ほんの少し前のことでありながら、日に日に忘却の彼方へと遠ざかる3 年間のコロナ禍の時期を現代美術を通して振り返り、個人と社会の距離感を考察する展覧会が、3月6日(水)から6月3日(月)まで、東京・六本木の国立新美術館で開催される。同館では5年ぶりとなる現代美術のグループ展である。

2020年に始まった国境なきパンデミックでは、入国制限や渡航禁止によって国家間の「遠さ」が露呈した一方で、資本や情報の世界的な移動は止まることがなかった。個人の生活では、リモートワークの定着によって「遠さ」を隠蔽・解消することが可能となり、また感染症が沈静化すると、早くも「遠さ」の感覚は失われてしまった。だが、資本と情報が世界規模で移動する現代社会の状況を踏まえると、その「遠さ」の感覚は重要なのではないかという視点から、『遠距離現在』というタイトルが造語されたという。

参加するのは、今世紀の社会の在り方を鋭く作品化し、国際的な注目を浴びているアーティストたち。井田大介、徐冰(シュ・ビン)、トレヴァー・パグレン、地主麻衣子、ティナ・エングホフ、チャ・ジェミン、エヴァン・ロス、木浦奈津子、ヒト・シュタイエル(ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ミロス・トラキロヴィチとの共同制作)ら、アジア、欧米、北欧から8名と1組の作家たちが集結する。本邦初紹介となる作家も多い。

世界的な規模で拡大し続けるグローバル資本主義社会と、その社会の中でリモート化する個人というふたつの軸のもとで選ばれた作品群は、過剰な監視システムや精密なテクノロジーがもたらす滑稽さや、その中で生きる人間の深い孤独を感じさせる。

パンデミックの渦中にあった 約3年間は果たしてどのような時期だったのか、社会はいかにして今の姿に至ったのか、そして今後の私たちはどこに向かうべきなのか。リモートでつながる私たちの生活の利便性に隠された現実や世界観のゆらぎに光をあてる作品群が、ポストパンデミック社会と個人の在り方を考察する機会をくれることだろう。

<開催概要>
『遠距離現在 Universal / Remote

会期:2024年3月6日(水)~6月3日(月)
会場: 国立新美術館 企画展示室 1E
休館:火曜(4月30日は開館)
時間:10:00~18:00、金土は20:00まで(入場は閉館30分前まで)
料金:一般1,500円、大学1,000円
公式サイト:
https://www.nact.jp/exhibition_special/2024/universalremote/index.html

井田大介《誰が為に鐘は鳴る》2021年 © Daisuke Ida, courtesy of the artist 作家蔵