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 発達障害の一種であるADHD(注意欠陥・多動症)は、最近でこそその名が定着したが、落ち着きがない、様々なものに興味が移るといた特性はずっと昔から知られており、何世紀も前からさまざまな名称で呼ばれてきた。

 最近の研究では、ADHDは特定の遺伝子が関与していて、遺伝性が高いことが明らかになっている。つまり、親から子へとその遺伝子が受け継がれており、ADHDに特徴的な特性は、大昔の人間の遺伝子に組み込まれていただろうことを示している。

 だとするなら、ADHDには何か進化上のメリットがあったのではないだろうか?最新の研究がその謎を明らかにしている。

【画像】 ADHDに進化上のメリットはあるのか?

 ADHD(注意欠損・多動症)の症状の出方は人によって様々だが、一般的には、気が散りやすい、じっとしていられない、衝動的になる、注意力が欠ける、などの特性がある。

 だが興味の対象が移りやすく、突発的な行動を起こすなどといった特性は、「冒険者」としては優位に働くのかもしれない。

 新たな研究によれば、こうした特徴は我々の先祖が、狩猟採集生活のような自然の中で食べ物を探さねばならない状況では、生存に有利に働いたと考えられるという。

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[もっと知りたい!→]世が世なら...発達障害「ADHD」は狩猟採集社会では優位性を持っていた。現代でも適した職業や場所が見つかれば特性を強みに変えられる可能性(米研究)

ADHDの特性は食べ物を探し回るのに有利に働いた可能性

 米国ペンシルベニア大学の研究チームが行なった実験では、ADHD傾向にある人ほど、「最適採餌理論(さいてきさいじりろん)」から予測されるもっとも有利な行動をとることが明らかになっている。

 最適採餌理論 とは、食物探索行動を予測する際に用いられる行動生態学における最適化モデルのことだ。

 生物は食物を食べることによってエネルギーを得るが、同時に食物の探索や捕獲にはエネルギーや時間がかかる。

 そこで、自身の適応度を最大化させるようと、より少ないコストでより多い利益(エネルギー)を得る採餌戦略を採用していると考えられる。

 たとえば、あなたが大昔の狩猟採集民で、食べ物を求めて仲間と一緒に森をさまよっていたとしよう。そしてある時、果物がたわわに実ったまるで果樹園のような場所にたどり着いた。

 さて、あなたはこの果樹園に腰を落ち着けて、果物を食べ尽くすまでそこに滞在するだろうか? それとも今採れるだけ採ったら、また別の食べ物を求めてさっさと出発するだろうか?

 こうした決断は、あらゆる生物の生存に関係する基本的なものだ。どちらにもメリットとデメリットがあり、どちらが有利かはおそらくその時の状況や環境によっても左右されるだろう。

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ADHDの特性は大昔の冒険者の証

 2000年代初め、ある研究チームは、ケニア北部で暮らすアリアール族の遺伝子を調べた。この部族は、昔から遊牧民的な生活を送っていたが、20世紀になるとその一部は定住するようになった。

 そこで遊牧生活を続けたアリアール族と定住したアリアール族の遺伝子や健康を比べてみたところ、とても面白いことが判明したのだ。

 基本的にアリアール族は全員が「DRD4/7R」という遺伝子変異を持っている。これはADHDの患者にもよく見られ、落ち着きのなさや注意力のなさと関係するとされている。

 そして、あまり体を動かすことがない定住生活を選んだアリアール族の子供たちの場合、この突然変異は健康状態の悪さや、授業に集中できないといったことと関係していた。

 ところが相変わらず遊牧生活を続けているアリアール族では、体の強さや栄養状態の良さと関係していたのだ。

 ここから興味深い仮説が浮上している。もしかしたら、ADHDの背後にある遺伝子は、それを持つ人を”冒険者”にすることで、生存を有利にしたのではないだろうか?

 現代社会において、そわそわした落ち着きのなさは悪くとらえられがちだが、自然を探索して食べ物を探さねばならない人間にとっては都合がいいのかもしれない。

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ADHDの特性は食料採取に優位性があるのかをテスト

 今回ペンシルベニア大学デビッド・バラック氏らは、この仮説を検証するために次のようなゲームを行なってみた。

 画面に茂みが表示されるので、参加者(約450人)はマウスカーソルをその上に置いて、できるだけ多くの果物を集める。

 ただし同じ茂みで果物を採るたびに、収穫量は少しずつ減っていく。だが新しい茂みにポインターを移動させれば、その分時間がかかる。

 そう、このゲームは先述した果樹園にたどり着いたグループの状況を再現したものだ。さて、8分間の制限時間内に一番果物を手にできたのは誰だっただろうか?

ADHDの特性が優位に働いたことが判明

 結果、果物をたくさん収穫できたのは、実験とあわせて行われた検査でADHDの傾向が高いとされた人たちだった。

 こうした人たちは、ADHDスコアが低い人に比べて、次から次へと新しい茂みに移動しがちだったが、そのおかげで全体的な収穫量が多かった。

 これについてバラック氏らは論文で、「全体として参加者が滞在しすぎていたことを考えると、探索を続けたADHD傾向の参加者は、最適採餌理論の予測により一致しており、この意味で、より最適に行動した」と述べている。

 こうした結果は、ADHDの進化上のメリットに関する最終的な答えではない。

 だが、現代では病気とされるこの症状が単純に悪いものではなく、状況次第ではその人を助けてくれる可能性があることを示している。

 2015年にも、米ニューヨーク、ワイル・コーネル医科大学のリチャード・フリードマン教授が、ADHDの特性は狩猟採取時代に優位に働いていたとする報告行ったが、今回の研究はこれを裏付ける形となったようだ。

 この研究は『Proceedings of the Royal Society B』(2024年2月21日付)に掲載された。

References:ADHD linked to evolutionary success in ancient humans / ADHD may have been an evolutionary advantage, research suggests | Evolution | The Guardian / written by hiroching / edited by / parumo

 
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ADHDに進化上の利点。初期人類が食料を探し回るのに有利に働いた可能性