電子書籍が普及し、いつでも手軽に読めるようになった漫画作品。Amazonの電子書籍ストア「Kindleストア」では、個人制作のオリジナル漫画の電子書籍も多くの読者から注目を集めている。創作漫画をコミティアなどの即売会で発表しているなまくらげ(@rawjellyfish)さんも、自身の作品を電子書籍として公開しているひとりだ。

【漫画】「チャットボットに頼りすぎた話」を読む

2024年1月にKindleストアで電子書籍が配信された「チャットボットに頼りすぎた話」は、人との会話が苦手なことが悩みの中学生が、同級生の男の子とテキストメッセージでやり取りする中で、AIの会話サポート機能にゴーストライターを頼むというストーリー。X上で公開された際は1.7万件を超えるいいねとともに、読者から「温かい話」と話題を呼んだ作品だ。そんな同作の舞台裏を、作者のなまくらげさんに訊いた。

■AIと人とを区別する思考実験の延長線上に生まれた短編

なまくらげさんによると、「チャットボットに頼りすぎた話」は“中国語の部屋”という、知性や意識に関する思考実験に興味を持っていたのが発端にあったという。昨今のチャットAIの隆盛を機に「チューリング・テストや人の自我と親和性が高そうなことに気づき、話を考え始めました」と話す。

同作ではチャットAIが自分の代わりに会話を成立させてしまう不安と、よき相談役として人間に提案するプラスの両面が描かれ、自我を持たないはずのAIが一人のキャラクターのように描写されている。「『的確な回答を用意してくれるけど、あなたは一体誰なんだ』と、AIを一個の他人と捉えて主人公と対比させた形です」と、この構図は当初からの案だったというなまくらげさん。

一方、結末については「実は苦し紛れに浮かんだ案」だったと明かしながらも、「結果的にテーマに合ったよい終わり方になったかなと思います」と振り返る。

また、なまくらげさんの他の作品では、安楽死キットがコンビニに売られている世界や、他人の生涯で得られる幸福度が見られる眼鏡といった、現実のテーマの延長線上にある架空の設定が用いられることが多い。

本作では人間らしい受け答えができるチャットAIという、近い将来実現するかもしれないガジェットが作劇の軸になっているが、その分制作時には「実際に近い分『こういう世界だから』みたいな開き直りが通じづらいなと思い、いつもより設定に整合性を持たせるよう気を配りました」という意識があったという。

これまで、同人誌即売会COMITIA(コミティア)」での頒布や、WEBショップ作成サービス「BOOTH」での電子版販売を行ってきたなまくらげさん。今年1月に本作をはじめ、「人の幸福度が見える女の子の話」や「安楽死キットはコンビニで。」などの既刊をKindleストアで新たに配信をはじめた理由を訊くと、「おかげさまで作品数が増えてきたこともあり、電子化の幅を広げても良いかなと思い今回の配信に至りました。他の作品も配信しておりますので、よければ覗いてみていただけますと幸いです」と答えが返ってきた。

2024年2月25日(日)に東京ビッグサイトにて開催される「COMITIA147」に参加予定のなまくらげさんは、読者に向けて「私も今週末に参加するコミティアでは、プロアマ問わず色んな方々の創作作品を見ることができますので、もし興味がございましたら足を運んでみて下さい」とメッセージを寄せた。

取材協力:なまくらげ(@rawjellyfish)

人間らしい会話を生成できるチャットAI。ついつい使っていたら、自分抜きで会話が完結してしまい…短編漫画「チャットボットに頼りすぎた話」/なまくらげ(@rawjellyfish)