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昨今、社会問題化しているクマによる人身被害。クマが出没する地域の自治体が対策に取り組むなか、注目を集めているのが長野県による「学習放獣」だ。

2月13日長野県はクマが大量出没した際には「警報」を発令し、捕獲・駆除を優先する方針を示した。こうした警報を発令する方針を示したのには、同県では原則として、クマを捕獲した場合は殺処分せず、クマに人間の怖さなどを学ばせてから山に返す「学習放獣」を採用しているという背景がある。

しかし、昨年から今年にかけて県内のクマ被害が増加。クマの目撃件数は1401件と前年より約2倍に増え、人身被害も11件発生。昨年10月には死亡事故も起きた。

そこで、出没数が増加した際に警報を発令することで、学習放獣を一旦ストップし、クマの捕獲・駆除を優先することで、被害を食い止める狙いがあるという。

あまり聞きなじみのない学習放獣という取り組みだが、具体的にはどのようにクマに対して恐怖を“学習”させているのだろうか。同県の鳥獣対策室に話を聞くと、軽井沢にあるNPO法人「ピッキオ」が行なっている取り組みを例に挙げ、その方法を教えてくれた。

「一般的に長野県で学習放獣と言っているものですと、ベアドッグという犬を使って、罠にかかったその熊に吠えかかったり、あとは猟友会なり人間が大勢囲んで大声を出すといった方法ですね。熊に、人とかに里に近づくことに対する恐怖心と言いますか、警戒する記憶を植えつけて放獣をする、そうした取り組みのことを学習放獣と呼んでいます」

檻にかかったクマに犬が吠えかかったり、人間が取り囲んで大声を出したりすることで「恐怖」を与えているという。人間や犬の何倍も力があるというクマに対して“お仕置き”は果たして効果があるのだろうか。

「檻にかかったこと自体がクマにとってはストレスになるので、そのことだけでも嫌な記憶という風に残る。それだけでも学習放獣の効果はあるんじゃないかと言われています」

また、過去には催眠スプレーのようなものを使って刺激を与えていたという例もあったとが、「最近はあまりそこまではしていないという風に聞いてます」という。

学習放獣の研究は同県の信州大学が行なっているといい、その成果については「体感とすれば成果はあるという風には聞いている」とはしつつも「明確な研究成果、具体的に数字とか何パーセントこう変わりましたっていうようなものはまだないようです」という。まだまだ未知数な部分も多いようだ。

学習放獣はとりわけ長野県が推し進めているもので、その件数も全国最多。それには信州大学が始めた取り組みを県が引き継いできたという背景があるようで、クマの殺処分についてはこう考えているという。

長野県では、農作物を食べるとか害を与える個体は殺処分はするのは仕方ないとしても、例えば子供のような熊ですとか、たまたま迷い込んで罠にかかってしまったような個体については、ちょっと里に出てきたことをま、こらしめて、山に返してあげて奥山の方で生息してもらえばいいっていう、そういう区分けをしていますね」

この方針については、地元住民はどのように受け止めているのだろうか。

担当者は「殺さないで対応するっていうことが良いことだっておっしゃる声もある」と語る一方で、実際には反対する声も多く寄せられているという。

「やっぱり地域住民の方からすると『せっかく捕まえたのになんで放すの』っていうご意見は多いという風には聞いてます。『また出てきたらどうするの』っていうようなことへの不安の方が大きいようには聞きますね」

今回、県が警報の発令を検討するに至ったのには、そのような地元住民の不安の声も大きいのだろう。クマ被害が増加した理由には、やはり個体数が増えているという現状があるようだ。

「生息頭数自体は県の推計値にはなるんですけれども、増えてはいるという風には考えてます。あとはよく言われるように、中山間の高齢化や遊休荒廃地が増えてきたことによって、人の生活圏とクマが暮らす山の境界線がだんだん曖昧になってきたとか、距離が近づいてきたっていうことは、言われている通りかなと思います」

クマをとりまく環境は過渡期を迎えているようだ。