日本の公的年金制度。細かな決まりごとが多く、知っていると知らないでは、大きな差となることも珍しくはありません。今回は「年金の繰下げ受給」と「年金の壁」についてみていきます。

65歳で年金月10万円…「年金の繰下げ」でどれだけ増える?

老後の生活の基盤となる公的年金。原則65歳からもらえるものですが、その金額は十分とは言い難いものです。

厚生労働省令和4年厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、国民年金(老齢基礎年金)の平均年金月額は5万6,428円。厚生年金保険(第1号)の平均年金月額は、併給の国民年金と合わせて14万4,982円。65歳以上男性では16万7,388円、女性では10万9,165円でした。

できるだけ、年金受給額を増やしたい……そんな願いを叶えるものとしておすすめされているのが「年金の繰り下げ」です。これは、原則65歳から受け取る年金を66~75歳で受け取るというもの。1ヵ月遅らせるごとに0.7%ずつ年金受取額は増えていき、最大84%増となります。

たとえば、65歳で年金月10万円だとしたら、繰下げ受給を利用することでいくらになるのでしょうか。

・66歳0ヵ月で10万8,400円になります。

・67歳0ヵ月で11万6,800円になります。

・68歳0ヵ月で12万2,500円になります。

・69歳0ヵ月で13万3,600円になります。

・70歳0ヵ月で14万2,000円になります。

・71歳0ヵ月で15万0,400円になります。

・72歳0ヵ月で15万8,800円になります。

・73歳0ヵ月で16万7,200円になります。

・74歳0ヵ月で17万5,600円になります。

・75歳0ヵ月で18万4,000円になります。

総務省『労働力調査』によると、2022年、「65~69歳」の就業率は50.8%。「70~74歳」で33.5%、「75歳以上」で11.0%です。年金の受取年齢を超えても、約半数の人は働いています。「給与収入があり、それで生活できるなら年金の受け取りを遅らせて、その分、たくさんの年金を受け取れたほうがお得」と年金の繰下げ受給が推奨されているわけです。

年金の繰下げで受取額アップのはずが…おひとり様は気をつけたい「155万円の壁」

年金の繰下げ受給で知っておきたいのが、年金が増えることで税負担が重くなる可能性がある、ということ。

いま巷でいわれている「年収の壁」ですが、これは年金収入に関してもあり、「年金211万円の壁」などと耳にしたことはないでしょうか。これは「住民税非課税世帯」となる境界線で、それにより税金や社会保険料の負担が変わります。またこの211万円というのは、夫婦の場合の境界線であり、単身者であれば「155万円」となります。また境界線は地域によって代わり、155万円は大都市などの1級地の場合で、中核都市などの2級地では152万円(夫婦の場合は203万円)、それ以外の3級地では148万円(夫婦の場合は193万円)になります。

たとえば、65歳からの年金が月10万円、大都市に住むおひとり様。原則通り年金を受け取れば、所得税や住民税はゼロです。2年5カ月繰り下げて68歳5カ月から年金を受け取ると、1年の年金収入は154万4,400円なので、ギリギリセーフ。所得税や住民税はゼロです。2年6ヵ月繰り下げて68歳6カ月で年金を受け取ると、1年の年金収入は155万2,800円となり、住民税は7,200円(東京の場合)ほどかかることに。社会保険料なども考えると、手取り額が逆転すると考えられます。

このように、年金の繰下げ受給は確かに年金の受取額を増やすことはできますが、タイミングによっては「手取り額の逆転現象」が起きます。専門家のアドバイスなども参考にしながら、個々でベストな受取りのタイミングを探っていくことが肝心です。

[参考資料]

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』

日本年金機構『年金の繰下げ受給』