国連の機関であるUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の職員の一部が、2023年10月のハマスによるイスラエルへのテロ攻撃に関与していたとして、2024年1月、日本を含む西側主要先進国は拠出金の停止を表明しました。これに対して、関与はあくまでイスラエル側の主張で、支援停止はパレスチナのガザ住民への死刑宣告に等しい、との抗議が巻き起こっています。

 一方で、UNRWAとハマスの問題について以前より警鐘を鳴らしてきたイスラム思想研究者・飯山陽さんは、『ハマス・パレスチナ・イスラエル-ーメディアが隠す事実』でその関係について詳しく解説しています。同書より一部抜粋します。

◆日本がパレスチナに行う「人道支援」の額とは

 朝日新聞が「パレスチナに追加の人道支援100億円 上川外相が表明」(松山紫乃、2023年11月3日)という記事を出しています。

 冒頭には、次のようにあります。

〈上川陽子外相はパレスチナ自治区ヨルダン川西岸ラマラで3日午後(日本時間同日夜)、自治政府のマリキ外相と会談し、パレスチナに対して約6500万ドル(約100億円)の追加的な人道支援を行うと表明した。〉

 なるほど。「パレスチナ」に対して6500万ドル(約100億円)の「人道支援」を行うというわけです。

◆岸田政権のパレスチナ支援、具体的な内容は?

 日本は1993年からこれまで、パレスチナに対し30年間に23億ドル(約3400億円)もの支援をしてきました。

 パレスチナ支援の具体的内容について、外務省は次のように説明しています。

[我が国の対パレスチナ支援]令和5年6月外務省資料より一部抜粋)

パレスチナ難民支援
 ・JICAの「難民キャンプ改善プロジェクト」を通じて約910万ドルを支援。
 ・ 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を通じて、これまでに総額10億ドル以上の支援を実施。

◎財政・金融支援
 ・ 2022年12月、JICAが大手民間金融機関パレスチナ銀行との間で3000万米ドルの劣後融資を供与する契約を調印。

◎ガザ地区に対する支援
 ・ UNRWA経由の食糧援助などを実施。2022年度のガザ地区への支援総額は約2200万ドル。

◎「平和と繁栄の回廊」構想に資する支援
 ・ 2007年以降、JAIP(ジェリコ農産加工団地)のインフラ整備等に2300万ドル以上を支援。
 
 パレスチナ難民に対する支援、ガザ地区に対する支援など、いずれも国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を通した支援が多いことがわかります。

 日本はこれまでにUNRWAに10億ドルの資金援助をしている。つまり、今回のパレスチナへの追加支援金100億円も、その多くはUNRWA経由で何かに使われるのだろうと想定されます。

 これが問題なのです。

◆岸田政権100億円の支援は何に使われるか

 第一に、UNRWAはハマスとつながっています。

 UNRWAというのは超巨大組織で「パレスチナ難民」を含む3万人もの職員を雇用し国際支援金で給与を支払っている。その中にはハマスのメンバーやシンパが含まれています。

 UNRWAには労組のようなものもあり、UNRWAガザ支部の労組メンバーは軒並みハマスで占められたりしている。UNRWAのガザ支部はほぼハマスによって支配されているといっても過言ではありません。

 UNRWAに資金提供するということは、間接的にハマスに資金提供することになる。これが第一の問題です。

 第二に、UNRWA経由の支援物資は、ハマスが横流ししたり、テロに転用したりしています。

 ハマスが水道管を掘り出し、それでロケット弾を製造していることはよく知られています。

 また、UNRWAの支援物資が、なぜかガザのスーパーで売られている事実も確かめられています。

◆「イスラエル人の捕虜」の写真に、日の丸のついた袋が

 10月7日虐殺の後、ハマスが公開した「イスラエル人の捕虜」の写真には、日の丸のついた袋が写っていました。

 そこには、“For free distribution for Palestine refugees” と書かれており、その下に日の丸があり、その下には “The people of Japan” と見られる文字も確認できます。

 日本がパレスチナ難民のために支援した小麦粉か何かの袋が今、ハマスによって、土囊のような形で転用されている。

 その上に、ハマスによって拉致されたイスラエル人が後ろ手に縛られた状態で転がされている。実に残忍な状況です。

 ハマスのテロ行為に、日の丸のついた袋が、このような形で使われているという、そのこと自体が日本の恥です。

 しかし日本はこれについて、何一つ抗議しない。

 代わりに何をやっているかというと、パレスチナに100億円追加支援しますと言っているわけです。人道支援だと言っているわけです。

◆人道支援100億円、使用目的を確かめようとしない日本

 弱者パレスチナに人道支援100億円、といえば聞こえはいいかもしれません。

 しかし、それはいったい、誰によって、どのように使われるのでしょう? その資金はいろいろな形でハマスに渡り、テロ資金になっている可能性がある。

 その支援物資もいろいろな形でハマスに渡り、テロに利用されている可能性がある。

 日本政府のパレスチナ支援の問題は、多額のカネを弱者パレスチナに渡して、「社会正義」を果たしたようなパフォーマンスをしているだけで、それが実際どのように使われているのかどうかわからないところです。

 そして日本は、それがテロ目的に使用されていないことを確かめようともしない。

◆EU・米国とズレた日本のスタンス

 アメリカやヨーロッパ諸国は、UNRWA支援やパレスチナ支援に、テロ支援やヘイト教育、腐敗などの問題が明るみになると、議会で議論され、その結果、支援金拠出を停止したり減らしたりしています。日本はそれもやらない。

 要するに、日本の支援金がテロに使われようとなんだろうと、日本政府は気にもしていないのです。

 それもそのはずです。ただ単に「弱者パレスチナ」に多額のカネを渡していい人のフリさえできればいいのですから。

 国民に対しては増税し、外でバラまいていい人のフリをする。これが岸田政権です。

<文/飯山陽 構成/日刊SPA!編集部>

【飯山陽】
1976(昭和51)年東京生まれ。イスラム思想研究者。麗澤大学国際問題研究センター客員教授。上智大学文学部史学科卒。東京大学大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻イスラム学専門分野博士課程単位取得退学。博士(文学)。『ニューズウィーク日本版』、産経新聞などで連載中。著書に『中東問題再考』『イスラム教再考』(以上扶桑社新書)、『エジプトの空の下』(晶文社)など。

2023年11月12日渋谷、イスラエルのガザ攻撃に抗議するスタンディングデモ。日本人や諸外国の人が参加(写真/ Gwmb2013)