1900年に発行されたシュニッツラーの『輪舞』を原作に、範宙遊泳の山本卓卓が、現代の東京を舞台に書き下ろす話題作。10組のカップルの情事前後のやり取りがリレー形式で綴られていき、ふたりの俳優が演じ分ける。そこで山本と演出・美術の杉原邦生に、企画立ち上げの経緯から現段階における構想まで、たっぷりと語り合ってもらった。

その人たちの生き方を肯定も否定もしないリアリティ

――おふたりがタッグを組むことになった経緯は?

杉原 「デヴィッド・ヘアー作の『ブルールーム』をやりませんか?」と、パルコさんから提案されたのがそもそもの発端です。1998年ロンドンで初演された『ブルールーム』は、シュニッツラーの『輪舞』をアダプテーションさせた作品なんですけど、2001年に日本で上演された舞台を、たまたま僕も観ていてすごく印象に残っていたんですよね。で、これは面白そうだなと思ったものの、『輪舞』はもちろん、『ブルールーム』にも時代的な距離を感じてしまって。これはちゃんと今の作家にリライトしてもらいたいなと。そんな時に(山本)卓卓くんの『バナナの花は食べられる』(21年初演、23年再演)を観て、すごく“ナウ”だと思ったんです。言葉の質感とかリズム感、コミュニケーションのあり方みたいなものがまさに現在で。それで卓卓くんにお願いしたところご快諾いただき、やった!って感じでした(笑)。

山本 僕は今回のお話をいただいた時、『ブルールーム』側に断られたんだと思ったんですよ。

杉原 違う、違う! 全然断られてないよ(笑)。

山本 あ、本当ですか? 僕、自尊心低いので(笑)、それでこっちにオファーが来たんだと思っていて。まずはそれが聞けて良かったです。邦生さんとは結構長いおつき合いですが、あまり僕に興味がなさそうだなと思っていたんですよね。だから声をかけてもらえたのは本当に嬉しくて。書きながら対話していくうちに、僕が書くものをめちゃくちゃわかってくれた上でオファーしてくれたんだなってことが感じられて、それも嬉しかったです。

――“ナウ”の視点から10組のカップル像を描くに当たり、山本さんはどんなことを意識されたのでしょうか?

山本 事前にパルコさんの方で、『輪舞』と『ブルールーム』の比較表みたいなものを作ってくださっていたんです。現代に置き換えたイメージもあって、それはすごく助けになりました。そこから今の東京に「兵士」はいないけど、明日食うにも困る人はいっぱいいる。つまり生きるか、死ぬかの過酷な状態にある人として、「兵士」を「十代」に置き換えよう、とか。そうやって今の人たちを見つめた時に矛盾が起きないよう、さらに最先端の人たちが出てくるよう、そんなことを意識しながら書き進めていきました。

杉原 僕が卓卓くんにお願いしたのは、『輪舞』の構造を踏襲して欲しいということ。それと、単純な男女二元論の話にはしたくないよね、と提案させてもらったこと。そのふたつだけです。で、上がってきたものを読んだら、想像を遥かに超えた台本になっていて。さっき言ったような置き換えのことを“ずらし”と卓卓くんは言っていますが、それが憎いほどうまい。しかも登場人物たちの生き方というものを、肯定もせず否定もせず、そのまま提示している。非常にリアリティがあって、面白いなと思いました。

作家と演出家の間には独特の“ラブ”がないとうまくいかない

――リレー形式で描かれる10の情事の風景。その登場人物たちを演じ分けるのは、髙木雄也さんと清水くるみさん。たったふたりだけです。

杉原 おふたり共、舞台上ですごく存在感がありますよね。髙木くんは三浦大輔さんの作品(=22年『裏切りの街』)でもそうでしたけど、すごく体が生々しくて。舞台上に立っていても全然気負ってる感じがない。逆にくるみさんは、そういう体の状態を自分から作れる人というか。だから相性はすごくいいんじゃないかなと思っています。

山本 僕はまだ2回しかおふたりに会ったことがないんですが、髙木さんは本当にピュアだし、動物的というか、感覚的にやってくださる方のような気がします。一方で清水さんは、テキストを深く理解してくれているのが伝わってきますし、非常に理知的。そういう意味で、髙木さんといいバランスなんじゃないかと思いました。

――メインキャストのおふたり以外に、8名のステージパフォーマーも参加されます。その狙いは?

杉原 シーンがころころ変わっていくので、その連なりを輪舞(ロンド)のように、踊るように変化させたいと妄想しています。そこできちんと身体性を持った人たちが空間を動かし、彩ることによって、踊り続けるように場面転換が出来るんじゃないかと思っていて。さらに振付には僕が信頼する北尾亘くんが入ってくれているので、大いに力を借りたいと思っています。

――山本さんの劇団「範宙遊泳」では、作・演出を兼任されることがほとんどです。ただ本作同様、『心の声など聞こえるか』(21年)では作に専念されました。そのことによって新たに見えてきたことはありますか?

山本 やっぱり自分が作・演出を兼任しちゃうと、書きながら、「あ、これ演出するのやっかいかも」って思ってひっこめちゃう瞬間が必ずあるんですよね。それは絶対に良くないと思っていて。作演を分けてそれぞれに専念するためには、作家と演出家の関係性が非常に重要で。一定の信頼関係というか、独特の“ラブ”がないとうまいことマッチングしない。そういう意味で邦生さんは、自分にとっては“お兄ちゃん”みたいな存在。安心して任せられるし頼れる、「お兄ちゃんお願い!」みたいな感覚があって(笑)。そういう人と一緒に作品を作れるっていうのは、とても楽しい作業ですよね。

――杉原さんは演出だけではなく美術も手がけられます。現段階の構想は?

杉原 この作品ってふたりの密室というか、ふたりきりの空間が続いていくわけですよね。それを表すために、東京のどこか一角にあるであろうその空間を、ひとつの四角いセットで表現しちゃおうかと思っていて。それが動いたり、光ったり、物が入れ替わったり。『ブルールーム』にかけて「東京ルーム」(笑)。それが今回の美術のテーマです。でも、あくまで現段階の構想なので、全く違うものになるかもしれませんけど(笑)。

取材・文:野上瑠美子 撮影:藤田亜弓

<公演情報>
PARCO PRODUCE 2024 『東京輪舞』

原作:アルトゥル・シュニッツラー
作:山本卓卓
演出・美術:杉原邦生

出演:髙木雄也 清水くるみ

【東京公演】
2024年3月10日(日)~3月28日(木)
会場:PARCO劇場(渋谷PARCO 8F)

【福岡公演】
2024年4月5日(金)~4月6日(土)
会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール

【大阪公演】
2024年4月12日(金)~4月15日(月)
会場:森ノ宮ピロティホール

【広島公演】
2024年4月19日(金)
会場:広島上野学園ホール

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/tokyoronde/

公式サイト:
https://stage.parco.jp/program/tokyoronde

左から)山本卓卓、杉原邦生