足元、日経平均株価がバブル期以来の水準まで上昇する一方、実はリスク回避資産の代名詞である「金」が買われるなど、相場のリスク回避の姿勢には根深い部分があると、アライアンスバーンスタイン株式会社の荒磯亘氏はいいます。こうした相場環境で「さらなる株高」は訪れるのでしょうか。米国経済を中心に複数のデータを紐解きながら、荒磯氏が解説します。

2024年の米国経済の展開は

――2023年の終盤は、一転して円高基調が強まり、米国株は高値にトライする展開となりました。足元の相場について、どう見ていますか?

荒磯「文学的に表現すると、『期待と現実のあいだで金融市場が揺れ動いた』ということになるでしょうか。2023年は、米国が利下げに転換するという市場の『期待』が広がったものの、『現実』には、同年の7~9月期において米国が他の主要国を圧倒するほどの経済成長率をみせました[図表1]。

FRBは市場が持つ利下げへの期待感を意識しつつも、米国景気の強さを冷静に分析し、利上げ姿勢を続けたという格好です」

――市場はFRBが利上げにこだわりすぎていると嫌がっていたわけですが、FRBの判断には根拠があったということですね。

荒磯「そうですね。ただ、2023年10~12月期になると米国の経済成長も減速してきたことから、FRBの利上げへのこだわりも小さくなり、市場では『利下げに対する期待感』が高まりました。また、金利が下がることで、為替市場や株式市場における重しが弱まるとの予想から、2023年終盤の“円高・株高”という展開になったと分析しています」

米国「利下げの時期」はいつか

――市場の注目は「米国の利上げは終わったのか」から「米国は利下げに転換するのか」という点に移っています。利下げはいったいいつになるのでしょうか?

荒磯「米国の利下げには、大きく『景気』と『インフレ』という2つのハードルがあり、その実施までには少し時間がかかるとみています。

『景気』を測る指標として、『余剰貯蓄』と『平均賃金』、『住宅ローン金利』が重要と考えています[図表2]。米国では、新型コロナウイルス感染症対策として現金給付や住宅ローンの返済猶予などの施策が行われ、これによって増えた余剰貯蓄が旺盛な消費を生み出していました。

しかし、余剰貯蓄の割合は2022年6月をピークに足元で減少しています。『平均賃金』は、インフレ下にあっても伸びてきましたが、2022年の中盤から弱含んでいます。

また、『住宅ローン金利』は2023年9月時点で7%を超えており、住宅購入はいっそう難しくなっています。3つの指標が示すように、景気に関しては、利下げに向けた方向にあると思います」

米国の利下げを阻むもう1つのハードル

荒磯「利下げのもう1つのハードルは、『インフレ』です。FRBが最後に利上げしたのは2023年7月ですが、これ以降、CPI上昇率が鈍化してきました。今後は、消費も鈍ってくると考えられることから、利下げの条件を徐々に満たしていくとみています。

2023年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、FRBが金融政策の姿勢を引き締めから中立に落とすイメージを持っていることが伺えましたが、市場は早期に緩和まで行ってほしいと期待しており、まだ思いのズレがあるようです。

しばらくは、市場が利下げを督促し、FRBがそれをけん制する流れが続くのではないでしょうか」

投資は「強気」で臨むべきか?

――方向性として利下げに向かうのであれば、投資は強気で臨んだほうがいいのでしょうか?

荒磯「現在はインフレの環境下であり、過去のケースと違って、景気減速に先んじての利下げとならない点は、2024年のトリッキーなところです。景気が減速した際のダウンサイドについて、お話します。

[図表3]は、国がGDPに対してどれくらい借金をしているかを表す『公的債務対GDP比』です。

縦軸の上に行くほど借金が多い状態を表しており、青線が示す米国政府の借金の金額は、第2次世界大戦の時を超えるくらいの水準になっています。新型コロナパンデミック対策や、 地政学イベントに関連する国際支援、軍事費の増加などにより借金が増えています。

このため今後、景気が弱ってきた局面でも、さまざまな景気刺激策を打ち出すことが難しくなっている点は、注意が必要です。

また、これまで世界経済拡大の一翼を担ってきた新興国も、投資における頼もしい存在ではなくなりつつあります。中国は、公的債務が急増しているだけでなく、不動産関連の問題にからむ民間債務も増えており、景気刺激策を講じづらい状況にあります」

2024年、注目は“滞留資金”の行方

――足元では、どのような資産が注目されていますか。

荒磯「2023年12月に史上最高値を更新したゴールドに資金が流入しています。“有事の金”と言われるように、世の中が不安定なときは実物資産にお金を逃がし、資産を保全する動きがみられます」

——中国でも不動産が買いにくくなり、若者がゴールドを買っているというニュースがありましたね。金融商品の注目はありますか。

荒磯「[図表4]は、2023年のファンドごとの投資資金の流入を表したグラフです。2023年は、株式にも債券にも大きな資金が向かいませんでした。フローが集中したのは、短期の公社債などで運用する比較的安全性が高いマネー・マーケット・ファンド(MMF)でした」

――2022年は株式も債券も下落したことから、2023年は投資家がMMFに資産を移していたということでしょうか。

荒磯「はい。ただ、この先、市場で利下げが織り込まれてくると、MMF利回りが大幅に下がる可能性があり、2024年のどこかでMMFの大量資金が別の資産へ移っていくことが十分考えられます。

もっとも可能性が高い移管先は、MMFプロファイルが似ている信用力の高い債券だと思いますが、株式を含む成長資産にもプラスでしょう。金利低下の局面で、いろいろな資産を買うチャンスが出てくることが、2024年最大のポイントです。

一方、金が買われているように、相場のリスク回避の姿勢には根深い部分が感じられます。少なくとも2024年の上半期は、2023年よりも景気が減速しそうですから、『金利が低下する』という見通しがなければ、利益獲得が難しい相場が続きそうです。

むしろ、景気が下ぶれるくらいのほうが金利低下の確信が強まりやすく、ムードが一気に好転する可能性があるのではないかとみています。成長分野の企業や、高金利のインカムを活用して資産を守りつつ、相場のチャンスを見極めることが重要です」

――足元、MMFやゴールドなどに滞留資金が積み上がっている状況は、資産運用にとってむしろ好材料です。金利低下のスピードが早まれば、金融市場にもプラスとなり、株高を演出する材料となります。この点をうまく資産運用に生かしたいですね。

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(※写真はイメージです/PIXTA)