今年11月5日の本戦に向けて、各州で熾烈な予備選挙が繰り広げられている米国大統領選挙。3月5日には山場となる「スーパー・チューズデー」を控えているが、すでに米国内では、トランプ前大統領の復権が日に日に現実味を帯びているという。日本にも大きく影響を与え、お先真っ暗の未来が迫ってきそうだ。

 早稲田大学公共政策研究所招聘研究員で「日本人の知らないトランプ再選のシナリオ」(産学社)などを著書に持つ、政治アナリストの渡瀬裕哉氏が指摘する。

「米国内で自動車や鉄鋼などの製造業が集まるラストベルト(さびた工業地帯)と呼ばれる地域は大統領選挙の激戦州でもあるのですが、現時点での世論調査では、ドナルド・トランプ(77)がジョー・バイデン(81)の支持率を上回っています。各州においてトランプ優勢の状況が続いている」

 国際ジャーナリストの山田敏弘氏もトランプ優勢に同調する。

「ネットニュースでも『もしトラ(もしトランプが再選したら)』が注目のワードになっていますが、その気運よりも再選の可能性は高いと考えます。トランプが共和党大統領候補に選ばれるのはほぼ間違いない。対するバイデンは11月の大統領選後に82歳となりますが、これまでも演説で支離滅裂な発言をするなど認知症疑惑が浮上し、健康面を不安視する声が上がっている。トランプも高齢ですが、私は『ほんトラ(本当にトランプが再選したら)』という視点で動向に注目しています」

 前回の選挙では敗北したが、今再び、米国全土で「トランプ待望論」が広がりを見せているのだ。先の渡瀬氏が解説する。

ワシントンD.C.に巣食うエリート集団たちに対する、米国民のアンチテーゼということです。ギャングや麻薬が入り込む治安の悪い地域もあり、切実な問題ですが、ワシントンD.C.の一部は『不法移民にも人権がある』みたいなことを言い出す。環境問題も同様で、生活が一向に上向かない国民にとっては『地球温暖化のためにシェールガスシェールオイルの採掘をストップするよりも、すぐに再開してガソリン価格を下げてくれよ』が本音なんです。トランプは前回の大統領在任中、温暖化対策の国際的な枠組みを規定するパリ協定からの脱退を表明しましたからね。エリート政治家による国民の生活実感から乖離した政策への不満が、トランプ旋風を後押ししているのです」

 そうした追い風を背景に、米国の利益を最優先する「自国ファースト」を掲げるトランプ。大統領に返り咲くことになれば、世界秩序は大きく揺らぎ始めるだろう。

 山田氏もこの点を考慮して、

「トランプは最近も、ウクライナに軍事支援を行うNATO(北大西洋条約機構)加盟国について『十分な軍事負担をしていない加盟国がロシアに攻撃されても守らない。むしろ攻撃するように促す』と発言。ご存じのとおり、NATOは1949年に米国や西洋諸国がソ連(当時)の脅威に対抗するために発足した軍事同盟ですが、今後のトランプの言動次第で、これまで取れていたバランスが一気に崩れる可能性があります」

 当然、同盟国の日本も余波をもろに受けることとなるだろう。トランプは、対中強硬政策を取ることが予想される。

「すでに、中国からの輸入品について60%の関税を課すと明言していますが、今後、こうした貿易戦争が火種となり、米中の対立が激化すれば、台湾有事に発展することも否定できない。その場合、物資の補給や輸送など米軍の後方支援のために、日本の自衛隊が出動する事態も想定できます。前回の大統領任期中、トランプは日本政府に対して、年間20億ドルだった在日米軍駐留経費の日本負担分について、約4倍増となる80億ドル(当時の為替レートで約8700億円)を支払うよう要求している。今後、台湾周辺や南シナ海で米軍と中国軍による軍事衝突も起こりうる中、再び大幅な負担を求めてくることは十分に考えられます」(山田氏)

 莫大な負担金を要求された上に、自衛隊も戦地でフル稼働という理不尽な要求も飲まざるをえないのだろうか。

アサ芸プラス