どちらかといえばシャイな気質の日本人。初対面でもフランクな欧米人とは違い、互いに慣れるまで時間がかかるのが一般的です。ただ、たまに日本人離れした高いコミュニケーション力を持つ人もいますよね。今回は、新入社員の中でひときわ目立った“陽キャ”な人物による、とんでもないエピソードを紹介します。

◆ひときわ目立つ新入社員

 中堅のメーカーに就職した奥沢さん(仮名・23歳)。大学では理系の学部でしたが、配属された先は「メカニカルセールス」という、開発部門と営業の架け橋となる部署だそうです。

「今年は私の他にも数十人の新入社員が入社しました。この会社は、一般にはあまり知られていませんが、この業界では知る人ぞ知るメーカーなんです。経営状態も堅実で、理系の学生には人気がある企業でした。

 入社後驚いたのは、各部署の垣根がほとんどないことです。席配置も最近よくある“フリーアドレス”で、横の席は開発の人、目の前は法務の人、といった感じです。あと、首から下げるIDカードは、部署ごとに色分けされていて、一目でその人の専門分野がわかるんです」(奥沢さん、以下同)

 そんな奥沢さんの同期は、どちらかというとおとなしい感じのキャラが大半でしたが、その中にM君というひときわ目立つ存在の新入社員がいたそうです。

◆怖いほど陽キャで、目がキラキラ

「M君は、とにかく目がキラキラしているんです。いつも周りの人と目を合わせようとしていて、目が合ったら笑顔で近寄ってあいさつを交わします。声は大きいし積極的だし、中には彼の存在を怖がっている人もいたくらいでした。しかも、見た目がカッコいいんです。背が高くてイケメンで。同期だけではなく、先輩女性社員の間では早くもうわさになっていました」

 M君はいつの間にか「陽キャなイケメン」という位置付けで、多くの社員に受け入れられるようになりました。

「最初の頃は、女性社員と積極的に交流していたM君ですが、遠目に見ていた男性陣もその輪に加わろうと自発的に集まってきました。M君を介して女性社員との距離を縮めるチャンスだと思ったのかもしれませんね」

 ところが、彼に対して徐々に変なうわさが出始めました。

◆明るいM君の裏の顔とは…

「いつも人に囲まれていたM君ですが、最近になって彼と距離を置く社員が増えたといううわさを聞きました。気になったので同期の女性社員に聞いたところ、彼から『お金を貸して』と頼まれて貸したけど返ってこなかったり、怪しい暗合資産か何かの投資をすすめられたりしているそうなんです」

 M君の実態が徐々に明らかになり、ランチタイムの話題はそのことで持ちきりでした。

「実態が明るみに出るまで時間がかかった理由は、M君が『君だけにしか相談していないから』という具合に、あたかも二人の秘密のようにアプローチしていたので、持ちかけられた本人も口外することを躊躇(ちゅうちょ)していたそうです。詐欺みたいな手口ですよね」

 新入社員に加え、先輩社員にも“被害者”が続出し、いつのまにかM君は出社しなくなっていました。

 たまに、投資系インフルエンサーやネットワークビジネス界隈には、怖いぐらいコミュ力が高くて薄っぺらい人がいますが、M君もそのタイプだったのかもしれません。

◆実は今回が初めてではなかった

 今回の騒動、多くの人が巻き込まれたそうですが、実際には被害額が少なかったこともあり警察沙汰にはなりませんでした。

「M君が来なくなってからも『あんなヤバイやつ、よく入れたよな』と、社員の間では彼に関する話題で持ちきりでした。それと、同期で被害に遭わなかったS君という人から驚きの事実を聞きました。実は彼、M君と大学が同じで、学生時代も今回と似たような問題を起こしていたというのです。手口は今回とほとんど同じでした。ただ、大学の授業はまじめに出ていたらしく、被害者の泣き寝入りにも助けられ、しっかり就職活動はしていたのでウチに入れたんじゃないですかね」

 今回の騒動、当然あってはならないことでしたが、彼のコミュ力が社員に少なからず伝播し、以前よりも社員同士の距離感が縮まったとか。M君は、結局その後も全く出社せず、自主退職したそうです。

<TEXT/ベルクちゃん>

ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

―[すぐに辞めた新入社員]―


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