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子供のレゴブロックから着想を得たハイブリッド

約10年前、ニコラ・フレモーというルノーの若いエンジニアがクリスマス休暇に子供たちとレゴのおもちゃで遊んでいたとき、超高効率の新しいハイブリッド・トランスミッションを思いついた。そして、それは迫りくる電動化時代に向けて必要とされるものだという確信が、彼の中にはあった。

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当時、ハイブリッド車を大量生産していたのは、トヨタを筆頭に日本のメーカーくらいだった。しかし、フレモー氏のアイデアはもっとシンプルで、従来の前輪駆動車向け横置きエンジンに適用でき、コストも安く抑えられる可能性があった。

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ニコラ・フレモー氏が考案したEテック・ハイブリッドのレゴモデル    AUTOCAR

中でも、あらゆるパワートレインにおいて効率の「敵」である摩擦を劇的に低減する、2つのアプローチが特に革新的だった。

1つは、従来のクラッチを不要にし、電気モーターで駆動すること。高速域ではエンジンにバトンを渡す。

もう1つは、パワーロスを伴うシンクロメッシュ機構を、より効率的なドッグクラッチ式に置き換えることだ。

その効果は目を見張るものがあった。従来の駆動システムよりも20%も効率が上がる可能性を秘めていたのだ。簡単に言えば、ディーゼル車と同じくらい効率的なものだ。

また、EVのような走行特性を持つため、電動化への入り口として導入しやすいシステムでもあった。

フレモー氏のアイデアは、パリ西部にあるルノー・グループの技術研究所「テクノセンター」の肥沃な環境ですぐに結実し、本格的な開発プログラムへと発展していった。

ドライブモードは合計15種類 可能性を秘めたEテック

10年にわたる開発期間を経て、ルノーは現在「Eテック・ハイブリッド(E-Tech Hybrid)」という名称で独自のクラッチレス・ハイブリッド・パワートレインを展開している。2基の電気モーターとガソリンエンジンを組み合わせたもので、現行型はすでに第2世代にあたる。

2基のモーターのうち、一方は横置きエンジンの従来のクラッチがある場所に取り付けられている。もう一方はギア駆動のスターター・ジェネレーターの役割を担い、ガソリンエンジンの始動や電力回生だけでなく、必要に応じて110km/h以上のスピードでもクルマを走らせることができる。

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Eテック・ハイブリッドを考案したニコラ・フレモー氏    AUTOCAR

Eテック・ハイブリッドの仕組みをもう少し掘り下げよう。駆動用モーターは2速トランスミッションと、ガソリンエンジンは4速トランスミッションと組み合わされる。これによりモーターの小型化を実現した。

ギア比は複雑だが、それぞれの「トルク・ソース」を巧みに組み合わせることで、電気のみまたはエンジンのみの巡航など、合計15種類のドライブモードを実装できる。将来の改良では、さらに増える可能性もあるとエンジニアは語っている。

第1世代のEテック・ハイブリッドは、自然吸気の1.6Lガソリンエンジンと200Vの1.2kWhバッテリーを組み合わせ、合計出力146psを発生する。2020年に導入され、現在はクリオ(日本名:ルーテシア)、キャプチャーアルカナルノー傘下のダチア・ジョガーに搭載されている。

第2世代では専用設計の1.2L 3気筒ガソリンエンジンをベースに、400Vの2.0kWhバッテリーを搭載、合計出力は200psに達する。新型SUVのオーストラルをはじめ、ラファール、エスパスに採用される。

イノベーションは1人から生まれるものではない

フレモー氏は、Eテック・ハイブリッドの発見における自身の功績に誇りを持っているが、それを実現できたのはチームの努力の賜物だという。

「摩擦という沼にハマっています」と彼は楽しそうに言う。「ハイブリッド・システムで摩擦を低減できたときはとても嬉しかった。特に、ルイ・ルノー(創設者)が最初に作った1台から、最新のF1マシンにも使われているドッグクラッチ技術を使うことになったのは大きな喜びです」

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実機のEテック・ハイブリッドについて説明するエリック・ペクー氏    AUTOCAR

弊誌取材陣はパリ西部のテクノセンターを訪れ、オリジナルのEテック・ハイブリッドのレゴモデルを見学した。フレモー氏によれば、初期の開発チームはまずシンプルな実証モデルを何度も作ったという。

ルノーのグローバル・パワートレイン・エンジニアリング・プロジェクト・ディレクターであるエリック・ペクー氏も、重要なサポーターの1人だ。

ペクー氏は、「ルノーにとって、最終的に向かう先がEVであることは間違いありません。しかし、ハイブリッド車がEVへの理想的な第一歩になると信じています。わたし達は、これをルノーらしいプロジェクトにしたかった。扱いやすく、最新技術を使いながらも、手頃な価格にしなければなりませんでした」と語る。

手頃さを実現するため、当初はルノーではなくダチアのモデルへの採用が考えられていた。しかし、開発が進むにつれ、可能性が見えてきた。2014年公開のコンセプトカー「Eolab」にも搭載され、当初は3人しかいなかった開発チームは、やがて数百人にまで膨れ上がった。

「イノベーションは決して1人から生まれるものではありません。特にハイブリッド・システムのように複雑なものであればなおさらです」とフレモー氏。

進化を続ける独自技術 将来への「期待」

ギア設計やソフトウェア設計における数多くのイノベーションが、現在も生まれ続けている。Eテック・ハイブリッドはすでに150件の特許を取得しており、ペクー氏とフレモー氏は、短期的にはライバルが追随できる技術ではないと考えている。

2時間ほど話を聞いた後、筆者は第1世代のEテック・ハイブリッドを搭載したクリオでのドライブを勧められた。弊誌の他の記者もこのクルマに試乗しているが、筆者の所見は彼らとまったく同義であった。

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ルノークリオEテック・ハイブリッド

変化に富んだ短距離のルートで、滑らかさ、静粛性、しなやかな脚、そして(トリップメーターによれば)優れた燃費といった、さまざまな特長が見えてくる。

ルノーによると、Eテック・ハイブリッド搭載車は街中における走行時間の80%を電力のみで過ごせるという。これは、短いテストでも証明されたようだ。

Eテック・ハイブリッドは将来、どのように使われていくのだろうか? ルノーのエンジニアたちは、いずれは有効期限を迎え、EVに追い越される可能性を認めている。しかし、欧州では少なくとも11年、他の地域ではおそらくその倍は走れると期待する。


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