中国が開発した新鋭旅客機C919」が、初めて海外の航空ショーでデビューし、展示飛行を実施。選ばれたのはシンガポールですが、なぜこの地が“初披露”の場に選ばれたのでしょうか。

いわば「中国版737orA320」?

2024年2月20日から始まったシンガポール航空ショーで、中国・COMAC(中国商用飛機)が開発し、2023年に商業運航が開始された新鋭ジェット旅客機C919」が展示飛行を行いました。C919の中国以外の国での航空ショー出展は初めてです。なぜこの時期に“海外航空ショーデビュー”を果たしたのでしょうか。

単通路(客室内の通路が1本)型で150席級のジェット旅客機C919は、そのキャパシティや性能から見ても、中国が欧州・エアバスの「A320」と米・ボーイングの「737」のライバルにしようという目論みが大いに感じられるモデルです。

この機はシンガポール航空ショーの2か月前、2023年12月12日から約1週間、香港で展示され、随一の観光地であるビクトリアハーバー上空を展示飛行してもいます。

シンガポール航空ショーで姿を現したのは、香港で展示飛行をした機体と同じものです。実機は静体展示もされ、海外へ初めて現れた機体なだけに多くの来場者が見入っていました。中国はこれまで軍用機も含めて、自国以外の航空ショーで実機を展示した機会がわずかしかないことも、多くの注目を集めた要因でしょう。

ところでC919のほか、同じく今回が海外の航空ショーでは初展示となった中国製旅客機「ARJ21」も、グローバルスタンダードである欧米の型式証明(その飛行機のモデルが一定の安全基準を満たしているかどうかを、国や地域ごとに当局が審査する制度)は取得していません。しかし香港での公開後、C919が中国以外での航空ショーでデビューする日は近いと見られていました。

ただ、なぜシンガポール航空ショーがデビューの場に選ばれたのでしょうか。この航空ショーは確かにアジア最大級の規模ではあるものの、7月には英国ファンボローで、世界最大級の航空ショーの開催が控えています。

中国「規模より時期でしょ!」となった背景

この背景として考えられるのは、中国がマーケットの状況から、この時期こそ“勝機”と見たことが大きいのではないでしょうか。

その要因のひとつが、ボーイングのライバル機「737」シリーズの現行ラインナップである「737MAX」が苦境に立たされていることでしょう。

C919の海外デビューの話は、2024年1月下旬から複数の海外の航空専門サイトが報じていました。その中で背景として述べられていたのが、737MAXの抱える問題です。

2024年1月、米・アラスカ航空が運航していた737MAX シリーズのひとつ「737-9」でドアプラグが吹き飛ぶ事故があり、ボーイング自体の業績も5年連続の赤字となっています。背景として、経験豊富な従業員が減り、品質が低下しているとの指摘もあります。

この苦境を、中国はC919アピールの好機と見たのかもしれません。

現在のところC919は、737MAXに伍するほど人気はありません。しかし、もし今後、ボーイングが信頼を取り戻すのに長い時間を要するようであれば、なかにはC919に関心を示す航空会社も出てくるかもしれません。そのチャンスを狙うために、まずはアジアで1番とされるシンガポール航空ショーに的を絞ったとも考えられます。

シンガポール航空ショーでのC919(相良静造撮影)。