◆純利益100万円の衝撃と株式の非公開化

 アウトドアブランドの雄として、日本だけでなく世界的に有名なスノーピークをめぐるニュースがここ数日、メディアやSNSを騒がせている。

 事の発端は2月13日に発表された2023年12月期の連結決算だ。発表によると純利益は前の期と比べて99.9%も減少し、わずか100万円。すこし詳しく数字をみると売上高は16%減で257億円、営業利益は74%も減り9億4300万円となった。加えて国内既存店と米国現地法人の固定資産の減損処理をしたことによる4億2800万円の特別損失を計上したことも影響している。

 こうした報道に追い打ちをかけるように、スノーピークMBOを実施して株式の非公開化を検討するという報道がなされ、この報道を受けてスノーピークも「検討は事実」とコメント。2月20日には米投資ファンドのベインキャピタルが1株1250円でTOB(株式公開買い付け)を実施することが発表され、スノーピークを巡る大きな動きには注目が集まっている。

◆「キャンプブームの失速」という報道に懐疑的な声も

 報道各社は今回の一連の流れについて、アウトドアブーム、キャンプブームの「失速」や「終焉」と見出しを打った。コロナ禍の3密回避で加速したアウトドアブームの終焉が、スノーピークの連結決算に如実に表れたと見方である。

 だが、この報道に対してアウトドア業界からはやや懐疑的な意見も聞かれる。都内のアウトドア量販店関係者は、キャンプ道具の特性がスノーピークの失速に繋がったのでは……と推察する。

「コロナ禍でキャンプブームが広まったという見方がよくされますが、実はキャンプブーム自体はコロナ前の2015年頃から緩やかに始まっていました。その背景には子連れで行けるフェスが増えたこともあると言われています。そしてコロナ禍となり、キャンプブームが加速し、実際スノーピークのギア(※焚き火台などのキャンプグッズのこと)は、キャンプを始めるというお客さんに飛ぶように売れましたね。 

ただ、基本的にキャンプのギアは荒天でも耐えられるように、丈夫に作られているものなんです。耐久年数も長く、消耗品のように次から次に買うようなものじゃないんですよ。20年前のオイルランタンをずっと使い続けている……なんてベテランキャンパーも珍しくないですからね。それと、テントチェア、寝袋に焚き火台などの大物はいくつも買うものじゃないですから、一度購入した方は数年買わないなんて普通のことです

 買い換えをしないサイクル、コロナの収束によるレジャーの多様化といったさまざまな要因が重なった結果、スノーピークの売れ行きが鈍化したとこの関係者は見ている。

スノーピークの商品が売れない本当のワケ

 また、キャンプ用品の特性に加え、スノーピークが販売している商品が「丈夫で質が高い」ことにより、自らのクビを締めることに繋がったと指摘する。

スノーピークが人気になった理由は、知名度に加えて丈夫で質が高く、組み立ても簡単だからでしょう。他メーカーと比べて価格は高めですが、初めてのキャンプを少しでも快適に過ごしたい方は、少々高くてもスノーピークを選ぶ傾向にあったと思います。加えて、修理などのアフターフォローも万全なので、一度購入された方はなかなか新しく購入しないんですよね」

 実際、店舗で相談された際に予算に余裕がある客には、丈夫で使い勝手のよいスノーピークの製品を勧めることが多かったと、この関係者は話した。

◆目が肥えたキャンパーはより“映え”を求める

 また、業界歴20年近い経験を持つアウトドアライターは、コロナ禍でキャンプを始めたキャンプ初心者の目が肥えてきたことも、スノーピークにとっては逆風になったと語る。

「コロナ前の2018年くらいから、小規模ながらもこだわりを持ったギアを作って販売するアウトドアブランドが数多く生まれており、キャンプにハマッた人は、そういったメーカーの“映える”ギアを競って買い求めるようになりました。慣れてくるとスノーピークなどのメジャーテントやギアはみんな持っているので、敬遠されがちになってしまいます。そしてインスタなどのSNSを見て刺激を受け、同じようにカッコよくて映えるギアを持ちたいと思うようになるわけです。

そういったギアは、以前は一部の限られたアウトドアショップなどに行かなければ買えませんでしたが、最近は全てネットで購入できます。アウトドア系YouTuberなどが珍しいギアや映えるギアを解説する動画を配信していることで、キャンプ初心者でも抵抗なくこうしたギアを購入できるようになったのもスノーピークにとっては大きな逆風でしょうね

キャンプ場の稼働率が減った裏事情

 だが、一部ではキャンプ人口そのものがコロナ禍よりも減り、まさに失速だとする報道もある。こうした実情は果たして本当なのだろうか。ライターによれば、現状は「失速ではなく定着」だと指摘する。

「ゴルフを一度やってみたけど、自分には合わなかったからもうやらない……なんて話は珍しくないですよね。キャンプも一緒です。そもそもコロナ禍のキャンプブームがバブルだったんですよ。一気にキャンプ人口が増えたのは事実ですが、その人たちがずっとキャンプを続けているのかといえばNOです。これはどんなことでも言えるのではないでしょうか。

むしろ、現在の状況はコロナ禍のキャンプバブルのおかげで参加人口が増え、その結果、しっかりとキャンプに行くコア層が増えたと私は感じています。失速したのはスノーピークの売り上げであって、キャンプブーム自体はしっかりと定着しているように思えますね

◆ネット予約で一部のキャンプ場に人気が集中

 先述のアウトドア量販店関係者も口を揃える。

「一部では、半数以上のキャンプ場で稼働率がコロナ禍よりも大幅に落ちたというデータもあるようですが、海外にもまた行けるようになり、レジャーの選択肢も多様化したわけですし、そりゃ稼働は落ちますよね。加えてコロナ禍以降、人気のキャンプ場に客が集中する傾向にあります。

それに加えてネット予約の導入の有無が予約率に大きく影響していると、キャンプ場の経営者は口を揃えます。人気のキャンプ場は予約開始の深夜零時に10分ほどで予約が埋まってしまうことも珍しくありません。手軽にネットで予約して同時にクレジット決済ができ、キャンセルする際もネットで簡単にできるなら、電話予約しかないキャンプ場よりもそちらを選んでしまいますよね」

 コロナ前の19年くらいからネット予約を導入するキャンプ場は増え始め、コロナによってキャンプ場のDX化が加速したとは、まさに怪我の功名ではなかろうか。

◆生き残りのカギは一般のキャンパーをどう取り込むか

 先述のライターによれば、HPの充実とネット予約はキャンプ場が生き残るために最低限しなければならないことだと指摘する。

「以前は知る人ぞ知るキャンプ場みたいなところが人気でしたが、これからいかに一般のキャンパーを呼び込めるかが勝負でしょう。実際、特に売りがないキャンプ場でもHPを開設して情報を充実させ、ネット予約の導入で大幅に売り上げを伸ばした……なんて話はよく聞きます」

 スノーピークの一件は、ある意味でコロナ禍のキャンプバブルの象徴だったと言えるだろう。ブームの失速ではなく、定着と言われるようになるためにも、業界は兜の緒を締める必要はありそうだ。

取材・文/谷本ススム

【谷本ススム】
グルメ、カルチャー、ギャンブルまで、面白いと思ったらとことん突っ走って取材するフットワークの軽さが売り。業界紙、週刊誌を経て、気がつけば今に至る40代ライター

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