国連の機関であるUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の職員の一部が、2023年10月のハマスによるイスラエルへのテロ攻撃に関与していたとして、2024年1月、米・独・英・日本など西側主要国が拠出金の一時停止を表明しました。これに対して、関与はあくまでイスラエル側の主張で、支援停止はパレスチナのガザ住民への死刑宣告に等しい、との抗議が巻き起こっています。

 一方で、UNRWAの中立性に疑問を呈する陣営も。UNRWAとハマスの問題について以前より警鐘を鳴らしてきたイスラム思想研究者・飯山陽さんは、『ハマス・パレスチナ・イスラエル-メディアが隠す事実』でその関係について解説しています。

 同書より一部抜粋します(記述は、刊行時=2023年12月のものです)。

◆EUがパレスチナ支援を見直す理由

 日経新聞が、「EU、パレスチナ支援見直しへ10日に緊急外相会合」(2023年10月10日)という記事を出しました。冒頭にはこうあります。

欧州連合(EU)のバルヘリ欧州委員(近隣・拡大政策担当)は9日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルへの攻撃を受け、パレスチナ向けの支援を見直すと表明した。X(旧ツイッター)で、6億9100万ユーロ(約1080億円)分の資金援助について再検討する考えを示した。〉

 なぜ、それがハマス向け支援ではないにもかかわらず、ハマスのテロによってパレスチナ支援を考え直す、とEUが言っているかというと、実際にはハマス向けではないはずのパレスチナ支援が、いろいろな形でハマス支援、テロ支援になってしまっているのが実態だからです。

 たとえば、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は、国連の中で、パレスチナ難民支援をもっぱら行うための機関ですが、UNRWAは他の支援機関とは異なり、パレスチナ難民キャンプの運営自体を担い、学校や病院など900以上の施設を運営しています。

 UNRWAは3万人という大量の職員を雇用しており、その中にはハマスのメンバーや支援者、シンパも多い。

 UNRWAの学校で用いられている教科書は、イスラエル人に対する敵意に満ち溢れており、イスラエル人を攻撃することは讃えられるべきジハードであるとされ、イスラエル人を襲撃したパレスチナ人が英雄と讃えられロールモデルとして提示されている。

 UNRWAの学校の教師たちはSNSにテロを肯定し、称賛し、反ユダヤ主義を煽る投稿をさかんにしていることも調査で判明しています。

◆子供を「人間の盾」にして利用するハマス

 UNRWAの学校では、ハマスサマーキャンプ、要するに子供向け軍事訓練キャンプの募集が行われ、地下にはハマスのトンネルが掘られ、ハマスの武器庫にもなっている。ハマスは学校をテロ拠点にし、子供を「人間の盾」にしているのです。

 今もガザ地区ではUNRWAの学校が子供のシェルターになっています。そこは同時に、ハマスの武器庫であり、ハマスの拠点でもあるわけです。

 イスラエルハマスの戦闘能力を削ぐためにそこを攻撃すれば、当然子供が犠牲になる。だからこそ、ハマスはUNRWAの学校を拠点にする。

 そして子供が犠牲になると、「イスラエルは罪のない子供をこんなに殺した! 大量虐殺者だ!」と大騒ぎし、それを日本の朝日新聞毎日新聞やNHKや共同通信のようなメディアが大々的に報じ、世界中に「イスラエルパレスチナを占領し、抑圧し、罪のない子供を大量虐殺する悪」という印象が定着する。

 そしてなぜか、子供を「人間の盾」として利用しているハマスが、「かわいそうなパレスチナ人を守る正義の戦士」ポジションを取る。

 ここまで全部含めて、ハマスの作戦です。

 こんな問題があるものだから、以前からEUがUNRWAに資金提供していることは、間接的なテロ支援ではないかと問題視されてきたわけです。

◆日本にアジア初のUNRWA拠点という計画も

 このEUのパレスチナ支援見直しの中にUNRWAへの支援が含まれているのかどうかはわかりませんが、人道的であるはずのパレスチナ支援が、最終的にはテロ促進、テロ支援に帰着していることが多いという問題は、すでに明らかになって久しい。

 日本はこのUNRWAの最大の支援国の一つです。毎日新聞の「UNRWA、アジア初の拠点を日本に設置へ パレスチナ難民を支援」(2023年9月16日)という記事にあるように、これまでの支援額は10億ドル(約1470億円)を超える。

 この記事にあるように、近くアジア初のUNRWA拠点が日本に設置されることがわかっています。

 日本には、EUのようにUNRWAで行われているテロ教育を問題視し、UNRWA支援を見直すよう迫るような論調は一切ありません。

 UNRWAには汚職の問題もあります。日本では、それについてもほとんど報じられない。だから、UNRWA支援が見直されることがないわけです。UNRWAとしては、日本ほどちょろくておいしい国はありません。(編集部注:その後、日本政府も2024年1月28日、UNRWAへの資金拠出を一時的に停止すると発表しました)

◆UNRWAを長年支援してきた日本

 私が『アベマプライム』というインターネット番組に出た時、そこで元NHKアナウンサーの堀潤という人が、日本国としては市民の人たちをどう支えるか一致団結して考えるのがすごく大切とか、日本はとにかくパレスチナの市民と連帯を云々と主張し、その中で、日本は長年、UNRWAを支援してきてすごいんだみたいなことを言っており、「出たな」と思いました。

 UNRWAにカネを出すことで国際的義務を果たしている、自分たちは「弱者パレスチナ」に寄り添っていると自己満足に浸る。

 そういう人たちが、パレスチナ発展の足を引っ張り、ハマスを増長させてきたという、そういう側面があることを、私はこれからも伝えていきたいと思っています。

岸田首相以外のG7首脳「ハマスの行為はテロ」だと非難

 さて、先に紹介した日経新聞の記事にはこうあります。

〈バルヘリ氏は「イスラエルや市民に対するテロの規模や残虐性は転換点だ。通常通りにはできない」と強調した。EUはこれまで低所得家庭の生活支援などの名目で、パレスチナ向けに援助資金を提供してきた。 

 EUの外相にあたるボレル外交安全保障上級代表は同日、10日に緊急のEU外相会合を開催すると発表した。ボレル氏はハマスが野外音楽イベントの会場を襲撃したことなどを強く非難。Xに「無実の民間人を標的にすることは決して正当化できない」と投稿した。〉

 欧米諸国では、ハマスの大規模テロ攻撃を受け、ハマスの残虐性は絶対に許さないという論調が強まりました。

 そのことは、日本の岸田首相以外のG7首脳が、口を揃えてハマスの行為を「テロ」だと非難し、イスラエルの立場に寄り添うと宣言したことからもわかります。

 そして、彼らは、ただそう宣言しただけではない。アメリカは軍事支援を開始しました。EUはパレスチナ支援を見直しはじめました。イスラエルにいる自国民を救出するための作戦を展開している国ももちろんあります。

◆テロという言葉を使わなかった岸田首相

 一方、日本はどうか?

 岸田首相ハマスの行為をテロだと非難することもせず、主権国家であるイスラエルに「自制」を要求する声明を出した(2023年10月)。

 在イスラエルの日本大使館は、在留邦人に電話をかけて安否確認をし、サイレンが鳴ったらシェルターに行け云々と「アドバイス」しただけです。

 そんなもの、イスラエルに住んでいる人なら今更言われるまでもなくみんなわかっているし、日常的に実践していることです。

 日本は、テロと戦うという意思も示せない。

 これはつまり、岸田政権はもし日本がテロ攻撃に遭い日本国民が犠牲になっても「自制」しますという、そういう意思表示でもあるわけです。

<文/飯山陽 構成/日刊SPA!編集部>

【飯山陽】
1976(昭和51)年東京生まれ。イスラム思想研究者。麗澤大学国際問題研究センター客員教授。上智大学文学部史学科卒。東京大学大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻イスラム学専門分野博士課程単位取得退学。博士(文学)。『ニューズウィーク日本版』、産経新聞などで連載中。著書に『中東問題再考』『イスラム教再考』(以上扶桑社新書)、『エジプトの空の下』(晶文社)など。

UNRWAから配られた食料を運ぶパレスチナ住民。2023年1月(写真/Abed Rahim Khatib)