ドラマチューズ!『夫を社会的に抹殺する5つの方法 Season2』(テレ東ほか、火曜深夜24時30分~)が話題になっている。昨年のSeason1も、SNSを中心に「今週のオトサツはどうなった?」と人気を博していたドラマである。Season1では、わかりやすい夫のモラハラ、DVまがいのことから妊娠中の妻が流産、それをきっかけに妻が夫に復讐していく物語だった。プライドを失わせ、公衆の面前で恥をかかせ、仕事を奪い……。だが最後には夫の心の病が発覚、夫婦は向き合っていかなければならなくなる。



『夫を社会的に抹殺する5つの方法 Season2』©テレビ東京(以下同じ)



 今回のSeason2はどうなるのだろう。現在6話が終わったところだが、今回は日野美咲(高梨臨)と日野透(栁俊太郎)夫婦が5歳の愛息をアナフィラキシーショックで失うところから話が始まる。夫が見ていてくれたはずなのに、どうして息子はショックを起こしたのか。敏腕漫画編集者としてテレビにも出るほど有能な夫を、漫画家志望だった美咲は自分の夢を絶って支えてきた。それが裏切られたとき、妻は夫を社会的にどう抹殺するのか。


◆復讐劇の裏側に、視聴者が共感できるテーマ性を
 第1話TVerで100万視聴(※ビデオリサーチにて算出)を超えたという。今はリアルタイムでテレビを視聴する人ばかりではないが、この数字はダントツである。


 前作も今作もプロデューサーを務めている倉地雄大さん(35歳)は、「Season1でタイトルを覚えてくださっている視聴者も多かったんでしょう。観ていただいてうれしい」と率直な感想を述べた。



『夫を社会的に抹殺する5つの方法 Season2』のプロデューサーを務める倉地雄大さん



「前作とスタッフも一緒なので、今回も原作を元に脚本・監督の上村奈帆さんとじっくり話し合いながら作っていきました。原作は純度の高い復讐劇ですが、復讐劇の裏側に視聴者が共感できるテーマ性を持たせた方が他のドラマとの差別化や映像作品的に深みが出る気がしまして。復讐を通して訴えたいことをテーマにすることで、各キャラクターの新たな一面を掘り下げることができると考えました」


◆一面性だけで人を語ることはできないから
 Season1では、結婚したものの日に日に暴言と暴力がひどくなる大輔(野村周平)に怯える妻・茜(馬場ふみか)が、「仮面さん」の力を借りて復讐劇を繰り広げた。紆余曲折を経て夫は自殺を図ったが命は助かり、ふたりはようやく向き合う。


「ふたりとも相手への接し方がわからなくなってしまった。彼の心の病が高じ、茜は流産して向き合うことを避けていった。最後にようやく向き合うことで、不器用でもちゃんと話せばよかった、話したかったと気づいていったんです。Season2では、もう少し踏み込んで、復讐の先に何があるのか、向き合わなかったら何があるのかを描きたいと思っています



 今回は前回ほどわかりやすいモラハラがあるわけではない。忙しくてなかなか家庭に関われないものの、妻にとって決して悪い夫ではなかった透。だが息子が亡くなったことで、その透の「血の通った嫌な男、ちょっとずるい男」の側面が浮き彫りになっていく。


人間って白黒はっきりさせればいいというわけではないし、自分の中でもすべてがクリアになっているわけではない。一面性だけで人を語ることはできませんよね。今回、美咲には美咲の事情があり、透にも透の事情がある。そういう人間くささみたいなところもきちんと描いていきたい」


◆“お土産のドーナツ”で夫婦の齟齬が浮き彫りに
 子どもが亡くなったあとの夫婦の空間は、張り詰めた緊張感が悲しみに満ちていて、俳優ふたりのうまさが際立つと同時に、夫婦それぞれの気持ちの齟齬(そご)が大きくなっていくことが静かに描かれていた。時間がたって、美咲がようやく日常生活を少しずつ送れるようになったとき、透が「おいしいドーナツを買ってきた」と帰宅するシーンがある。



 微笑みながら「お帰り」と言った美咲は、その一言を聞いて、冷たく「優ちゃん、ドーナツ食べられないから」と言い捨てる。アレルギー持ちの息子が食べられなかったドーナツを買ってくる無神経さを無言のうちに責める妻、それを聞いて「そうだな」とドーナツの箱をいきなりゴミ箱に捨てる夫。妻に食べさせようと買ってきたが、妻のすべての価値観の基準は今も失った息子にあると気づかされる場面だ。


 Season1は夫のモラハラが刺激的だったがゆえに物語も派手に進んだが、今回は非常にシリアスであり、それゆえに人物の心理を丁寧に追い、深掘りしていると感じさせられる。3話に至るまでに、美咲の絶望や心の揺れがしっかりと伝わってくるので、観ている側としては感情移入がよりしやすくなっている。


◆ほとんど最終回までの脚本が上がってからクランクイン
 倉地さんは小学生のころからドラマが大好きだったという。


「『踊る大捜査線』とか『やまとなでしこ』『ビューティフルライフ』など、キラキラしたドラマを観て育って夢とか希望をもらってきたんです。だから自分がドラマを作る側になったとき、ほんの30分でもいい、つらいことを抱えている人がひととき現実を忘れてドラマに入り込んでくれたらいいなと思っています


 そのためにもドラマを作る段階では、ほとんど最終回までの脚本が上がってからクランクインする。最終ゴールが見えていれば俳優も演じやすいし、演出もしやすいからだ。



小学生のころからドラマが大好きだったという倉地さん



「脚本を書いた上村さんが監督もしているので、長く議論させていただいている分、共通認識ができています。出てくるエピソードに関してはいろいろな人たちと話して、こんな夫は嫌だねとか、ここまでいくと復讐したくなるよねとか雑談ベースでたくさん会話を交わします」


 脚本・監督の上村奈帆さんについては「言葉に対して思慮深い人」「キャラクター作り、間や行間、背景の掘り下げ方も深い」と、厚い信頼を寄せる。


「どうしても今の時代、刺激の多いドラマが求められるんですが、上村さんとは『悪い人のいないドラマを作りたい』という話をよくしています。視聴者にうけるかどうかはわかりませんが、いつか今とはまったく違うアプローチで“とてつもなく優しいドラマ”が作ってみたいですね」


◆「あってもなくてもいいけど、あれば豊かになるもの」
 観る人が何に共感してくれたのか、今、人々はどういう状況に置かれているのか。たとえばみんな日頃は言えないことをドラマを通して声を上げることがあるのかどうか。前作では、SNSでも「私も夫を抹殺したい」「自分の場合は夫のここが許せない」などたくさんの声が上がった。今の時代にあっても我慢している女性が多いこと、そして率直に話し合えない夫婦の多さが印象的だったと倉地さんは言う。



「SNSで発散するのも悪いことではないけれど、直接向き合って話し合うべき、個人と個人の関係は向き合わなければ進まないと個人的には思います。でも自分を振り返れば、必ずしもそれができているとも思えないし、発信する手段が増えているからこそ直接向き合うことを回避してしまう人が多いのもよくわかるんです。だからこそ、このドラマがそのひとつのヒントになれたら、こんなうれしいことはないと感じています」


 世の中には「あってもなくてもいい」ものがあると彼は言う。災害や政治の話のほうが社会的には重要だ。テレビドラマを観なくても生きていける。それでも「あれば豊かになるもの」でありたいと熱がこもる。


「自分がドラマを観て憧れや夢をもらったから、ほんの少しでも誰かを救うものを作りたい気持ちはあります」


◆“原作の本質”をきちんと見すえた上でどう作っていくか
 企画をたてて放送していく上で責任をとるのがプロデューサー、ドラマを形にするのが監督の役割だとするなら、「このドラマで何を伝えたいのか」は、すべてのスタッフやキャストが共有しなければならないと彼は言う。


 原作がある場合のドラマ作りに関して世間では大きな話題となっている。


“原作の本質”をきちんと見すえた上で、生身の人間を通して観てもらうドラマにどう作っていくかが重要だと思うんです。そういうところもやはり“話し合い”が大事ですよね。話さないから誤解されたり説明が行き届かなかったりするところは大きいと思う。人間関係の問題のすべてが向き合わないことに起因しているのかもしれませんね。言いたいことを言うのは案外むずかしいことだから」


 終始、言葉を選びながらも明るい口調で話してくれた倉地さん。まずはこの先の『夫を社会的に抹殺する5つの方法 Season2』の今後が楽しみだ。


<取材・文・人物撮影/亀山早苗>


【亀山早苗】フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio



『夫を社会的に抹殺する5つの方法 Season2』©テレビ東京(以下同じ)