『悪人』(10)、『怒り』(16)などの作品で知られる吉田修一の同名小説を江口のりこ主演で実写化した映画『愛に乱暴』が8月に公開されることが決定した。

【写真を見る】原作は、数々の権威ある文学賞を受賞した吉田吉田修一の同名小説

本作は愛のエゴと献身、孤独と欲望のはての暴走を描くヒューマンサスペンス。夫の真守と共に、真守の実家の敷地内に建つ離れで暮らす桃子は、義母から受ける微量のストレスや、夫の無関心を振り払うように、石鹸教室の講師や、センスのある装い、手の込んだ献立などいわゆる“丁寧な暮らし”に勤しみ毎日を充実させていた。しかりある時、桃子の周囲で不穏な出来事が起こり始める。近隣のゴミ捨て場で相次ぐ不審火、失踪した愛猫、匿名の人物がつづる不気味な不倫アカウント、そして夫からの青天の霹靂とも言える申し出など、桃子の平穏な日常が少しずつ乱れ始める。

原作は、数々の権威ある文学賞を受賞し『さよなら渓谷』(13)、『楽園』(19)など多くのベストセラーが映画化されてきた吉田の同名小説。人間の複雑な感情とその裏に隠された本質を鋭く炙りだしてきた吉田が、愛のいびつな衝動と暴走を力強い筆致で描く。吉田は撮影現場に訪れたことを「夏の長い宵の中、誰もが美しかった。いまこの場所で一つの奇跡が生まれようとしているのが分かった」とコメントしている。

監督、共同脚本を務めるのは、CMディレクターとして国内外の広告賞を席巻後、初の長編映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』(17)で第39回ヨコハマ映画祭森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞。そして『さんかく窓の外側は夜(21)を手掛けた森ガキ侑大。「この原作を読んだ時に『いま』映画化する意味があると強く感じた」と語る森ガキは、物語に隠されたある仕掛けから、映像化は難しいと思われた原作小説を繊細にアレンジ、フィルムを使って主人公の背後に吸い付くようなカメラワークで撮影、息もつかせぬ緊迫感に包まれたサスペンス映画に仕上げた。

主人公の初瀬桃子を演じるのは、唯一無二の存在感とユニークなキャラクター、そして高い演技力で多数の作品に出演し、2024年は映画『あまろっく』(4月公開)、ドラマ「ソロ活女子のススメ4」、「お母さんが一緒」など主演作が続く江口。手に入れたはずだった平穏な日常が少しづつ不穏な空気を帯び乱れていく桃子を振り切った怪演で表現。原作ファンだと語る江口は「(原作小説が)面白過ぎて、映画化するハードルの高さにモヤモヤしていました。しかし撮影現場で、監督の映画作りの情熱や、共演者の方々のお芝居に引っ張られ、森ガキ組の映画としての『愛に乱暴』を作ればいい!と吹っ切れ、真夏の暑さと共に夢中で撮影しました」と本作にかける想いを打ち明けている。

共演は、桃子を空気のように扱う夫、真守役に小泉孝太郎。いままでのパブリックイメージとは真逆の、かげりのあるアプローチを見せている。「実は僕が乱暴な男なのか、奥さんの桃子が乱暴な女性なのか、観て下さった皆さんが『愛に乱暴』というタイトルの意味をどうとらえるのかとても興味があります」とコメント。また夫に先立たれ息子への関心が高まる真守の母、照子役には「脚本と出会い、読むとサスペンスチックに心掻き立てられる脚本で、どんな映像になるのかが、私がそそられた部分でした」と語る風吹ジュン。真守の不倫相手、奈央役には女優として着実にキャリアを積んでいる馬場ふみかが扮し、「いままで味わったことのない鋭い緊張感で指先がかじかみ、撮影が終わった瞬間に肩の力が一気に抜ける感覚を覚えています」と撮影を振り返っている。

平穏な暮らしが徐々に崩れ始める主婦を通して、いびつな愛の暴走を描き出す本作。個性派キャストの熱演をぜひスクリーンで堪能してほしい。

■<キャストコメント>

●江口のりこ(初瀬桃子役)

「原作である吉田修一さんの小説『愛に乱暴』が面白すぎて、映画化するハードルの高さにモヤモヤしていました。しかし撮影現場で、監督の映画作りの情熱や、共演者の方々のお芝居に引っ張られ、森ガキ組の映画としての『愛に乱暴』を作ればいい!と吹っ切れ、真夏の暑さと共に夢中で撮影しました。今回演じた桃子というキャラクターは、映画の中で迷い、暴走し、自分の居場所を見つけようとする女性です。みなさま、是非劇場でご覧になって下さい」

小泉孝太郎(初瀬真守役)

「森ガキ監督とは撮影前に役柄について細かく話す機会をいただき、そこでいろいろ話せたので、真守の独特なキャラクターを固めることが出来たことに感謝しています。真守はなにを考え、どんな感情でいまいるのか、非常に分かりづらい男だと思います。炎天下での撮影でしたが、そういうとこでも暑いのか暑くないのか、そういう人間の見えやすい感情さえも隠れてしまうような独特な男です。個人的には江口さんと炎天下のなかでもたくさんの雑談が出来て、役では一切笑わないのに、雑談ではずっと笑っていたような記憶があります。たくさんコミュニケーションを取って下さった江口さんには感謝です。この映画では僕は非常におとなしい男ですが、実は僕が乱暴な男なのか、奥さんの桃子が乱暴な女性なのか、それともごくごく普通の当たり前の感情を持っている夫婦なのか、観て下さった皆さんが『愛に乱暴』というタイトルの意味をどうとらえるのかとても興味があります」

●風吹ジュン(初瀬照子役)

「『愛に乱暴』の脚本と出会い、読むとサスペンスチックに心掻き立てられる脚本で、どんな映像になるのかが、私がそそられた部分でした。心理描写が重要で、役者としてのキャラ作りの課題が大きく面白そうで私には断る理由はなく、主演が江口のりこさんと聞いて、二つ返事でした。撮影中は、森ガキ監督が映画に対して“ガキ”そのもの(笑)で、遊び心を忘れず初めから最後まで本当に楽しそうでいらして。演じた照子は、普通によく居そうな息子愛の強い母親だと思いますが、江口さん演じる桃子からの捉え方で嫌な人物に見えていれば私としては成功かなと思ってます。『愛に乱暴』は観る方其々の楽しみ方が有る作品だと思いますので、ご覧になる方の感性に期待しております」

馬場ふみか(三宅奈央役)

「森ガキ監督は1シーンごとに役者と言葉を交わし丁寧に映画をつくっていく姿がとても印象的で、そんな作品に携われたことが、とても幸せだなと感じる撮影でした。三宅奈央を演じる日々は、暑い夏の撮影でしたが役柄も相まって今まで味わったことのない鋭い緊張感で指先がかじかみ、撮影が終わった瞬間に肩の力が一気に抜ける感覚を覚えています。ぜひ、劇場で体感していただけると嬉しいです」

●森ガキ侑大(監督、脚本)

「この原作を読んだ時に『いま』映画化する意味があると強く感じました。現代は生産性ばかりを求めている社会が存在していて、世の中の隅に追いやられ孤立している人がいる気がしていました。主人公の桃子は社会の中で葛藤を抱き、もがきながら一生懸命に生きています。桃子の姿は時にユーモラスで、時に刺激的で読んでいる自分の心を動かしました。原作者である吉田修一さんとお会いし、映画化を許可して頂いた時の喜びとプレッシャーはいまでも心の奥に残り続けています。この素晴らしい原作を繊細に、そして大胆に演出しました。灼熱の太陽の下、江口さんを始めとする素晴らしい役者陣とスタッフが一緒に死にもの狂いでフィルムに焼き付けた本作には奇跡の連続が宿っています。スタッフ全員で紡いだこの映画が多くの方に届くと強く信じています」

●吉田修一(原作)

「記録的猛暑となった昨年の夏の盛り、神奈川県郊外の撮影現場を訪ねた。これまで何度となくこういった現場には足を運んできたが、こんなにも雰囲気の良い現場は初めてだった。汗まみれのスタッフも熱演するキャストも撮影に協力してくれているご近所の方々も、夏の長い宵の中、誰もが美しかった。いまこの場所で一つの奇跡が生まれようとしているのが分かった。森ガキ監督の情熱に、江口のりこという俳優の肉体に、スタッフの方々の汗に、この土地が味方してくれているのがはっきりと伝わってきた。一人でも多くの方にこの映画を観ていただきたいと切に願っております」

文/スズキヒロシ

吉田修一のヒューマンサスペンス『愛に乱暴』江口のりこ主演で8月公開決定/[c]2024 「愛に乱暴」製作委員会