後戯の重要性を、果たして男はどれほど理解しているのか。テクニック自慢の20~40代男性に自身が行っている「性行為後のケア」を調査し、女性100人にアリ・ナシ判定をしてもらった。

◆事後ケアだけでなく、事前のケアや同意が大事

調査の結果、男性がよかれと思ってしていた言動が、実は女性にとっては不快だった…というケースが多発。男女の性意識の差やギャップが浮き彫りになった。では、男性は性行為後も円満な人間関係を築くために、どのような事後ケアが求められるのか。

男女を取り巻く社会問題に精通する作家・鈴木涼美氏と、性被害についてSNSで発信する臨床心理士・みたらし加奈氏とともに、昨今話題の“性的同意”を踏まえての意見を聞いた。

鈴木:(「『体きれいだよね』と女性のスタイルを褒める」「『お互いに遊びだったけど、また機会があれば』とお礼LINEを送る」など、テクニック自慢の男性たちが行っている「アフターケア」を見て…)なんというか、“女性をモノ”として見ていたり、“上から目線”な回答が滲み出ていますよね(苦笑)。

みたらし:相手をモノではなく、人としてコミュニケーションを取るという意味では、事前も事後も同様にケアは大切です。

鈴木:昨今メディアを賑わせるような「●●さんに会わせてあげるよ!」という“条件”やお金といった対価をチラつかせながらも、性行為を終えたらほごにする、態度が急に冷たくなる、といった男性はそりゃ確実に揉めますよね(苦笑)。多少遊んでいても揉めない人は、「人間として粗末に扱われた」と思わせない巧みさがあると思います。

みたらし:その“巧みな事後ケア”に私は怖さを感じることは事実です。

◆“巧みな事後ケア”に潜む恐ろしさ

──その怖さとは?

みたらし:「大丈夫?」という言葉にも、社会的立場が上下で意味合いが変わってきますし、上から言われたら「はい……」と答えざるをえない。マインドコントロール的な危うさがある。今回の特集を踏まえて臨床心理士として指摘しておきたいです。

鈴木:性行為では男女が平等でなくてはいけない。「あんな男と性行為して後悔した!」と思うか、一夜限りだったけど「いい思い出」とするか、事前や最中、そして事後ケアを含めて、長い時間をかけて形成されていくものだと思いますけどね。

◆性的同意の4つのポイント

──事後に「同意」が覆ることも、焦点のひとつになっているように思います。

鈴木:たとえその場で女性が同意をしても、事後に相手から「あいつ、オレとヤッたんだよね(笑)」と噂されたり、音信不通になったりしたら、女性は傷つくし怒りますよね。

みたらし:本来の性的同意って、トラブル回避のためにアプリなどで言質を取ることではなくて、デートでお店を決めるときに、「今日何食べたい?」「嫌いな食べ物やアレルギーない?」などと、相手の意思や踏み越えられたくない一線を確認するという、コミュニケーションの手段だと思います。

性的同意のポイントは以下の4つといわれています。①ノーと言える環境が整っていること(非強制性)②社会的地位や力関係に左右されない対等な関係であること(対等性)③いつでも「やめて」と言えること(非継続性)④その行為が「したい」という明確で積極的な同意があること(明確性)です。

鈴木:これが今のグローバルスタンダードなんですね。かたや日本に目を向けると「最初は無理やりだったのに、女性がやがて受け入れて、最後は気持ちよくなっていく」という文脈のエロコンテンツがまだまだ多いですよね。「いやん」と「NO!」の区分が曖昧なので、世界基準とのギャップをどう埋めていくのかが今後の課題だと思います。

◆性的同意や相手へのケアが大切なのは夫婦間でも同じ

みたらし:「嫌よ嫌よも好きのうち」といったなし崩し的な性行為、つまり主体性を奪われた状態が長く続くと、人は「自分にとって心地のいいこと/悪いこと」の境がわからなくなってしまうんですよね。

性被害者支援の現場のなかでも、例えば「性行為で首を絞められるのが好きだと思っていたけど、それは過去の性被害のトラウマによるものだ」と気づくケースは少なくないと言われています。性被害に遭った人の中には、過剰な性行為をあえて繰り返すことで、「自分が主体的に行っているのだから、被害は大したことがないんだ」と心を守ろうとする動きもある。心理学ではこれをトラウマによる『再演行為』といいます。

鈴木:モノのように扱われた経験を克服するために、自分をモノのように扱って “献上”するわけですね。性的な行為を当人が積極的に望んでいたかどうか、「性をめぐる自由意思」は長年、議論されているテーマでもありますね。

みたらし:だからこそ、誘う側が積極的にコミュニケーションを取ることが必要なのだとも思います。性的同意や相手へのケアが大切なのは、夫婦間の性行為でも同じですよね。理想は、家事や育児の分担の話し合いと同じように、性行為の話ができること。その上で、二人の意思がすれ違ったり、話し合ってもうまくいかなかったりした場合、カウンセリングを利用して、第三者に相談するのも選択肢のひとつですね。

鈴木:私もいつか、みたらしさんにカウンセリングをお願いするかもしれないです……。

◆性的同意の4原則

①ノーと言える環境が揃っているか
自分がされて「イヤだ」と感じたことはどんなときでもノーと拒否できる権利がある。相手に忖度する必要はない

②対等な立場であるか
性的同意の概念では、上下関係及び、利害関係がある限り、同意は成り立たないとされている

③その都度、確認が必要
たとえ、気心知れた仲だったとしても、いつでも嫌だと感じた行為には「やめて」と自分の意見を主張できることも重要な要素

④明確で、積極的な意思
キスやハグ、セックス等お互いにその行為が「したい」という明確で積極的な同意があること(明確性)

【鈴木涼美氏】
作家キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞記者を経て文筆業へ。著書『ギフテッド』『グレイスレス』が芥川賞候補に。最新刊に『YUKARI』(徳間書店

みたらし加奈氏】
臨床心理士・公認心理師。専門家と共に性被害や性的同意に関する情報を発信するNPO法人mimosas」代表副理事も務めている

取材・文/アケミン アンケート協力/パイルアップ
※2月20日発売の週刊SPA!特集より

―[やってはいけない12のこと[SEX後ケア]の新常識]―


(左から)鈴木涼美氏、みたらし加奈氏