旧ソ連型の中央司令型計画経済の決定的な問題は数々あるが、その一つが「悪平等」だ。頑張って働いてもサボっていてももらえる給料は同じとなれば、誰も働く気にはならないだろう。

働かせるために、過大なノルマを課して達成を強いるキャンペーンを繰り返したが、質の悪い製品が大量に生み出されるだけだった。そんなことを2024年の今に至るまで続けているのが、北朝鮮だ。

一般労働者の月給は3000北朝鮮ウォン(約51円)で、コメ1キロすら買えない超のつく薄給だ。昇進すれば多少は上がるものの、それだけで生活が成り立たない状況には変わりはない。その結果、人々はワイロを使って職場を休み、商売に精を出したり、権限を利用してワイロを要求したりする。

そんな状況に若干の変化が生じつつある。一部企業に限られるが、昨年末から月給が10倍から35倍と大幅に引き上げる措置が取られた。そして、時期を同じくしてボーナスの支給も行われたと、複数のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

平安南道(ピョンアンナムド)、両江道(リャンガンド)、江原道(カンウォンド)のデイリーNK内部情報筋によると、一部の企業所は、年末総和(決算)を経て、年間のノルマを短期間で達成した労働者に、「社会主義競争総和金」と称してボーナスを支給した。

北朝鮮当局は農業、軽工業、重工業など部門別に地域や工場間での競争を誘導し、成果を上げる目的で社会主義競争総和を実施してきた。

このようなことは、各地方の朝鮮労働党委員会の関連部門が主催することが多い。ただ、昨年末に支給された社会主義競争総和金は、当局ではなく、企業所が独自に支給したという。

平安南道の内部情報筋は「生産性向上に貢献した労働者に言葉だけの形式的な励ましではなく、お金や現物で実質的な激励をするのが金正恩総書記の時代の特徴だ」として、ボーナスが支給されたことを伝えた。

大規模な企業所では、労働者の成績を集計し、1位から5位あるいは10位までの労働者ボーナスが支給された。江原道の某企業所では、最大で30万北朝鮮ウォン(約5100円)が、両江道の某工場では10万北朝鮮ウォン(約1700円)が支給された。

4人家族の平均的な1カ月の生活費は50万北朝鮮ウォン(約8500円)と言われており、充分とは言えなくとも、暮らし向きの助けになる金額だ。ただ、国営米屋の「糧穀販売所」での穀物価格も大幅に引き上げられており、実質賃金が上がったとは言い難い。

また、これほどの大金を支給されたのはごく一部の人に限られており、大半の労働者は依然として苦しい生活を続けている。

「生産単位(職場)で指導する立場ならば、月に100ドル(約1万5000円)ほどもらえる。カンパニア(生産量増大キャンペーン)のときには1000ドル(約15万円)もらえることもある。それでも給料だけでは生活できないので、様々な方法を動員して副業で現金を稼ぐしかない」(平安北道の情報筋)

国民全体の給料を現実の物価に合わせた水準にして、ようやく生活が成り立つが、そのためにはマネーサプライを増やす必要がある。しかし、裏付けのない通貨発行はハイパーインフレを招きかねない。

北朝鮮のコメ価格は、例年なら収穫後の11月が最も安く、そこから春に向かって上昇し、麦が取れる直前の初夏が最も高くなるというサイクルになっているが、今年はもう2月の時点で、コメ価格が上昇に転じている。

上昇幅は数パーセント程度で、今のところインフレの兆候があるわけではないが、国民により安い価格で穀物を提供すべき糧穀販売所が、予算確保のため、米価上昇を待って売り惜しみしていると、別の情報筋が伝えている。

北朝鮮政府に求められるのは、人々を利益を生み出さない国営企業に縛り付けておくのではなく、余剰人員に自由な経済活動をさせ、経済を活性化させることだ。しかし金正恩政権は、職場を通じた食糧配給で人々をがんじがらめにしていた手法の復活を目指すという、全く逆の方向に向かいつつある。

大安親善ガラス工場の生産現場(画像:労働新聞)