勤め先任せにしないように心がけることが必要です。定年あるいは役職定年を迎える段階になってから、「こんなに一生懸命尽くしたのに……」と勤め先に対して複雑な気持ちになる方は少なくありません。

いままでの人生を振り返って、周囲に気を遣い、自分の意思に反して合わせながら生きてしまったという気持ちが少しでもあるならば、自分が本当に望んでいることを起点に人生が歩めるよう、気持ちを切り替えることが大切なのだと感じます。

<参考> ※ 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援-高齢社員の人事管理と現役社員の人材育成の調査研究委員会報告書-」(平成30年度)

小島 明子

日本総合研究所創発戦略センター

スペシャリスト