◆引退騎手や調教師の馬が激走する理由

 競馬界は今がまさに別れの季節。今週末の競馬で2名の騎手が、来週の競馬をもって7名の調教師が引退します。

 競馬界には、「引退間際の騎手や調教師の馬が激走を果たす」という現象があります。

 例えば、2006年に引退した松永幹夫元騎手。ミッキーの愛称で親しまれ、武豊騎手とともに競馬ブームを牽引したトップジョッキーのラストウィークには、素敵なドラマが待っていました。最終日のメインレース阪急杯を、11番人気のブルーショットガンで差し切り勝ち。そして現役ラストランとなる最終12Rもフィールドルージュで勝利し、連勝で締め括ったのです。

 昭和を代表する名騎手・柴田政人氏は、調教師を引退する1週前に、16番人気・単勝116.7倍のバタリアンで勝利し大波乱を演出。

 華をもたせるために仕組まれている……なんてことはもちろんありません。ただ、心情的に、引退が迫っている騎手や調教師の馬に対して、必要以上に圧をかけたり、進路を閉めたりしにくいでしょうから、結果的にスムーズなレースになりやすいのは事実。当然、有終の美を飾るべく、しっかり仕上げているという側面もあるでしょう。

 昨年は最終週に五十嵐忠男調教師が2勝、一昨年は最終週の土曜日に高橋祥泰調教師と浅見秀一調教師が勝利し、最終日に藤沢和雄調教師が2勝を挙げています。

 そこで今回は引退する7人の調教師と2名の騎手を紹介しつつ、今週末の競馬で「有終の勝利」となりそうな馬はどの馬かを探ってみたいと思います(調教師の皆さんはもう一週ありますが)。

◆平成の競馬史を盛り上げた伯楽も引退

 まずは調教師から。今年引退するのは、飯田雄三調教師、加用正調教師、小桧山悟調教師、高橋裕調教師中野栄治調教師、松永昌博調教師、安田隆行調教師です。

 引退調教師の中で、もっとも実績があるのは安田隆行調教師でしょうか。現役時代はトウカイテイオーとのコンビでダービーを制覇、調教師としては世界的スプリンターロードカナロアを筆頭に、主に短距離路線で多数の一流馬を送り出しました。管理したロードカナロア産駒で「有終の美」となったら、ちょっとしたドラマですね。

◆今週出走の注目馬

・日曜阪神01R アンリベイビー

 競馬ブームの象徴ともいえる存在なのが中野栄治調教師。騎手として、史上最高となる19万6517人が詰めかけた1990年日本ダービーアイネスフウジンで制しており、この時に場内に木霊した「ナカノコール」は競馬史に残る名シーンです。

・土曜中山08R マウンテンエース

 近4走で2着3回の安定株。惜敗にピリオドを!

 マルチな才能で知られているのが小桧山悟調教師スマイルジャックダービー2着が最高で、調教師としてG1レースには手が届きませんでしたが、数多くの調教師や騎手を育てあげました。ゴリラ愛好家としてゴリラの写真集を出版したり、親交のあったライターが亡くなった際は中心となって追悼本を制作したりと、人間としての魅力に溢れた伯楽です。

土曜中山06R セイウンマカロン

 かつて所属していた原騎手とのタッグで一発期待!

オルフェーヴルの好敵手を管理

 松永昌博調教師は、ナイスネイチャの主戦騎手として知られています。ナイスネイチャ有馬記念3年連続3着など、好走するも勝ちきれないレースを続け、“善戦マン”の愛称でファンから愛された存在でした。

 調教師としての代表管理馬はウインバリアシオン。この馬もまた、同世代に三冠馬オルフェーヴルがいたため、G1レースで2着が4回あるもののタイトルには手が届かなかった“善戦マン”でした。

・土曜阪神10R メイショウモズ

 前走はスムーズさを欠く。2走前だけ走れば好勝負!

 飯田雄三調教師は「ウイン」や「マイネル」のメインステーブルとして有名。加用正調教師は重賞14勝を挙げています。高橋裕調教師の管理馬といえば、ビワハヤヒデマイネルリマークで完封したが93年の共同通信杯が印象的です。

・日曜小倉07R ウインリュクス(飯田雄)
・土曜阪神06R ワイドアウェイク(加用)
・土曜中山10R マイネルニコラス(高橋裕)


◆ファンに強烈なインパクトを残した川島信二騎手

 最後は騎手。今週いっぱいで引退するのは川島信二騎手秋山真一郎騎手です。

 川島信二騎手は先週までにJRA通算341勝。オースミハルカファインモーションに土をつけた2003年のクイーンSは、ファンに強烈なインパクトを残しました。最終週は6頭に騎乗します。

土曜阪神04R デルママント
土曜阪神05R ナリタマフディー
日曜阪神01R ネバーモア
日曜阪神02R デルマエウロパ
日曜阪神03R レオボヌール
日曜阪神08R ピジョンブラッド


 ラスト騎乗は日曜阪神8Rのピジョンブラッド。距離延長で挑むここは、先行策からの粘り込みがあるかもしれません。思えば、2003年のクイーンSも先行抜け出しでの大金星でした。

◆秋山騎手は小倉で全12鞍に騎乗

 秋山真一郎騎手は先週までにJRA通算1058勝を挙げているトップジョッキーで、騎乗技術の高さ、フォームの美しさは関係者内でも定評があります。飄々としたキャラクターも魅力。最終週は全部で12頭に騎乗します。

土曜小倉01R ゼンノジーニー
土曜小倉02R スウィートリワード
土曜小倉05R アスクストライク
土曜小倉10R オースミリン
土曜小倉11R ダディーズトリップ
日曜小倉01R イズジョーヒカリ
日曜小倉02R チカミリオン
日曜小倉03R ジューンアース
日曜小倉05R メイショウマゴイチ
日曜小倉06R デヴォー
日曜小倉09R フォーディアライフ
日曜小倉11R ダンツイノーバ


 ラスト騎乗となる日曜小倉11Rのダンツイノーバは、2走前に自身が手綱を取って、同じ小倉芝1200m戦を差し切り勝ち。昇級初戦の前走でも0.4秒差まで差を詰めてきており、有終Vがあっても不思議ではありません。

 馬券を握りしめながら引退騎手・調教師を見守ることができるのは競馬ファンの特権。最後の勇姿を目に焼き付けつつ、懐も暖かくなったら最高ですね。

文/松山崇

【松山崇】
馬券攻略誌『競馬王』の元編集長。現在はフリーの編集者・ライターとして「競馬を一生楽しむ」ためのコンテンツ作りに勤しんでいる。

騎手としても調教師としても一流の成績を残した安田隆行調教師  写真/橋本健