近年、フリーランスや個人事業主が増加していますが、ぜひ知っておきたいのが「マイクロ法人」を作ることによる節税対策です。本記事ではマイクロ法人を作ることによってどれぐらい社会保険料が減らせるのかを、具体例と共に辻哲弥氏(税理士法人グランサーズ代表社員)が分かりやすく解説します。

「個人事業」と「法人」を両方持つことで税金を削減できる

近年になって、フリーランスや個人事業主が増加しています。これはコロナ禍の影響や労働人口の減少、クラウドソーシングの普及などが背景にあると考えらます。

人によってはかなり儲けも出ていると思われますが、ここで気になるのが税金のことです。個人だと法人ほど節税対策があるわけではないので、基本的に節税は難しくなります。ですが、実は、個人事業と法人を両方持つことで、ドカンと上がるはずの税金をガツンと減らすことができます。

そこで出てくるのが、マイクロ法人」です。上手く活用すると節税することができるので、個人事業の方はぜひとも押さえておいてほしい知識です。法人といっても、そこまで事業の規模が大きくなくても活用できますのでご安心ください。

マイクロ法人とは?

マイクロ法人とは、そもそも、どういうものなのか。シンプルに結論を言うと、「社長ひとりだけで運営する法人」のことです。複数の事業や収入源をもった際にマイクロ法人を設立することで、合法的に大きく節税することができます。特に個人事業主マイクロ法人を併用する二刀流スキームは、法人と個人事業主のいいとこ取りができるスキームとして注目されています。

マイクロ法人のメリットは大きく5つある

「いいとこ取り」というのは気になりますよね。では具体的にはどんなメリットがあるのでしょうか。マイクロ法人には大きく以下の5つのメリットがあります。

社会保険料を削減できる

所得税・住民税を節税できる

③役員社宅で経費にできる

消費税が免税になる

⑤10年間の赤字繰越ができる

ここからは、「①社会保険料を削減できる」のメリットについて解説していきます。

社会保険料の違いをシミュレーションで見てみよう

社会保険料を削減できるというのは、このスキームの最大のメリットです。これまで個人事業主として国民保険で支払っていた保険料を、法人の社会保険に切り替えることで、保険料の負担を少なく、かつ補償を手厚くできます。つまり、一石二鳥ということになります。

これだけではピンとこないかもしれませんので、ざっくりとした数字でシミュレーションをしてみましょう。

まず、「個人事業のみ」の場合の社会保険料は以下になります。なお前提として、東京都在住、40歳、夫婦二人家族、子供ゼロ、個人事業主としての所得500万円」とします。

<個人事業のみの場合> 国民健康保険料 約50万円、国民年金 約40万円(二人分) 社会保険料合計=約90万円

ここで、「マイクロ法人」を作るとどうなるでしょうか。役員報酬額を年72万円に設定し、社保に加入、配偶者を扶養家族にすると、以下のようになります。

マイクロ法人の場合> 個人事業&法人 社会保険料 約8万円、厚生年金 約20万円 社会保険料合計=約28万円

かなりざっくりとした試算ですが、90万円-28万円で、年間約62万円保険料を減らせる計算になります。10年間続ければ、なんと620万円になります。地域や家族構成などによって計算は異なりますが、このようなイメージです。

社会保険料が削減できる2つのポイント

なぜこんなに削減できるのかということですが、ポイントが2つあります。

ポイント① 月額給与を低く設定する

社会保険料は、標準報酬月額(つまり月収)をもとに算出されます。個人事業主の場合、収入が上がるほど標準報酬月額が上がり、社会保険料(主に国保)は高くなります。ここでマイクロ法人を設立し、マイクロ法人から給料を受け取ることで、公的保険が社会保険厚生年金に切り替わります。そしてマイクロ法人から受け取る役員報酬を最低額に設定すれば、社会保険料を大きく減らすことができます

図のように、月6万3,000円未満の時に、標準報酬月額の等級が最も低くなり、社会保険料が最安になります。ですので、社会保険料を抑えるのであれば、そこを超えないようにするというのが、まずひとつの目安となります。

では、「役員報酬を最低額にする」とは具体的にはいくら程度を指すのでしょうか。役員報酬月6万円とすると、6万円×12カ月=72万円で、おおむねこれが目安です。

そして、役員報酬を最低額にしたとき、保険料は

厚生年金が月1万6,104円

国民年金が月1万6,520円

と、ほぼ同額です。

ポイント② 家族を扶養にいれる

しかも、法人で加入する社会保険では家族を扶養家族に出来るのに対して、個人事業主が加入している国民保険には扶養という概念がありません。 ですので、国民年金の場合、夫婦二人暮らしの世帯では二人分の国民年金保険料(この場合夫婦で月およそ3万3,000円)が発生します。

また、国民健康保険では配偶者・実子など全員が「被保険者」となり、それぞれの保険料を支払います。つまり、国民年金では家族の人数が多いほど、世帯としての保険料も増えていきます。一方、厚生年金では被扶養者(配偶者・子ども)の年金保険料と健康保険料支払いが不要になるため、被扶養者が増えるほど、得する額が大きくなります

また、保証が手厚くなる理由としては、将来的に国民年金分と厚生年金分の両方を受け取ることができることが大きいです。これは厚生年金の保険料には国民年金分も含まれているからですね。

このように、マイクロ法人には社会保険料を削減できるという大きなメリットがあることがおわかりいただけたかと思います。

ただし、2024年から改正によって社会保険料の適用範囲がパートにまで拡大するなど、社会保険料を広範囲から徴収する流れになってきています。今後の動き次第ですが、個人事業主にまで社会保険の適用範囲が広がる等、社会保険料の算定方法が変わる可能性もあり得ます。ですので、社会保険料目当ててでマイクロ法人の設立を考えている人は、動向を注視しましょう。

辻 哲弥

税理士法人グランサーズ

(※写真はイメージです/PIXTA)