厚生労働省の資料によると、マイナ保険証国家公務員全体の2023年11月時点の利用率は「4.36%」となっています。国民全体のマイナ保険証の同時期の利用率が「4.33%」であることから、ほぼ同水準ということになります。ちなみに、マイナ保険証を所管し、マイナ保険証の利用を促進する立場である厚生労働省の利用率は「4.88%」でした。

この数値を見てわかることは、国家公務員マイナ保険証の利用に積極的ではないということです。マイナ保険証の利用を促進する立場である厚生労働省ですらこの数値なので、国家公務員は、マイナ保険証の利用にメリットを感じていないということなのでしょう。

ここまで人気がなく、メリットも感じられないマイナ保険証を、どうして政府は強引に利用を推し進めようとしているのでしょうか。(ライター・岩下爽)

●利用できる状況なのにあえて利用していない

政府は、マイナ保険証の利用を通じて、マイナンバーカードの利用を促進したいと考えています。マイナンバーカードを保有していても、使われなければ何の意味もないからです。マイナンバーカードを使ってもらい、国民の行動を把握したいと政府は考えています。

マイナンバーカードには、もちろんメリットもあって、身分証明書機能や住民票などがコンビニで取得できるなどの機能があります。しかし、住民票などは頻繁に取得するものではなく、身分証明書も運転免許証などで代用できるため、あえてマイナンバーカードを取得するメリットがありません。そのため、マイナンバーカードの普及は進みませんでした。

そこで、マイナンバーカードを発行した場合にマイナポイントを付与するという政策を実施しました。さらに、銀行紐づけや健康保険証としての利用登録をするとポイントが上乗せされるという施策も行いました。その結果、マイナンバーカードの取得率は、当初は10%に満たないものでしたが、令和5年12月時点では、全国で73.0%となっています。

マイナ保険証は、マイナンバーカードに健康保険証の機能を付加したもので、マイナンバーカードを持っていて手続きさえすれば、誰でも利用できます。日本全体で7割以上の人がマイナンバーカードを持っているのに、マイナ保険証の利用が約4%ということは、利用できるのにあえて利用していないということです。

マイナ保険証の利用が進まない原因

マイナ保険証を利用すると、①高額療養費の申請をしなくても自動的に適用される、②転職や転居をしても健康保険証を切り替えなくて済む、③確定申告の医療費控除が簡単になる、④医療費が若干安くなる、などのメリットがあります。

しかし、高額療養費については、適用される場合、病院で案内がなされ手続きもそれ程難しくはないのでマイナ保険証にする積極的な動機にはなりません。また、転職や転居も頻繁にあるわけではないので、それほど必要性を感じません。また、確定申告で医療費控除をする人も少数に限られています。

唯一興味深いのは医療費ですが、健康診断の情報を医療機関に開示することを条件に初診と調剤で窓口負担が6円安くなるだけです。個人情報さらした対価がたった6円とはなんとも寂しい限りです。

これらのわずかなメリットを享受するために、わざわざ使いなれた健康保険証をやめてマイナ保険証にするでしょうか。ほとんどの人は、今までの健康保険証で何の問題もなく使えているわけですから、切り替える必要性を感じず、そのまま使い続けているということなのだと思います。

このような考えは、一般国民だろうと国家公務員だろうと変わることはなく、メリットがあればマイナ保険証を使うけれども、メリットがほとんどないから使わないという結論になっていると考えられます。

マイナ保険証の利用率、今後は一気に上がるけど…

マイナ保険証の利用率は約4%と低いわけですが、これは、現行の健康保険証が使えているからです。政府は、今の健康保険証を2024年12月2日に廃止することを正式に決定していますので、来年以降は一気に利用率が上がると思われます。

ただ、2024年12月の廃止後も1年間の猶予期間が設けられていますので、この期間が終わる2025年12月までは、一気に切り替わるということはないでしょう。2025年以降は、目立ったトラブルがなければ、健康保険証の廃止によって、ほとんどの人がマイナ保険証に切り替わることになると思います。

もっとも、「マイナ保険証」を持っていない人には代わりに「資格確認書」を発行することになっていますので、マイナンバーカードを持たない人や頑なにマイナンバーカードと健康保険証の紐づけを拒否している人は、引き続きマイナ保険証を使わないということもできます。

その選択は、個人の自由に任されていますが、マイナ保険証が普及すれば、資格確認書での利用は少数派になると思われるので、同調圧力の強い日本では、肩身が狭い状況になるかもしれません。マイナンバーカード運転免許証の一体化も検討されていることから、外堀をどんどん埋められているような感じです。

一方で、マイナ保険証が普及する過程で何らかのトラブル(個人情報が漏れるなど)が発生すれば、マイナ保険証へ切り替えに対して反対運動などが起こるかもしれません。その場合、選択的に資格確認書を使えることができるようになるなど例外措置が設けられる可能性があります。

●いつマイナ保険証に切り替えるべきか

マイナンバーカードに対応していない医療機関や薬局では、マイナ保険証が使えず、現行の健康保険証が必要になります。つまり、マイナ保険証を勧めておきながら、マイナ保険証が使えない場合があり、現行の健康保険証との2枚持ちが必要ということです。

健康保険証を2枚持たなければならないのなら、現行の健康保険証を1枚持っている方が簡単で便利と言えます。したがって、現行の健康保険証が廃止される今年の12月までは積極的にマイナ保険証に切り替える必要はありません。今年の12月以降は、健康保険証の有効期間や利用している健康保険組合などの取り扱いによって順次マイナ保険証に切り替えられることになると思います。

政府は、マイナンバーカードの普及を進めるためにマイナポイントを付与したように、利用状況などを見ながら対策を考えるものなので、思った以上にマイナ保険証の利用率が上がらなければ、何らかの施策を行うかもしれません。

マイナ保険証の利用を促進させるためには、マイナ保険証を利用した場合の診療報酬を大幅に引き下げることが有効だと思いますが、診療報酬の引き下げに対しては、医師会が反発することが予想されるため、簡単にはできません。

そのため、政府が拠出して時限的に医療費を安くするなど、マイナ保険証の利用者に対して何らかのメリットを与えることも考えられます。

以上のことから、加入している健康保険組合などの方針にもよると思いますが、選択できるのであれば、慌ててマイナ保険証に切り替える必要はなく、じっくり世の中の動きを見ながら、適切と思える時期に切り替えればよいのではないでしょうか。

「マイナ保険証」厚労省職員ですら利用率4.88% なぜ誰も使いたがらないのか?