『週刊ダイヤモンド』2月24日号の第1特集は「半導体 沸騰」です。国家の競争力を左右する“戦略物資”と化した半導体は、世界各国で投資競争が激化。さらに、生成AI(人工知能)ブームの到来で需要が激増しています。2030年に150兆円市場に膨張する予想の“沸騰産業”の裏で何が起きているのか。ダイヤモンド編集部の総力取材で探ります。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

政府の「4兆円」の巨額支援で
半導体企業の巨額投資が次々表面化

 2024年に入って、半導体企業の日本国内での巨額投資が次々と明らかになっている。

 2月6日、半導体世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に2番目の工場を建設すると発表した。建設中の第1工場を含めると投資総額は200億ドル(約2兆9600億円)になる見込みだ。

 政府は第1工場に最大4760億円の補助金を支給するが、第2工場の補助金も最大7600億円規模になりそうだ。

 この発表と同じ日、半導体大手のキオクシアホールディングスが米ウエスタンデジタル(WD)と共同で運営しているNAND型フラッシュメモリー工場で総額7290億円の巨額投資を実施すると発表している。経済産業省は、この投資に最大2430億円を補助する。

 昨年12月8日には、ロームと東芝が経産省の補助金を活用して、電気自動車(EV)などの電力制御に使われるパワー半導体の増産投資を共同で行うと発表。事業総額は3883億円で、このうち経産省は最大1294億円を補助する。

 また、国の補助金は活用しないが、国内半導体大手のルネサスエレクトロニクスが2月15日、米ソフトウェア開発会社の米アルティウムを約9000億円で買収すると発表した。

 まさに巨額投資ラッシュ。この背景にあるのが、米中対立の激化を発端にした地政学リスクだ。対中包囲網を強化する米国だけでなく、欧州でも巨額の補助金を投入し、各国・地域の半導体工場の囲い込み競争は熾烈化している。

国内パワー半導体の勢力図を塗り替える「新連合」の存在とは?

 TSMCは、台湾内に集中していた生産工場を日本、米国、欧州の3拠点に分散。そのTSMCの進出先である日米欧の各エリアの投資競争は以下の通りだ。

 日本は、米バイデン政権が「有志国連携」で半導体サプライチェーンの構築を打ち出した21~23年度に、総額4兆円の半導体支援予算を確保。

 TSMC、国策会社ラピダス、キオクシア、米マイクロン・テクノロジー、ローム・東芝連合だけでなく、国内の投資計画は目白押しだ。これからも政府の補助金の後押しを受けた巨額投資計画が次々と表面化していくだろう。

 注目されるのが、日本を代表する半導体メーカーの1つのソニーグループの半導体事業だ。

 ソニーは24~26年の3カ年でイメージセンサーの増産に9000億円規模の設備投資を行う計画がある。実は、経産省は、この投資計画を支援するため3000億円規模の支援を検討しているが、その行方は不透明だ。

 その一方で、今後、政府の後押しで実現しそうな巨額投資案件がある。それは、ローム・東芝連合に続くパワー半導体の共同投資案件だ。トヨタ自動車を巻き込んで、国内パワー半導体の勢力図を塗り替えようとしている「新連合」の存在を明らかにする。

Photo by Reiji Murai