大阪地裁は2024年2月8日、準詐欺罪、詐欺罪で起訴された20代の男性に対して、懲役2年6月(求刑同じ)、執行猶予3年の判決を下した。

準詐欺罪とは、一般にはなかなか馴染みのない罪名かと思われるが、大阪地裁では2023年12月以降連続して少なくとも5名が同罪で起訴されている。なんと彼らは同じ会社の従業員で、会社ぐるみでの詐欺行為を行っていた事件だったのだ。(裁判ライター・普通)

認知症のある高齢者や聴覚障害らを狙う

被告人は身柄拘束されており、身なりは地味であったが、現代的な若者らしい雰囲気だ。

準詐欺罪とは、人を騙すとまでは評価されなくても、知識の不十分さや判断能力が低いことを利用して、誘導、誘惑的な行為によって財物を得る行為を意味する。

起訴状によると、被告人は同じ会社の従業員らと共謀の上、認知症のある高齢者や聴覚障害者らを狙い、清掃作業名目等で実態にあわない多額の金銭の交付を受けた(準詐欺罪)。

また、火災報知器の電池を交換するとしながら、他の家で交換した古い電池と取り換えて、交換代金名目で金銭の交付を受ける(詐欺罪)などして、被害額合計127万円、計3件の事件に関与したとされている。

共犯者と裁判は別に行われているため、会社全体で何件の同種行為に至っているかは不明だ。被告人はいずれの事実も認めた。

●契約の記憶もない被害者から繰り返し詐取

検察官の冒頭陳述、採用証拠によると、勤務先の会社は高齢者が多い市営住宅などを狙い、少額の詐取を重ねていた。その中で、判断能力が乏しいと感じた人の家の情報は、営業担当者間で共有をして、繰り返し、詐取行為のため訪問するなどしていた。

被害者の1人は単身で生活していたが、認知症があり度々“迷い人”として、身元を保護されるなどしていた。過去の契約内容の記憶はなく、部屋の清掃名目などで約60万円を支払ったものの、室内にはゴミが多くあり、清掃の形跡などはなかった。

また別の被害者には、聴覚障害者もいた。単身で生活していたが、学校などでの経験から、「健常者の言うことには従うべき」という考えがあったという。医師からも、言いなりになりやすいなどと供述されており、被告人の関与は一部ながらも、合計291万円もの代金を支払っていた。

●4000円ほどの浄水器を取り付けて33万円

被告人質問では、共犯者との関係性などが明らかになった。

バーで働いていた際に、後の共犯者であるバーのオーナーからその他共犯者らを紹介されて関係を持つようになる。

共犯者の会社では、ホームセンターで3000〜4000円で買った浄水器を33万円(被告人の取り分2万2千円)で取り付け作業を行ったり、何か器具を使うでもないトイレや水回りの掃除名目で17万円(被告人の取り分4万4000円)を受け取っていた。

また、火災報知器は「10年に1度電池交換が必要」と説明し、他の家で同じように交換として抜き取った古い電池をその家に入れ、3000円を受け取っていた。

被告人は起訴された事件への関与は認めているものの、主担当者として犯行を行ったのは火災報知器の電池交換の件のみで、残りの事件は他の担当者の手伝いなどをしていたに過ぎないと従属的な立場であることをアピールしていた。

会社として高齢者ばかりを狙っていたことは、予備知識が少ない、話を聞いてくれやすい、契約に至りやすいなどの理由であると供述した。

認知症を持つ被害者については、大きな額を提示しても何度も受注していた点、同じ話を繰り返すことなどから、判断能力が低下しているとの認識はあった。当時の心境を振り返ると、罪悪感はあり、同じ社内でも認知症の方を騙す行為やあまりにも高い金額を受注しすぎるのはいかがなものかと話題に出たこともあるという。

しかし、その思いは次第に薄れ、その日暮らしの生活をしていた実情もあり、目の前の金に目がくらんでいった。

●僕は「電池を交換しますね」としか言っていない

自身が主担当だった場合、売上の4割が取り分となった。起訴された事件の1つ、火災報知器の電池交換について、弁護人からは次のような質問がなされた。

弁護人「電池が新品でないことは、相手に伝えていましたか」
被告人「伝えていません」

弁護人「相手は新品であると思っていたのではないですか」
被告人「そう思っていただろうと、薄々は感じてはいたのですが」

積極的に騙すつもりはなかったかのような言い分に、検察官が追及する。

検察官「先ほど『もしかしたら新品と思っていたかも』と言いましたね」
被告人「誤解を招く言い方をしてしまったと思っています」

検察官「誤解を招く言い方というのは?」
被告人「僕は『電池を交換しますね』としか言わなかったので」

検察官「あなたがコンビニなどで買い物をして、新品って書いていなければ中古の品でも納得するんですか? あなたが誤解を招く風にわざと言ったんでしょ?」

最後に裁判官が質問をする。

裁判官「仕事についての話を聞いて、うさんくさいとは思わなかったのですか」
被告人「思いましたけど、頑張り次第で稼げるというのに興味というか」

裁判官「頑張り次第というのは、詐欺を繰り返すことですよね。こういうことをして稼いではいけないと学ばないといけないのではないでしょうか」

被害者には共犯者などから被害弁償があり示談が成立し、クーリングオフが適用されるなどして金銭的被害は回復した。

被告人が更生するためには、共犯者と連絡を断つ以外に具体的な策はない。今後は高校時代に家出した実家に戻るというが、尋問予定としていた被告人の母は証人として立つことはなかった。

認知症、聴覚障害者を食い物にする詐欺グループに罪悪感はある? 裁判で語った本音