みなさん、お出かけの準備は前日に済ませるタイプですか? それとも朝になって慌ててやるタイプですか?

何事においてもアップは大事ですよね。運動前の準備体操もそうですし、カラオケを歌う前に、マイクに向かって「あ、あ」というアレも準備のひとつ。試験前に勉強をするのだって準備です。

プロとして活躍する選手も試合に向けて、1年を通して準備を続けています。ということで今回は、プロとして長く活躍する選手に共通する「準備の大切さ」についてお話しさせてください。

野球は実際にプレーしている時間が短いスポーツです。ポジションにもよるでしょうが、3時間のゲームで実際に選手がプレーしている時間を総合すると、30分に満たないと言われています。つまり、それ以外の時間がとても長いんです。

現在、「時短」の波がMLBから世界中に波及しつつありますが、野球の試合がなぜこんなに長いのかというと、次のプレーに対する準備が必要だからです。将棋は1手を指すのに何時間もかけますが、それと同じようなものですね。

そこに、野球というスポーツの本質がある気がします。準備の期間がとても長いからこそ、プレー以外の時間の使い方が選手の成績、現役生活の長さに関わってきます。

例えば、体格で劣っていて豪速球を持たない投手は、変化球に磨きをかけ、ストレートとのスピード差で相手を翻弄しようとします。また、1日でも選手寿命を伸ばすために、トレーニングを重ねて筋力を増加させたり、練習の前後のストレッチを念入りに行なうなど体のケアに努めたりします。

"頭"の準備も大切です。名将・野村克也監督が、毎日のミーティングで選手たちに戦術を叩き込んでいたことは有名ですね。あまり重視されていなかった配球の重要さをいち早く見出し、データを活用して素晴らしい成績を残しました。

それは、戦力差があっても戦うための知恵。小兵だって、準備を重ねて挑めば巨人(ここでは「大きな人」という意味です)を倒すことができる、それを教えてくれたのでした。

実際に、"野村イズム"をしっかり受け継いだ方は選手としても活躍しましたし、現在のプロ野球の監督の中にも、その薫陶を受けた方が多いですね。野村さんは、「努力をすれば必ず運が向いてくる。大事なのは準備を怠らないことである」とおっしゃっています。チャンスが来た時に備え、それを逃がさないための準備をしておくことが明暗を分けるということですね。

今行なわれている春季キャンプも、広く言えば「準備」のひとつですよね。
今行なわれている春季キャンプも、広く言えば「準備」のひとつですよね。

周到な準備は、作戦として私たちの目に触れることもあります。MLBレイズ(2007年までのチーム名はデビルレイズ)は、今でこそ強豪チームとして知られますが、昔から(今も)潤沢な資金に恵まれたチームではないので、優秀な選手を獲得するのと同じくらい「作戦で勝つ」という方針を大事にしてきました。

エンゼルスの監督時代に大谷翔平選手を"二刀流"で起用したジョー・マドン監督は、2008年にレイズを初のワールドシリーズ進出に導きましたが、満塁のピンチで大量失点を避けるために相手の主砲を敬遠するなど、さまざまな「奇策」を用いました(カブスの監督に就任してからは、現在は禁止されている「外野4人シフト」などを採用)。当時レイズに所属していた岩村明憲さんに聞くと、試合前後のミーティングは念入りに行なわれたそうです。

ちなみにレイズは2018年、現在も指揮を執っているケビン・キャッシュ監督が、リリーフ投手を先発させて相手の出鼻をくじく「オープナー」をMLBで初めて採用しました。日本のプロ野球でも、日本ハムなどが採用するなどして話題になりましたね。

私がキャスターという仕事を通じて毎日痛感していたのが、"心"の準備の大切さです。準備をしないで本番に臨むことはもちろんありませんでしたが、逆にガチガチにやることを決めてしまうと、臨機応変に対応できないことも学びました。

ある時から、ある程度まで準備をした上で放送を「楽しむ」ようにしたんです。本番前の準備は、いくらやっても「やり切った」と言えることはありませんから、いい意味で"あきらめ"の気持ちを持って本番に臨むと、肩の力が抜けることもわかりました。そのあたりから、キャスターとして番組を楽しめるようになったのかもしれません。

プロの世界で、準備をしない人はいないと思います。準備をしようがしまいが、結局は自分に返ってきますから、しっかりと準備をする選手が"長生き"する。そこまで準備をしないひと握りの天才もいるかもしれませんが、ほぼすべての選手は間違いなく練習を重ねています。

私は天才ではありませんから、これからも準備を怠ることなく本番に臨みます。「準備をしなければよかった!」なんて、絶対にこの先も思うことはないから。

できる限りのことをやって本番を迎える。その上で、のびのびと自分らしさを発揮できたらと思います。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン

構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作

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「準備の大切さ」について語った山本キャスター