北朝鮮2月16日は、故金正日総書記の生誕記念日である光明星節だ。故金日成主席の生誕記念日である4月15日の太陽節と合わせて、北朝鮮では「民族最大の名節」として盛大に祝賀イベントが開かれる。

ただ、新暦、旧暦の正月、秋夕(旧盆)などとは異なり、この両日の前後は殺伐とした空気が流れる。こうした大事な日の前後に事件・事故が発生しては縁起が悪いと、非常警戒態勢が敷かれるからだ。

そんな中で、豊渓里(プンゲリ)核実験場が位置することで知られる咸鏡北道(ハムギョンブクト)吉州(キルチュ)のある工場で事件が起きてしまった。「不敬罪」で厳罰を受けかねない関係者たちは、不安にかられる毎日だという。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、吉州パルプ工場では光明星節を盛大に祝うために、朝鮮労働党吉州郡委員会(郡党)の指示に基づき、「忠誠の歌の集い」を行うことにした。各職場では先月中旬から、歌の上手い労働者を選抜して合唱隊を編成し、毎日、終業後に練習を行っていた。

事件は、行事の前日の14日夜に起きた。工場の文化会館では、イベントの最終確認が行われていた。

問題がないことを確認した党委員会は、準備を頑張った人々に労いの言葉をかけ、後方部署(補給担当部署)に食事会を準備させた。打ち上げの席に参加したのは30人で、酒は提供されなかったが、ともかく飲むのが好きな北朝鮮男性のこと、何人かが密かに酒を持ち込んでいた。

発端は定かでないが、泥酔した労働者が別の労働者に喧嘩をふっかけた。最初は口論だったが、徐々に手が出るようになり、最終的には大乱闘へと発展してしまった。

こうなると、北朝鮮労働者たちはなかなか止まらない。2018年にはロシアに派遣された労働者が、タジキスタン労働者と乱闘する動画がネットで流れたこともある。

皆が駆け寄って諌めようとしても、興奮した労働者は聞く耳を持たず、拳を振り上げ続けた。幸いにして重傷者はいなかったが、10人が負傷した。

彼らは、翌日の忠誠の歌の集いのステージに、傷とあざだらけでパンパンに腫れた顔で上がることになった。

その様子を見た労働者は、こんな陰口を叩いた。

「患者服を着ていないだけで患者そのものだ」
落ち武者が泣きっ面で歌を歌っているようだ」

不祥事の発生を受け、工場の党委員会はもちろん、郡党、さらには朝鮮労働党咸鏡北道委員会(道党)も真っ青になった。金氏一家に関連する行事で不祥事が起きたことが中央に知れれば、連座制を適用されて、事件当事者、工場の幹部はもちろんのこと、党委員会、郡党、道党のトップまでクビが飛びかねないからだ。

道党と郡党は、打ち上げを主催した工場のイルクン(幹部)、酒を持ち込んだ者、喧嘩を始めた者などを全員呼びつけて、休日返上で事情聴取に当たった。どのような処罰が下されたかはわかっていない。

北朝鮮では、酒にまつわるトラブルが後を絶たない。呑兵衛のお国柄だけあって、男性が集まりさえすれば酒盛りが始まるが、事件へと発展することも少なくない。

当局は、度々取り締まりやキャンペーンを行っているがあまり効果はないようだ。また、酔っ払った末に公然と体制批判を行い逮捕される「舌禍」も少なからず報告されている。ただでさえ娯楽の少ない北朝鮮のこと。人々は、いかに取り締まりが厳しかろうとも、何かにつけて酒を飲んで歌って踊って大騒ぎするのだ。

北朝鮮労働者とタジキスタン労働者が乱闘(Vesti.ru)