物事を判断するときには、しっかりと数字を見ることが大切です。しかし、なんとなく数字を見るだけでは誤解してしまうこともあります。統計の読み方の注意点について、経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

数字を見ないのは危険だが、数字を眺めるだけでは誤解しがち

物事を考えたり判断したりする際には、数字を見ることが大切です。数字を見ずに印象だけで考えると思わぬ誤解をしかねませんし、人から「事実と違う」と一蹴されてしまう場合もあるでしょう。

しかし反面、数字を見る際にはさまざまなことに気をつける必要があります。統計は便利ですが、ぼんやり眺めていると誤解することも少なくありません。人の話を聞くときにも要注意です。

統計を使って説明されると、聞き手としては納得してしまう場合も多いのですが、「統計使いは統計を使って嘘をつく」といっている人もいるくらいですから(笑)。

統計は「バックミラー」のようなもの

過去のことを知らずに将来を語るのは非常に危険ですが、過去のことだけを考えて将来を語るのは、バックミラーを見ながら運転するようなものだといえます。

株価や地価が上がり続けているときには、「このまま上がり続けるだろう」と考えるべきでしょうか? それとも、「随分上がったから、今後はむしろ暴落が心配だ」と考えるべきでしょうか?

それを過去の値動きから判断するのは困難なので「株価や地価は適正水準より高いのだろうか?」といったことを考える必要があるわけです。

バブルのとき、借金して不動産を買った人が大勢いました。銀行は、彼らにたいして積極的に貸し出しをしていました。「これまで上がってきたから、これからも地価は上がるだろう。土地を担保にとっておけば心配ない」と考えたのでしょうね。

あるいは「昨年1年間の不動産担保貸し出しは、1件も焦げついていない。だから、不動産貸出は安全なのだ」と考えたのかもしれませんね。

いずれにしても、あとから考えれば、間違った判断であったことはだれでもわかるわけです。「自分がバブル期の銀行員だったら、なにをどう考えていただろう?」と考えるだけでも、統計を見るときには注意深くなる必要があることを理解できるでしょう。

因果関係には十分な注意を払おう

アイスクリームが売れる日は水難事故が多いから、アイスクリームの販売を禁止しろ」というのは、馬鹿げています。アイスクリームが売れることが水難事故の原因となっているわけではないからです。

A氏とB氏が似ていたとしても、A氏がB氏の親だとは限らないわけです。子どもかもしれないし、きょうだいかもしれないし、赤の他人が偶然似ているだけかもしれないからです。

因果関係の話は重要なので、別の機会に詳述することにしましょう。

前年比は便利だが、季節調整がベター

統計では、前年比が頻繁に用いられます。2月のチョコレートの売り上げを1月と比較しても「バレンタインデーで売れただけ」なので、意味がありません。それなら、前年の2月と比較して今年の売り上げが好調だったのかを判断すべきだからです。

しかし、前年比の数字も注意が必要です。昨年8月にオリンピックがあったとすれば、今年の8月のテレビの売り上げは前年比がマイナスになるはずですが、それを見て「テレビの売り上げが冴えない」などと考えるべきではありません。

そうした誤解を避けるためには、前年比よりも「季節調整値」というものを見るべきなのですが、季節調整値の説明は長くなるので、これも別の機会に詳述することにしましょう。

グラフにも要注意

グラフは便利です。統計の動きが直感的に理解できるからです。しかし、グラフを見る際にも注意が必要です。

下のグラフを見て、いちばん成長している企業はどれだと思いますか?

A社:1から2に100%増加

B社:10から19に90%増加

C社:10から18に80%増加

上記から、正解はA社です。

直感を信じるのは危険だということがおわかりいただけたでしょうか。

統計の作り方にも要注意

「米国軍人の死亡率は米国民の死亡率より低いので、米軍は安全な所だ」といわれても、真に受けてはいけません。米軍には高齢者が少ないからです。「20歳から60歳までの米国国民」と比べないと、米軍が安全な所か否かは判断できないのです。

会社員の配偶者が無職だとします。配偶者がパートで働き始めると、一家の収入は増え、家族が豊かに暮らせるようになります。「わが家の労働者1人あたりの収入が減って悲しい」などと嘆くことはないはずです。

しかし、日本経済にかんしては「わが国の労働者1人あたりの収入が減少していて悲しい」と考えている人も多いようです。専業主婦(主夫)がパートで働き始めた家が多いのかもしれないし、定年後の高齢者が働きはじめた家が多いかもしれないのに。会社員とそれ以外に分けて統計を作らないと、誤解を招きかねない、ということですね。

もうひとつ。

ビジネスマンにホテルの評判を聞いたところ、1番評判のいいホテルと1番評判の悪いホテルが同じでした。こんなことがありうるのでしょうか?

これはありうるのです。該当の地域にすごく大きなホテルと小さなホテルしかなければ、「気に入ったホテルは?」にも「失望したホテルは?」にも、大勢の客が回答する大きなホテルが得票を集めるからです。「回答者の何%が気に入ったか」という比率で見なければいけませんね。

「読み取るべきメッセージ」について考えよう

インフレ率が9.9%から10%に変化したとき、筆者は冷静に「引き続き10%近辺で推移している」と考えます。しかし、「大変だ、インフレ率が2ケタになった!」と大騒ぎする人が多いですね。そのほうが人々に関心を持ってもらえるからでしょう。気をつけたいものです。

「海の水をひと口飲んだら減る」と言い張るような人も問題です。筆者は「ほとんど減らない」というようにしています。聞き手へのメッセージとしては、そのほうが有益だろうと思うからです。

余談ですが、話し方によって相手が受ける印象が大きく異なる場合もあるので、これも要注意です。「私の手術の成功率は90%を誇っています。今朝の手術も大成功でした」という医師と、「私の手術は10回に1回は失敗します。今朝の手術も失敗でした」という医師がいたら、どちらの手術を受けたいですか? どちらでも同じですよね(笑)。

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

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塚崎 公義 経済評論家

(※写真はイメージです/PIXTA)