―[メンズファッションバイヤーMB]―


 メンズファッションバイヤー&ブロガーのMBです。洋服の買いつけの傍ら、「男のおしゃれ」についても執筆しています。連載第467回目をよろしくお願いします。

◆GU×UNDERCOVER第3弾が発売! しかし、肝心の出来は……

 国内ファストブランドGUと世界で活躍するジャパニーズデザイナーズUNDERCOVERとの3度目のコラボレーションが2024年3月1日にいよいよ発売となります。

 第一弾でもレザーライダースなどUNDERCOVERアイコンアイテムが7000円ほどで手に入ると話題となり即完売、メルカリ転売が続出するなど大変な人気となりました。

 無論値段が値段ですからUNDERCOVERそのままの素材、作りというわけにはいきませんが……それでも普段手が出ないような高額デザイナーだけに素材がグレードダウンしていようとお得感は十分感じられるもの。

 そんな今回、発売する第3弾のラインナップ、事前にプレスルームで拝見することができました。見せていただいたGUさんには大変申し訳ないですが……忖度なく遠慮なく語っていこうと思います。今回は僕の気になったアイテムをいくつか紹介させていただきます。ぜひ最後まで読んでみてください。

◆革ジャンの基礎知識「アメジャン」「ロンジャン」って知ってる?

2WAYライダースジャケット UNDERCOVER 7990円

 まずはこちら人気が出そうな2WAYライダース。長年、UNDERCOVERが定番し続けているレザーライダースのGU廉価版といったところ。ところでレザーダブルライダースには「アメジャン」「ロンジャン」と呼ばれ、大きく2極しています。

 アメジャンとはUSアメリカがルーツにあるもので代表ブランドは「Schott/ショット」などでしょうか。裾にベルトがついていたり肩にはエポーレットがあったりと、ややゴツ目の印象が強いアメジャン。対してロンジャンとはUKロンドンにルーツを持つもので代表ブランドは「Lewis Leathers/ルイスレザー」などでしょう。

 イギリスにはテーラードジャケットの文化があり、袖や身頃を立体的に仕立て、体を美しく見せる仕立てが得意です。ロンジャンもその蓄積が生きており、袖は立体的で大きくカーブがかかっており、人間の腕にフィットするように作られています。

 これはテーラードが元……というよりUKのバイク乗り達が前傾姿勢で乗る「カフェレーサー」というカテゴリを愛していたからという理由もあります。アメリカンバイクは「チョッパー」などやや高いところにハンドルがあるため、前傾の立体的な袖のラインを必要としなかったのですが、UKバイクシーンではハンドルが低い位置にあったためこうした袖形状が愛されたのです。

◆しっかりとUNDERCOVERらしさを表現しようと工夫

 また、前傾姿勢だけに背中が出やすくなってしまうので、アメジャンよりロンジャンのほうが着丈が長くなる傾向もありました。

 過去、UNDERCOVERはルイスレザーとコラボすることもあったくらい、「ロンジャン」がイメージソースになっています。GUコラボ品でもこのフィロソフィーをしっかりと受け継いでおり、着丈長め立体袖のロンジャン仕様に。

 このあたりからも「アンダーカバーってロゴをつけておけば売れるでしょ? アンダーカバーさんもそれでお金がチャリンチャリン自動的に入ってくるんだからWINWINでしょ?」なんて甘い考えで作っていないことが理解できます。

 安価な素材ながら、しっかりとUNDERCOVERらしさを表現しようと工夫していることが伺えますね。「UNDERCOVERファン」でも十分満足できる出来になっています。

◆素材はグレードダウンしているものの…

 当然、普段高額で売られているものが7990円ですから。素材は大きくグレードダウンしています。リアルレザーからフェイクレザーに変わっており、本物志向の方には到底おすすめできるものではないと僕も思います。

 ただし……GUは長年フェイクレザー製品に力を注いでおり、どんな素材をチョイスすれば嘘くさくならないか理解していること、またフェイクは近年素材開発が進んでおり、「本革にしか見えない超リアルなものや蒸れないフェイクレザー」など多くの優れたファブリックが登場していることから、こちらも十分見栄えのいい出来にはなっています。

 レザー表面のシボ感などかなりリアルに作られており、フェイクの中では相当再現度が高い方です。7990円でコレなら文句はないでしょう。

 もちろん目利きが出来る玄人にコレをおすすめすることはありません、この商品は「レザーライダースを買ったことがない人の入門編」として手にするのがいいでしょう。リアルレザーのライダースはどうしても高額なものが多い。

 近年、レザーの価格も高騰しておりますます手を出しにくいものとなってしまいましたから、「似合うか似合わないかわからないのに高いお金を出せない!」と思う人も多いはず。しかし、7990円なら入門として十分出せる金額のはず。最初の一歩としておすすめです。

◆袖を外すと「ヒャッハー!」になるので要注意

 また、商品名になっている通り、今回2WAY。袖がはずせてベストになります。しかしながら、これ実際やってみると『北斗の拳』でお馴染みの「ヒャッハー系ファッション」になりかねないので注意。相当ファッションリテラシーの高い方、コーディネートに自信がある方でないと着こなすことはできないかも。

 上述の通り「入門編」という位置付けが強いと思うので、当然そうした方は初心者が多いはず。だとすると着こなしにリテラシーが必要となるこの袖ギミックはもしかしたら不必要だったのかも……と思っちゃいました。

 ただ、上述の通り素材感やデザインディティールなどは本格的。パーツ類もなんとすべて今回のコラボに合わせてオリジナルで作っており、スナップボタンもZIPの引き手もすべて刻印がなされているこだわりよう。

 これでこの値段なら間違いなく文句は言えない。入門編としては買い一択です。気になっている方は今回はメルカリ転売される前にGETしておきましょう。

◆モッズコートはなぜ「モッズ」と呼ばれるのか

2WAYオーバーサイズモッズコート UNDERCOVER 7990円

 ロンドンスタイルの引用が比較的多くみられるUNDERCOVER、然してモッズコートも代表的なアイテムとなっています。モッズとは元々イギリスで生まれたファッション文化のことで名称は「モダンジャズ」から由来します。

 モッズたちは深夜のクラブにバイクで向かうのが日課。その際にお気に入りのスーツが汚れることを嫌った彼らは当時、流通していたアメリカ軍の卸品であるM51を泥除けとして羽織っていました。このことから「モッズコート」という呼称が誕生しています。

 ちなみにモッズコートは米軍M51モデルとM65モデルとの2デザインに分類されることが多いのですが、両者の主な違いはフード。フードがボディについたままのものがM51であり、新型であるM65はフードが脱着できるのが大きな特徴。

 今回はフードがついたデザインなのでM51かと思いきや、M51にあるはずの肩エポーレットがないなどUNDERCOVERオリジナルでディティールを省略追加しているようです。なのでM65とM51のミックスとなっています。

◆珍しく本当に使える「2WAY仕様」

 長い着丈が特徴のモッズコートですが、こちらはお腹あたりに長くZIPが配置されておりなんとロングorショートの切り替えが可能。この手のアイテムは「できるけどしない」ものが多く……たとえば、「リバーシブルアイテム」など本当に裏返して使う人は実際ほとんどいないですよね? どうしても着用はどちらかに偏ってしまうものです。

 しかしながら、こちらはショート丈になってもバランスが崩れていないのが大きな特徴。ショートにすると同じく米軍のECWCS(通称米軍パーカ)にも見えなくはない。どちらを使ってもバランスがくずれておらず、最初からそうであったかのような佇まいになっているのが素晴らしい。

 ショート丈の場合はポケットの裏地が裾からハミでてしまうのですが……なんとハミ出たポケット裏地にもしっかりとデザインがされており(ネームタグがあしらってある)自然な印象になっています。

◆生地感はそれなりだが…春ならこれで十分か

 ただし、7990円という安価だから仕方ないと思いますが、裏地はありません。生地も薄手のナイロンなのでアウターとしては少し頼りない。

 もっとも春先のコートならこのくらいの生地感の方がむしろ使い勝手がいいともインナーを着込めるだけの身幅が用意されているし、特に着用シーズンが短いわけでもない。生地には撥水性があるので梅雨時期にも活躍できるでしょう。

「厚手のアウターがほしい」「しっかりとした生地感のコートがほしい」と思うなら適さないですが、春用のライトアウターを求めているなら十分欲求は叶えてくれるはず。

 色味は黒とカーキの2色、カーキカラーがミリタリーものにしてはやや明るい色でクリーンすぎるのが気になりますが……このへんは好みかな。個人的にはメンズのモッズならもう少し土臭いダークカーキのほうが雰囲気あって使いやすいとも。なので僕は今回黒をおすすめしたいです。

◆実はユニクロGUのバッグ類は作るのが難しい…

キルティングサコッシュ UNDERCOVER 2990円

 最後におすすめしたいのがこちら。ミリタリーライナーコート(モッズコートに脱着できる防寒用のキルティングウェア)をリメイクしてこうしたミニバッグが作られることが多いけれど……そのあたりがイメージソースか。

 実は以前ユニクロの企画チームとも話したことがあるのですが、ユニクロGUなどの価格帯でバッグを作るのは非常に難易度が高い。コートやトップスなどよりも実は非常に難しいのです。

 というのもGUやユニクロのバッグで売れ筋となるのは値段にして1000円台。高くても2000円台がMAXとのこと。この安価で凝ったバッグを作る、というのがそもそも難しい。

◆バッグを安価にするのが難しい理由

「え? バッグなんてミニサイズなら生地も使わないだろうし安くできるでしょ?」と思うかもしれませんが、そうじゃないんです。

 確かに生地の量は少ないのですが、縫う場所が非常に多いのがバッグの難点。なにしろモノを収納するためのものですから、ポケットだったりZIP類だったりとパターンが複雑になることが多い。

 こちらもストラップは肩と手持ちで2つあり、入り口を締めるドローコードがあり、外側ポケット1つ、内側ポケット1つ、さらにサイドZIPがついており(肩にかけた状態でも中身が取り出せるためにある仕様)……Tシャツなどよりもはるかに細かく複雑な工程があるのです。これを1000~2000円で実現するのは大変難しい。

 縫製単価の安い生産国を選び、生産ロットをある程度用意し、ようやく実現できるはずなのでなかなか調整に苦労するところでしょう。

◆メンズも抵抗なく使えるカラーリング

 今回、ミニバッグにしてはやや値段高めですが、上述の通りの複雑な機構と機能性、加えてストラップなどはなんとオリジナルで開発しており、ジャカードで柄を入れてある高級仕様に。

 レディース受けしそうなデザインではありますが、カラーリングがメンズライクなため男性でも比較的抵抗なく使えるはず。

 コートなどにこれを合わせて使うのはおすすめ。ちょっとしたアクセントになるし、何より安っぽく感じないはず。

 以上、おすすめ品を3つ紹介していきました。今回、型数を大幅に絞ったことで「捨て駒」のない、いいラインナップになっていたと思います。

 さすがギャルソンの次期デザイナーと目される高橋盾。日本を代表するデザイナーの作品がGU価格で買えるなんて良い時代になりました。3月1日は注目必至でございます。

【MB】
ファッションバイヤー。最新刊『MBの偏愛ブランド図鑑』のほか、『最速でおしゃれに見せる方法 』『最速でおしゃれに見せる方法』『幸服論――人生は服で簡単に変えられる』など関連書籍が累計200万部を突破。ブログ「Knower Mag現役メンズバイヤーが伝えるオシャレになる方法」、ユーチューブMBチャンネル」も話題に。年間の被服費は1000万円超! (Twitterアカウント:@MBKnowerMag

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2WAYライダースジャケット UNDERCOVER