アメリカ軍兵士とアフガン人通訳の国境を越えた固い絆を描く『コヴェナント/約束の救出』が2月23日(金・祝)より公開となる。本作のメガホンをとったのは映画「シャーロック・ホームズ」シリーズなどのガイ・リッチー監督。すでに映画を観た人の反響として、作品を高く評価する声と共に「ガイ・リッチーっぽくない!」という感想も目立つ。これまでの作風とはガラリと違う、リアルで緊迫感に満ちた社会派ヒューマンドラマに仕上がった本作に、リッチー監督は並々ならぬ想いで挑んだようだ。

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主人公である米軍のジョン・キンリー曹長役を『ブロークバック・マウンテン』(05)や『ナイトクローラー』(14)のジェイク・ギレンホールが、アフガン人通訳のアーメッド役を「ゲーム・オブ・スローンズ」のダール・サリムが演じた。2018年のアフガニスタンにて、タリバンの武器や爆弾の隠し場所を探す部隊を率いるキンリーは、優秀なアフガン人通訳のアーメッドを雇うも、彼の部隊は攻撃を受け、キンリーとアーメッド以外は全滅してしまう。キンリーも瀕死の重傷を負うが、アーメッドに救出され、無事にアメリカへ帰還。しかし自分を助けたことで、アーメッドと彼の家族がタリバンに狙われていることを知ったキンリーは、彼を救うために再びアフガニスタンへと向かう。

■「戦争を題材にした作品に取り組みたいという想いがありました」

映画批評サイト「ロッテン・トマト」で観客スコア98%の支持を受け、「ガイ・リッチー監督の新たな代表作」との呼び声も高い本作。リッチー監督は「過剰な演出には頼りたくなかったし、過去作とは違うことをやりたいと思いました」と述懐する。

「だから観た人は、僕がこれまでに撮ってきた作品とは異質なものだと感じると思います。でも、台詞を聞けば、僕の映画だとわかるんじゃないでしょうか。本作では派手なシーンを撮ることよりもストーリーの部分に関心があったし、演出で着飾る必要がまったくなかったので」。

監督は、あるドキュメンタリー映画から着想を得て、本作の監督、脚本、製作を務めるに至ったと説明する。「以前から戦争を題材にした作品に取り組みたいという想いがありました。それは僕が最も好きなジャンルの1つですが、長い間、僕が映画にしたいと思えるようなストーリーを見つけ出することができませんでした。ある時、アフガニスタンの戦争と、米軍に協力するアフガン通訳者に関するドキュメンタリーを観て、彼らが直面する問題に心を動かされたんです」と本作を手掛けることになった経緯を明かした。

アフガニスタンに関しては様々な話を聞いていましたが、それは恐ろしく感じると同時に感動的なストーリーでもありました。こんなに恐ろしい環境のなかでもまだ思いやりが残っていて、それが他者に対して差し伸べられるということに驚きました。この作品は、僕が見たり聞いたりした様々な物語やドキュメンタリーと逸話を融合させたもので、物語の根底には他者のために自分を犠牲にする思いやりというテーマも入っています」。

ギレンホールが演じたキンリーについては「実際に戦地を歩く男です。善良で古き良き時代を思わせる立派で勇気ある兵士であり、国と仲間に対する忠誠心に満ちています」と、通訳のアーメッドについても「アフガン人版のジョン・キンリーのような存在で、忠誠心が深く、勇敢で、他人本位な人間です」と心から称える。

さらに、キンリー役を演じたギレンホールについて「俳優としての才能に常に感動していますし、キンリー役にぴったりな俳優だとわかっていました」と語る。アーメッド役のサリムについても「彼にはこの役に必要なカリスマ性と、僕が望んでいた知性がありました。彼は父親が子どもに与えるような愛情を優しく表現しながら、状況によっては厳しい態度も見せます。穏やかな雰囲気を醸し出しているけれど、体を張って自分や他者を守ることができる人物を体現しています」と、両者に全幅の信頼を寄せていた。

■「人間の特性がもつ本質的な面を掘り下げることが好き」

負傷して自力では1歩も歩けないキンリーを見捨てることなく、長い道のりをほぼ歩いて連れて帰ってくれたアーメッド。キンリーはその恩に報いるべく、アーメッドを救うために、再び戦火へと飛び込んでいく。「この作品では、僕たちが自分のなかにあったらいいなと思う肯定的な性質を表現しました。また、自分の中に人として欠かせない資質があるのかどうかが試されるという環境が舞台になっています」と熱弁するリッチー監督。

「もちろん、自分がどういう行動を取るのかはその時になってみないとわかりません。もし誰かが自らを犠牲にしてまでなにかをしてくれたら、その行為を受けてどんな恩義を感じるのでしょう?それは心地の良い重荷であると同時に、不快な重荷でもあると思います。なぜなら恩義を返さなければならないと考えるから。その人自身に関心があるからではなく、その自己犠牲的な行為に対して借りがあると感じるんです」と監督は受け止めたよう。

絶対に守らなければいけない約束“コヴェナント”が、骨太な映像で活写された『コヴェナント/約束の救出』。本作のテーマについて監督は「僕は、アフガニスタンの地でまったく違う文化をもった人間が、お互いに対して自らを犠牲にするという行動にとても興味を持ちました。人間の特性がもつ本質的な面を掘り下げることが好きなんです。異なる2つの文化の間で、他人本位の行動が交わされるというのは、とてもおもしろいテーマだと思いました」と、米軍兵士とアフガン人通訳との深い絆に心を大いに揺さぶられたようだ。

ガイ・リッチー監督が放つ渾身の1作は、観終わったあと、多くのものを雄弁に語りかけてくる。異国で痛ましい戦争が続いているいまだからこそ、1人でも多くの方々に観ていただきたい。

構成・文/山崎伸子

『コヴェナント/約束の救出』のメガホンをとったガイ・リッチー監督/[c]2022 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED