コロナ禍を機に、東京などから地方へ本社を移転する「脱首都圏」の動きが広がってきた。リモートワークやウェブ会議システムの普及により、首都圏に本社を置く必要性が薄れているほか、本社オフィスの「存在意義」も改めて問われている。従来に比べ、首都圏からの距離に縛られない移転も増える傾向にあるなか、この動きがアフターコロナ下における一般的なものとして定着するのか注目される。

帝国データバンクは、2023年に首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉:1都3県)⇔地方間をまたいだ「本社所在地の移転」が判明した企業(個人事業主、非営利法人等含む)について、保有する企業概要データベースのうち業種や規模が判明している企業を対象に分析を行った。

<調査結果(要旨)>

  1. 首都圏企業の「転出超過」は前年比5割減の37社 転出先の道府県は42、過去最多

  2. 首都圏への転入「サービス業」が最多 「不動産業」は過去最多の30社が転入、コロナ前平均の1.7倍

  3. 首都圏への転入企業、中堅~大企業の割合が増加 成長企業で「首都圏進出」目立つ

  4. 首都圏集中」への揺り戻しも 2024年は4年ぶり転入超過の可能性

※本社とは、実質的な本社機能(事務所など)が所在する事業所を指し、商業登記上の本店所在地と異なるケースがある

首都圏の企業転出・転入は、首都圏内外をまたぐ道府県との本社移転を指しており、首都圏内での県境をまたぐ本社移転は含まれない

※調査結果の掲載資料はこちら

https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p240205.html

首都圏企業の「転出超過」は前年比5割減の37社 転出先の道府県は42、過去最多

2023年に首都圏から地方へ本社を移転(転出)した企業は、年間で347社に上った。22年(335社)に比べて12社・3.6%の増加となったほか、1990年以降で2番目の高水準を記録した。また、1990年以降で初めて3年連続で年間300社を超え、首都圏から地方へと本社を移転する流れが続いた。

地方から首都圏へ本社を移転(転入)した企業は、年間で310社に上った。前年(2022年・258社)に比べて52社・20.2%の増加となり、増加率は2003年(21.5%増)に次ぐ3番目の高さとなった。地方の成長企業などを中心に首都圏へ本社を移す動きが強まった。

この結果、転出企業数から転入企業数を差し引いた「転出超過社数」は前年比51.9%減となる37社で、3年連続の転出超過となった。首都圏で3年連続の転出超過となるのは、13年連続だった1990-2002年以来21年ぶりとなったほか、転出超過の規模は過去20年で2番目に大きい水準だった。地方へ転出する企業数は高い水準を維持しているものの、首都圏の企業吸引力が急回復したことを背景に、地方中堅企業を中心とした「首都圏一極集中」の動きが再び活発化した。

首都圏から地方へ移転した企業の転出先では、「大阪府」の39社が最多で、「茨城県」(37社)に代わり2年ぶりに全国最多となった。「愛知県」(33社)は1990年以降で初めて30社を超え最多だった。首都圏から10社以上転出した道府県でみても、「福岡県」(21社)、「京都府」(14社)がいずれも過去最多だった。転出先の道府県数は計42にのぼり、前年(41)を超えて最多を更新した。首都圏から転出する企業は「遠方・広範囲」の動きが続いたものの、大都市圏のほか、東京などへアクセスしやすい北関東など首都圏近郊に集中する傾向がみられた。

地方から首都圏へ移転した転入元では、「大阪府」(60社)が最も多かった。次いで「愛知県」(24社)、「福岡県」(23社)、「静岡県」(18社)などが続いた。

首都圏への転入「サービス業」が最多 「不動産業」は 過去最多の30社が転入、コロナ前の1.7倍

首都圏から地方へ転出した企業の業種は、「サービス業」が131社で最も多かった。同業種としては過去最多だった2021年の156社に次いで2番目の高水準だった。なかでも、ソフトウェア開発ベンダー、先端技術産業を含むソフトウェア業が21社で、「サービス業」全体の1割超を占めた。次いで多い「卸売業」(67社)は前年(50社)から大幅に増加し、家庭向け日用品や食品、機械など幅広い業種で移転が目立った。「卸売業」では、前年から倍増した「運輸・通信業」(15社)と同様に、郊外の大規模な物流センター開設に伴う本社の移転も多く、過去10年では14年(73社)に次ぐ2番目の多さとなった。一方、「製造業」(54社)と「不動産業」(8社)は前年から大幅に減少し、特に不動産業は過去10年で2番目に少ない水準だった。

首都圏からの転出を巡っては、ソフトウェア開発など比較的移転の容易な業種が多くを占める状況に変化はなかった。一方で、コロナ禍に沈静化していた、物流センターや工場など大規模な施設の新築・移設を前提とする製造・流通業種で、再び転出の動きが強まっている。

地方から首都圏へ転入した企業でも、「サービス業」(118社)が最も多く、大幅減となった2022年(98社)から一転して急増した。「建設業」(33社)は前年(24社)から9社増加し、コロナ前の19年(35社)に迫る過去2番目の多さだった。「不動産業」(30社)は1990年以降で転入社数が最多となった。

首都圏へ転入した業種を、コロナ前平均(2015-19年の年間平均=100)と比較すると、2023年は「不動産業」が172と、前年から40ポイント高い水準で推移した。「建設業」も117と高く、「サービス業」(103)などに比べても突出した高さだった。東京都心を中心とした再開発事業や、オフィスビルの仲介需要などが旺盛なことも、地方から首都圏へ建設関連産業が大幅に流入した要因とみられる。他方、「卸売業」や「運輸・通信業」など流通産業の転入は、コロナ前に比べて大幅に少ない水準で推移した。

首都圏への転入企業、中堅~大企業の割合増加 成長企業で「首都圏進出」目立つ

首都圏から地方へ転出した企業を売上高規模別にみると、最も多かったのは「1億円未満」(164社)で、多くが小規模な企業だった。大幅な減少となった22年(152社)から増加し、1990年以降で最多だった21年(179社)に次ぐ過去2番目の多さだった。22年に大幅な増加となった「10億円未満」(136社)は一転して減少した。首都圏外への企業移転は、コロナ禍中盤に多く見られた、業績堅調で従業員規模やオフィス規模が大きい中堅~大企業中心の動きから、コロナ禍前に多かった、IT関連産業など小規模な企業中心の動きへと戻りつつある。

地方から首都圏へ転入した企業でも「1億円未満」(120社)が最も多く、「10億円未満」(116社)を合わせると、転入企業全体のうち7割超の企業が売上高10億円未満の企業だった。一方で、売上高「100億円未満」(57社)と「100億円以上」(17社)はいずれもコロナ禍以降で最多となり、売上高10億円以上の企業が占める割合は過去5年で最も高い23.9%だった。

コロナ禍当初は、急激な環境変化を理由に業績が急変し、オフィス賃料などランニングコストの高い首都圏から地方へと移転する動きが急増した。首都圏外へ移転した転出企業のうち、移転年の売上高が前年から増加(「増収」)した割合は2021年で30.6%と低水準で推移した。23年の転出企業では、「増収」の割合が37.4%まで回復したものの、依然として業績の悪化といった背景を抱えた企業が多かった。

一方、首都圏への転入では、成長や規模拡大が続く企業が多くみられた。2023年に首都圏へ転入した企業のうち53.4%で売上高が前年から増加し、同割合は過去10年で最も高い水準だった。東京都心を中心に高機能オフィスの供給が拡大したことで、企業の受け入れ態勢が整ってきている。このほか、取引先との関係構築、人材採用の強化、海外や地方へのアクセス面など、首都圏に本社を置くメリットが再び見直され、拡大・成長する地方の地場中堅企業を中心に、首都圏へ本社を移転するケースが増加している。

首都圏集中」への揺り戻しも 24年は4年ぶり転入超過の可能性

総務省1月30日に発表した2023年の住民基本台帳人口移動報告によると、東京など1都3県への人口は転入が転出を上回る「転入超過」となり、新型コロナの流行前・19年の8割超まで回復した。首都圏を巡る人口流入は、リモートワークの普及などで一度は「脱首都圏」の動きもみられたものの、アフターコロナの経済再始動に伴い、再び「一極集中」の傾向が強まっている。

こうしたなか、これまで続いた企業の「脱首都圏」の動きも弱まりつつある。ウェブ会議を活用したビジネススタイルやリモートワークは、場所を選ばない多様な働き方として半恒久的な普及・定着もみられるものの、企業の脱首都圏を牽引する程の影響力は失いつつある。対照的に、転入企業の5割超が増収企業となるなど、地方からビジネスチャンスを求めて首都圏に移転する成長企業の増加が、首都圏への企業流入を再び加速させている。コロナ前にみられた、人口減が進む地方から消費者や労働力が集まる首都圏に本社を移す、首都圏一極集中の動きへの「揺り戻し」が進行してきている。

2024年は新型コロナの5類移行から1年が経過するなど、景況感は順調な回復基調を辿るとみられる。これまでも、景況感の回復局面では商機の創出や、人材の獲得のため首都圏に活動拠点を移す動きが活発化する傾向にある。首都圏へ流入する企業数が高水準で推移する形で、4年ぶりに首都圏への企業転入が転出を上回る「転入超過」に転じる可能性がある。

配信元企業:株式会社帝国データバンク

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