(小林偉:放送作家・大学教授)

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現在の連ドラ主人公像の典型とは

 このところ、ネットを中心に様々な意見が飛び交っているのが、昨秋放送の連ドラ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)を巡る、原作者と脚本家、テレビ局との騒動。原作者が命を絶ってしまうという最悪の結果となってしまったことから、内外野の人々を巻き込んで、かなりヒートアップした論議にまで発展しています。

 漫画を原作とした連ドラは、筆者が調べたところによると、昨年4月から今年3月までの1年に放送されたNHK・民放の地上波連続ドラマ全151本中、48本と3作に1本という高い割合。今後を考えると、これを機に何らかのルール作りは急務であると思いますね。

 その一方で話題となっているのが、放送中の連ドラ『不適切にもほどがある!』(TBS系)。昭和61年から令和6年の現代にタイムスリップしてきた中学の体育教師(阿部サダヲ)が巻き起こすコメディですが、昭和と令和の様々な社会的意識の違いを浮き彫りにし、それについての視聴者の考察も促すなど、実は結構な“社会派”の側面も併せ持っているのが、天才と言われる宮藤官九郎の脚本ならではですよね。

 さて、そんな『セクシー田中さん』『不適切にもほどがある!』の2作には、奇しくも現在の連ドラ主人公像の典型があるのでは・・・というのが筆者が感じたこと。そこで、筆者が選ぶ現代の連続ドラマで人気の主人公像トップ5を発表してみたいと思います。

現代連ドラの主人公像① 自己肯定感低め女性

 最近の作品ですと、『セクシー田中さん』をはじめ、『あたりのキッチン』『君が心をくれたから』(以上、フジテレビ系)、『泥濘の食卓』(テレビ朝日系)、『推しが上司になりまして』『君に届け』『推しを召し上がれ』(以上、テレビ東京系)などなど。自分に自信がなく、自己肯定感が低い女性の成長物語は急増中です。

現代連ドラの主人公像② タイムリーパー

『不適切にもほどがある!』をはじめ、『ブラッシュアップ・ライフ』『最高の教師~1年後、私は生徒に■された』『めぐる未来』(以上、日本テレビ系)、『時をかけるな、恋人たち』(フジテレビ系)などなど。以前から過去と現在を行き来するタイムリーパーものは散見されてきましたが、ここ数年急増の傾向です。

現代連ドラの主人公像③ 復讐者

『夫婦が壊れるとき』『ブラック・ファミリア』『消せない私~復讐の連鎖』(以上、日本テレビ系)、『復讐の未亡人』『夫を社会的に抹殺する5つの方法1・2』『SHUT UP』(以上、テレビ東京系)などなど。忠臣蔵の昔からドラマの主たる題材の一つである復讐劇ですが、近年は女性主人公による復讐が主流になっているのが特徴です。

現代連ドラの主人公像④ LGBTQ

きのう何食べた?』『みなと商事コインランドリー1・2』『ヤワ男とカタ子』『チェイサーゲームW~パワハラ上司は私の元カノ』(以上、テレビ東京系)、『美しい彼1・2』(TBS系)、『おっさんずラブ・リターンズ』(テレビ朝日系)などなど。その他、『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(フジテレビ系)など、主人公以外のキャラクターに設定されている例を含めれば、枚挙に暇がないほど激増しています。

現代連ドラの主人公像⑤ 天才・特殊能力者

『ギフテッド』『うちの弁護士は手がかかる』『あたりのキッチン』(以上、フジテレビ系)、『ノッキンオン・ロックドア』(テレビ朝日系)、『トリリオンゲーム』『フェルマーの料理』『Eye love you』(以上、TBS系)、『厨房のありす』(日本テレビ系)などなど。このキャラにはイケメンやアイドルが多いというのが特筆すべき点です。

 ・・・というのが、筆者が最近の連ドラ主人公像に感じたトップ5。

 さてさて、テレビ行為者率というものをご存知ですか? テレビを観ている人々を、様々な角度から分析した総務省調査のデータですが、その中で筆者が着目したのが、テレビ視聴者数の男女比率。これが10代以下から80代以上までの全年代で女性の方が多いという点です。

 日本人の男女の人口比率は、女性100人に対して、男性95.8人と女性の方が多いのですが、テレビ視聴者の割合はこれを大きく上回っています。“テレビ離れ”が叫ばれている昨今、いわば現代のテレビは女性が支えているという面が大きいのです。また、総務省の調査ではなく、テレビ各局の独自データですが、連続ドラマの視聴者はおよそ7割を女性が占めるとも言われています。

 こうした点を考慮し、連ドラの主人公像は・・・女性に共感を得られる女性、もしくはイケメン男子というのがテレビ各局の“常識”になっているというのは否めないでしょうね。

 現在、週に39枠と連ドラは過去に例がないほど、爆発的に増加しています。その中で主人公像も“多様化”していかなければならないのでは・・・そんな風にも感じた次第です。

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『不適切にもほどがある!』公式ホームページより