『radiko』やPodcastの登場により、どこでも全国各地のラジオを楽しめるようになった現在、高い評価を得ている芸人のローカルラジオがいくつも存在する。ここ1年ほどで急激に株を上げているのが『サクラバシ919』(ラジオ大阪)の木曜パーソナリティである、四千頭身の都築拓紀だ。

 フルスロットルで熱量高く笑いを届けるトークが、三四郎アルコ&ピースパンサーの向井慧などの芸人や、声優・花澤香菜、DJ松永(Creepy Nuts)などの著名人、ラジオ好きの間で話題を呼び、徐々にリスナーを増やしている同番組。ラジオ大阪とミクチャがタッグを組んでいるということもあり、『ミクチャ』でも生配信が行われていることでもおなじみだ。今回は1月25日に『サクラバシ919』が放送されるスタジオに潜入。当日は3週にわたった台湾正月旅行トークの完結編で忙しい都築だったが、途中には取材が入っていることを明かし、リスナーがどの媒体か予想するという一幕もあった。

 リアルサウンドテックでは、放送前に都築へのインタビューを実施。現在のスタイルが確立されたきっかけや、手応えを掴んだ瞬間、『ミクチャ』で配信されるメリットなどについて、じっくりと話を聞いた。

【写真】番組放送中、ラジオブースで自身のエピソードを語る四千頭身・都築拓紀

〈「『三四郎オールナイトニッポン』には、気づいたら土足で上がってた」〉

ーーまずは都築さんが『サクラバシ919』の木曜パーソナリティを始めるまでの話を聞きたいです。ラジオはトリオで『四千頭身のオールナイトニッポン0(ZERO)』として担当していましたが、現在のスタイルのベースはどちらかというと『三四郎オールナイトニッポン』での振る舞いに近いように感じました。そのあたりはキャリアを重ねて、ラジオに出るなかで変化していったのでしょうか? 

都築:そもそも3人で『四千頭身のオールナイトニッポン0(ZERO)』をやってた時は、まだ駆け出しで業界の右も左もわからない時期だったので、それぞれが違う種類のプレッシャーを背負っていて。それから何年も経験を積み、いろんな番組にお邪魔させてもらうなかで、緊張しない番組があることに気づいたんです。特に『三四郎オールナイトニッポン』には、気づいたら土足で上がってました(笑)。

ーーマヂカルラブリーの野田クリスタルさんと一緒に出演したスペシャルウィークでの放送(2020年10月23日)があり、その後は三四郎のお二人の代打としてはんにゃの金田哲さんと2人で番組を担当していました(2021年1月8日放送分)が、それぞれ自由に話す姿が印象的でした。

都築:それは三四郎さんの番組だったから、というのもあるかもしれません。オールナイトニッポンという看板に緊張しないお二人だから、僕も気が抜けて適当に喋ってたら、いいように面白がってくれて。その回の反響が良かったのもあってか、お二人が体調不良でお休みするという回に呼んでもらえたんだと思います。しかも年始一発目の放送という良いタイミングかつイレギュラーな状況だったので「仮にこの回がダメでも誰も悪くないな」と、すごくリラックスしながら臨めたんです。金田さんの懐も深かったですし。

ーーそうして好評だった番組を経て、都築さん一人にオファーがきたのかなと思っていたのですが、どうなんでしょう?

都築:ハッキリとは言われていないので僕も確証がないのですが、多分そうだと思います。

ーー番組初期は個性的なスタッフや独特な部屋の風景など、さまざまなイジられ方をされていましたね。

都築:スタジオが手作りなこともそうなんですが、僕は番組が始まるまではどんな形でやるのかを知らなくて、その後に一つずつ知っていくことになるんです。ラジオ局のスタジオって普通は災害が起きた時の案内や各曜日の番組表なんかがあったりするわけですが、ここにはただの防音の壁しかないし、なぜか真っ黒だし(笑)。最初は自分のことで精一杯だったから気づかなかったんですが、徐々に「これはたしかに変だ」と気づいちゃって。

 わかりやすいもので言うと、マイクスタンドに手が当たっただけで音がめっちゃ響いて。僕は手のマイムが結構激しいから、そのせいかなと思っていたんですけど、だんだん「そもそも生のラジオでこの手のゆるいアームのマイクスタンドを使っているのがおかしいんじゃないか?」「いや待てよ、全体的になんか安っぽいな?」と、一つ見つけた瞬間から色んなところに目がつき始めて。

ーーそんな手作り感のある番組ですが、いまや三四郎のお二人だけでなく、アルコ&ピースの酒井健太さんやパンサーの向井慧さんなど、ラジオで活躍する芸人さんたちからの評価がすごく高くなっています。徐々に自信はついてきましたか?

都築:そうして色んなところで名前を出していただけるのは、本当にありがたいですよね。自信は……どうだろう。嬉しいのは嬉しいんですけど、あまり変わらないかもしれないです。先輩が褒めてくれるのもリスナーが面白いって言ってくれるのも等しく嬉しいし、あと一部はイジってるだろっていうのもあるので(笑)。

〈「電柱の後ろからラジオが俺を見てる」〉

ーー毎週一人で2時間のラジオとなると、ルーティーンのようなものができてくると思うのですが、1週間の過ごし方は変わりましたか。

都築:やっぱり休みの日ができると、ゆっくり休むというよりは「何かできるんじゃないか、どこかへ行ったほうがいいんじゃないか」と思うようになりました。元々インドアであまりアクティブではないんですが、外に行ったほうが何かがあるような気がして。そうして足取りが軽くなるのは間違いなくプラスなんですけど、やっぱりラジオが脳裏にちらつくのはちょっとだけ腹が立ちますよね(笑)。自分の後ろをラジオがついてくる感覚というか。

 普通に友だちとテニスをしに行ったり、旅行に行って美味しいものを食べたいだけなのに、電柱の後ろからラジオが俺を見てる。バレないようについてくればいいのに、俺の視界にちょっとずつ入ってくるんですよ。

ーー絶妙にチラつくんですね(笑)。そうなってくると、AかBかという選択肢でラジオがついてきそうなほうを選びがちだと思うのですが……。

都築:いや、そういう決め方はしないようにしてます。基本的にはプライベートを自分が満足できるように楽しむことが優先なので。このタイミングでこの人と会ったらちょっと楽しいんじゃないかなとか、なんかありそうだという好奇心で行動することはあるんですけどね。

ーー旅行というワードが出ましたが、ここ数週にわたる台湾旅や、昨年大きな反響を呼んだ福岡までの夜行バス旅など、たしかにこの番組は色んな行動を起点にドラマティックなことが起こっていますね。都築さんのなかで印象に残っている回はありますか?

都築:自分のなかで「何かを掴んだな」と思えたのは、昨年のお正月旅行として行った韓国旅のエピソード回ですかね。一人で外に行くことが定番化したのもこの回が大きかったので。それ以前にもフリートークはこうすれば盛り上がるのかと思った回はあるんですけど、なんせ一人で毎回完全燃焼してるもんで、覚えてない回が大量にあるんです(笑)。でも、最近は通常回でもお気に入りのものが増えてきました。

〈「『ミクチャ』は僕にとって通訳的な役割」〉

ーー番組は『ミクチャ』での生配信もあり、声だけの放送以上の情報も伝えることができます。映像があるからこそのメリットや、そのおかげで生まれた流れなどはありますか?

都築:ひとり喋りなのに映像があるのは、正直少し恥ずかしいんですよ。音を消してみたら「なんでこいつ、こんなにハシャいでるの?」って思っちゃうんで。しかもエピソードトークをしてるときって、少しだけ一人二役になっていって、ちょっとコントに入っちゃう瞬間とかもあって。上下を切ろうとしてる感じとかが映っちゃうのは照れちゃいますね。

 でも、メリットもありますよ。洋服が好きで、買った服を紹介するとなると、映像が大いに役立ちますから。そういう意味では話が長い僕にとって通訳的な役割を果たしてくれているともいえます。あと、ミクチャが関わってくれているというところでいうと、12月にミクチャがイベントを開催するとなったときに、MC的な立ち位置として呼んでいただけて、他の演者さんと絡むというのはラジオだけだと出来なかったと思うので、それも良かったところですね。

ーーその12月のイベントでは『サクラバシ~』の公開収録も行ったんですよね。

都築:普段のリスナーさんだけじゃない人たちがたくさんいるなかで、相席スタートの山添(寛)さんと神尾(晋一郎)さんという、同じ『サクラバシ~』をやっている3人で話したんです。それぞれの曜日の良さがちゃんと出たと思うんですが、神尾さんは変な人だし、山添さんは意地悪だったけど楽しかったですね。楽屋も相部屋で、空き時間も含めてたくさん話せたし。普段は異種混合の5組が帯でやっているからこそ、こうして集まったときに特殊な面白さになるんだと気づきました。

ーー三四郎さんのラジオで現在のスタイルのきっかけを掴んだとのことでしたが、そこで構成作家をしている福田卓也さんが現在の『サクラバシ~』でも構成作家を務めています。福田さんが目の前にいることも、都築さんがフルパワーで喋れる要因なのかなと思っているのですが、どうでしょう?

都築:それは間違いなくあるでしょうね。これまでは三四郎さんやマヂラブさんのような世代的には少し上の先輩に振り回されてきたわけですが、そのスタンスを崩さないまま一人で喋れるのは、目の前に福田さんがいるからだと思います。声がなくても、目線上でも会話ができているし、変な日本語のミスも多いなかでしっかりフォローして処理してくださっていますし、脱線してもその延長線で一緒に遊んでくれて、ある程度のところで引き戻してくれたりして。僕は常にアクセルを踏みっぱなしで、常に福田さんにハンドルを握られてる感じです。

ーー言い得て妙ですね。福田さんが作家として入っているラジオを複数聴いていますが、おそらく福田さんが一番喋っているラジオだと思いますし、ラジオ好きにとってはそこも嬉しいポイントです。

都築:アルピーさんや三四郎さんやマヂラブさんのラジオは二人の掛け合いで成立するから、ある程度は見届け人的な立ち位置にいる気がします。ただ、僕は一人だし、相槌を打ってくれる人がいないから意識的に喋ってくれているんだと思うんですけど、たしかに菅田(将暉)さんのラジオとか全然喋ってなかったな……(笑)。それだけ全力で軌道修正してくれているのかも。

〈「常連リスナーとは、同じ目的の上でしっかり手を組めたら」〉

ーーそうして全力で話す都築さんに応えてメールを送るリスナーも増えてきたと思います。スタートからここまでの期間で、リスナーとの関係値はどのように変わっていて、今後はどう発展させていきたいと思いますか?

都築:街で「『サクラバシ』聴いてます!」と声をかけられることも増えていて嬉しいです。今後は……聴いてくれる人の数をとにかく増やしたいですね。初期から聴いてくれている人がいるのもありがたいんですが、僕とすれば1回目の人が聴いて満足してもらえる内容じゃないといけないし、1回目と40回目の人それぞれにサービスする内容は特に変えたくないんです。でも、40回聴いたひとは、絶対1回目の人よりもこのラジオを楽しく聴くことができると思うから、新規の人にだけ優しいなんて言わないでほしい。そこまで聴いて初めての人以上に楽しめるようになったのは、あなたが手に入れたアドバンテージであって、俺のためじゃなくて自分のためにやってきた素振りなんだから、自分を褒めてあげてほしいです。

 そういえば、どう発展させるかという意味では、ひとつ目標がありました。単独でのオフラインイベントはやってみたいです。そういうときに、長く聴いてきた愛情深い人たちが足を運んでくれて、そこで会えたりすると思うので。常連リスナーとは、そういう同じ目的の上でしっかり手を組めたらすごく嬉しいんだろうな。

ーーおよそ大阪ローカルと思えない反響になっている番組ですが、今後目指したい場所や目標があれば教えてください。

都築:できるかどうかはわからないんですが、枠が広がっていくというか、大きくなって色んな地域で放送されることも目指しています。あとはXのトレンドに入りたいですね。

(取材・文=中村拓海)

四千頭身・都築拓紀