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 地球から120億光年の彼方で、観測史上最も明るい天体が発見された。極めて明るく輝くこのような天体は、「クエーサー」と呼ばれており、これまで発見されたどのクエーサーよりも明るい。

 そのクエーサーの明るさは、太陽の500兆倍もある。それはもはや、天体の明るさの理論的な限界に近いほどだ。

 だがその輝きの源は、怪物のような超大質量ブラックホールだ。その怪物は、たった1日で太陽1個に相当する質量を飲み込み、すでに太陽質量の170億~190億倍に達しており、史上最速のスピードで成長中だ。

【画像】 観測史上宇宙で一番明るい天体「J0529-4351」

 宇宙で一番明るいクエーサー「J0529-4351」は、地球から120億光年の彼方にある。

 そのエネルギー源である中心の超大質量ブラックホールは、太陽の170億~190億倍の質量と推定されている。ゆえにとんでもない大食いで、たった1日で太陽と同じくらいの質量を飲み込み、その分だけ成長する。

 J0529-4351の圧倒的な輝きもそのせいで、もし太陽のすぐそばにあったとしたら、その500兆倍も明るく見えるほどに神々しく輝いている。

 オーストラリア国立大学クリスチャンウルフ氏は、「既知の宇宙でもっとも光り輝く天体です」とプレスリリースで説明する。

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宇宙でもっとも明るいクエーサー「J0529-4351」のイメージ。その中心には怪物のような超大質量ブラックホールがある / image credit:mage credit: ESO/M. Kornmesser

クエーサーが明るく輝く理由

 そもそもクエーサーとは、あまりにも明るいため、内側が見えず、恒星のような点に見える天体のことだ。

 だがその正体は星ではなく、中心に超大質量ブラックホールを抱えた銀河の一部だと考えられている。

 こうした巨大なブラックホールの周りには、重力によって引き寄せられたガスや塵が高温で回転し円盤状に集まった「降着円盤」がある。

 この円盤の物質がブラックホールに飲み込まれる時、あまりの激しさに加熱されて明るく輝くのだ。

 さらに落下しかけた降着円盤の物質の中には、結局は飲み込まれないものもある。そうした物質、光速に近い速度でジェットのように放出され(宇宙ジェット)、やはり強力な光を放つ。

 クエーサーが、銀河にある何十億もの星の光を合わせたより明るく輝くのは、こうしたメカニズムがあるからだ。

 だがJ0529-4351の明るさはその中でもとびきり明るい。

 それもそのはず。J0529-4351の降着円盤はとんでもなく巨大で、その直径は7光年もある。それは地球と太陽の間を4万5000回移動できるだけの距離だ。

[もっと知りたい!→]ブラックホールの周囲をかこむ降着円盤を実験室で再現することに成功

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J0529-4351」の周辺 / image credit:ESO/Digitized Sky Survey 2/Dark Energy Survey

あまりにも明るすぎて気づかれなかった

 J0529-4351が最初に検出されたのは40年以上前のことだ。なのにその存在が明らかになったのは、ようやく今になってのことだ。

 こんな桁外れの存在が今まで気づかれなかったのは、その圧倒的な明るさのせいだ。

 一般にクエーサーを見つけるには、空の広い範囲の観測データが必要になる。そうしたデータは巨大なものなので、機械学習によってクエーサーなのか、それとは違う天体なのか篩にかけられる。

 だが、そうした機械学習モデルはこれまでの観測データに基づいているため、従来のクエーサーとあまりにもかけ離れたものは、クエーサーではないと判断されてしまうのだ。

 事実、J0529-4351は明るすぎるために、地球に近い恒星と勘違いされていた。

 ところが2023年、サイディング・スプリング天文台(オーストラリア)にある2.3m級望遠鏡で観察していた天文学者が、J0529-4351が本当はクエーサーであることに気がついた。

 さらにパラナル天文台(チリ)にある超大型望遠鏡VLTの観察によって、それが知られているものとしては、宇宙で一番明るい天体であることが判明した。

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桁違いの明るさを放つクエーサー「J0529-4351」 / image credit:ESO/Digitized Sky Survey 2/Dark Energy Survey

ブラックホールの明るさの限界に近い

 このクエーサーの中心にある超大質量ブラックホールは、「エディントン限界光度」に近いと考えられている。すなわち、ブラックホールの理論上の明るさの最大値に近いということだ。

 ブラックホールの輝きにも圧力がある。だからそれがあまりにも強すぎると、輝きの燃料であるガスや塵を押し除けるようになり、それ以上明るくなれなくなるのだ。

 それが本当かどうか確認するには、さらに詳しい分析が必要になる。そして幸いなことに、超大質量ブラックホールは、VLTの観測装置「GRAVITY」をアップグレードするのにぴったりのターゲットだ。

 さらに現在アタカマ砂漠では、次世代超大型望遠鏡ELTも建設中だ。

 そして何より、その圧倒的な存在は研究者の心をがっしりと掴んでいる。

 「個人的には、単純に追いかけるのが好きなんです。1日に数分間、宝探しをする子供に戻ったような気分になります」と、ウルフ氏は語っている。

 この研究は『Nature Astronomy』(2024年2月19日付)に掲載された。

References:Brightest and fastest-growing: astronomers identify record-breaking quasar | ESO / Brightest quasar ever seen is powered by black hole that eats a 'sun a day' | Space / written by parumo

 
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史上最も明るい天体の源は超大質量ブラックホール、1日に太陽1個」を貪り食う