プラットフォーマー大手3社の現況と今後の戦略が続々と明らかになってきている。

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 三者三様に課題を抱える任天堂ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)、Microsoftの3社。次に覇権を握るのはどの勢力となるのだろうか。

■苦戦のSIE、増収増益も販売台数減の任天堂Microsoftは両者の隙を突くことができるか

 任天堂2月6日、2024年3月期・第3四半期の決算を公開した。資料によると、同期・連結での売上高は前年比7.7%増の13,947億円、営業利益は13.1%増の4,644億円になったという。その一方で、ハードウェアの販売台数は7.8%減の1,374万台、ソフトウェアの販売本数は4.7%減の16,395億本と、ビジネスの根幹となる部分ではやや失速している状況が明らかとなった。トータルでは前年比超えと事業規模拡大の傾向が続いているものの、ハードウェア、ソフトウェアともにNintendo Switchの普及、次世代機ローンチのタイミングの先送りが影を落としつつある現状だ。

 一方、SIEが所属するソニーグループは2月14日、2024年3月期・連結業績における利益を、昨年11月に公表した予想から400億円増の9,200億円に上方修正した。しかしながら、この数字は前期比8.5%減となるもの。表現としては“改善”が適切となる。本丸のひとつであるゲーム関連の事業では、2020年11月発売の現世代機・PlayStation 5の販売台数を予想比400万台減の2,100万台に引き下げた。為替による好影響を加味すると、苦戦と言って差し支えない状況が浮き彫りとなった。

 また、この発表のなかで同社は来年度(2024年4月~2025年3月)の展望について、“ファーストパーティーによる既存大型タイトルの新作リリースを予定していない”ことも明らかにしている。今期(2024年3月期)には、『Marvel's Spider-Man 2』がリリースされ、1,000万本以上を売り上げるヒットを記録していた。ユーザーにとっては、やや残念な表明となったことは言うまでもない。

 最後に、大手3社のなかで唯一海外を拠点とするMicrosoft2月16日Xboxプラットフォームに関する情報番組『Official Xbox Podcast』の特別版を配信した。このコンテンツのなかで同社は、4つのXbox独占タイトルをより広いコミュニティに向けて提供していくと発表。さらに、今後もハードウェアビジネスを継続していくことも明らかにした。Xboxプラットフォームをめぐっては、「(現行機であるXbox Series X/Sの苦戦から)MicrosoftがGame Passの事業に専念するのではないか」という噂も囁かれていた。そうしたネガティブな予測に反し、2024年のホリデーシーズンには、新たなコンソール/コントローラーのローンチも予定しているという。あわせて、Activision Blizzardの展開する人気タイトル『Diablo IV』が2024年3月28日よりGame Passに追加されることも明らかとなった。

■浮き彫りとなる三者三様の課題。ユーザーの囲い込みが覇権獲得のカギに

 コロナ禍以降、活況を見せるゲーム市場で、三者三様に課題を抱える任天堂SIEMicrosoftの3社。私は今年1月に掲載された記事のなかで、次代の覇権を争う動きが活発化するのではないかと予想した。各社の課題として提示したのが、「Nintendo Switchの後継機がいつ、どのような価格・仕様で発売されるのか」「SIEがファーストパーティーの魅力的なタイトルをPlayStation 5に送り込めるか」「MicrosoftがGame Passのビジネスを収益化できるか」の3点だ。

 今回の発表を踏まえ、まずSIEは上記の課題を、少なくとも2024年度中はクリアできない見込みとなった。一定量の普及を経て、PlayStation 5の販売台数が下振れている背景には、同機でなければならない理由の不足が挙げられるだろう。昨今では多くの話題作がマルチプラットフォームで展開されるため、ファーストパーティーや独占契約のタイトルでなければ、特定のハードにこだわる必要がない。ゲーム機としてのPCが広く浸透しつつあることも向かい風となり、SIEPlayStation 5は苦戦していると考えられる。

 発表のなかで「コンソールサイクルの後半に入る」と表現されたことからも、PlayStation 5の販売台数は徐々にピークアウトし、たとえば、ハイエンドモデル/次世代機の開発・発売など、次のステージへと移行していくのではないか。昨年末にはPlayStation 4と同等のペースで累計5,000万台を突破したことが話題を集めた同機だが、振り返ると、発売前の注目や実際に備えている性能ほど、ポジティブなインパクトを市場に残せなかったように感じる。半導体不足に起因する供給の遅れや、そのような状況を背景とした転売の横行なども向かい風として作用したと考えていいだろう。今回の発表は「PlayStation 5の展開が決して成功とは言い難い」という評価を決定づけるようなものとなった。

 他方、任天堂については、2024年度中と見込まれていたNintendo Switch後継機のローンチが、2025年第1四半期にずれ込んだと噂されている。前提部分を含め未発表の情報であるため真偽のほどは不明だが、もしそうであるならば、2024年3月期は今期以上に失速が鮮明となるはずだ。現時点で、ライバルたちの次世代機ローンチからはすでに3年以上が経過している。そのあいだも絶え間なく期待され続けてきた新ハードの発表だけに、噂に落胆するユーザーは少なくないだろう。Nintendo Switchの販売台数の落ち込みは、買い控えによるところもある。先送りとなればなるほど、次の1年は大きく販売台数が減少する可能性もある。

 任天堂が次世代機のローンチに対し、やや悠長とも言える態度を見せられる背景には、「特に国内市場において、すでに現行ハードが覇権を握っていること」「そうした状況に支えられ、ファーストパーティータイトルが芳しい売上を記録していること」の2点があるだろう。もしかすると、社内にはWiiからWiiUへと移行したときの苦い記憶から慎重論のようなものが生まれているのかもしれない。ことソフト面においては、抜きん出たコンテンツの魅力を持つ同社だけに、期待どおりの次世代機がローンチされるとなれば、多少の時機の遅れはあったとしても、大きな支持を獲得することになりそうだ。

 対し、SIEの直接的な競合でもあるMicrosoftについては、ホリデーシーズンに発表するとされているまだ見ぬ新たなコンソールに期待感がある。場合によっては、現行機のローンチ当初、PlayStation 5に善戦したXbox Series X/S以上のインパクトを残せるのではないか。なぜなら、前世代機の影響が色濃く残るなかでローンチされた同機にくらべると、市場やプラットフォーマーたちの動向から受ける好影響があるからだ。SIE任天堂の停滞、Game Passビジネスの浸透、PCプラットフォームの一般化など、(PC Game Passを含めた)Microsoftのサービス全体に吹く追い風は小さくない。そのような状況を活かせるかは、新ハードの概要にこそかかっていると言えるのではないだろうか。2024年のホリデーシーズンには、SIEからPlayStation 5 Proがローンチになるという噂もあるが、先述の根本的な課題を解消できていないPlayStation 5のアップグレード版に訴求力があるかという点には疑問が残る。少なくとも2025年3月までに関しては、Microsoftが攻勢に出る期間になると言えそうだ。

 同社は特にGame Passの周辺において、「人気作のファーストパーティータイトル化」にも勤しんでいる。(買収戦略によりファーストパーティーとなった)2023年9月リリースの『Starfield』、今回対応が発表された『Diablo IV』のほか、『Lies of P』『Cities: Skylines II』『ペルソナ3 Reload』といったサードパーティーの話題作が「Day1タイトル(発売初日からGame Passに対応するタイトル)」としてラインアップされている。

 しかしながら、今後も同じ戦略を続けていくためには、相応の予算が必要となる。投資に見合ったメリットを享受できるかが、サービス継続、ひいてはXboxプラットフォーム台頭の条件となってくる。

 プラットフォーマー3社のぶつかり合いは、ファーストパーティータイトルをめぐるユーザーの囲い込み勝負の様相を呈してきた。ここに並びかけられるとすれば、自前のコンテンツこそないものの柔軟性で勝るPCプラットフォームということになるが、もし“第四の勢力”としてシェアを拡大するのであれば、それは同時に、3社のなかでは、ハードの性能がバッティングせずコンテンツ力に勝る任天堂が優勢、PCプラットフォームとも親和性の高いGame Passを展開するMicrosoftにとっては追い風となることを意味している。

 一方で、長きにわたり、トップを走ってきたPlayStationプラットフォームにとっては不利な状況のようにも見えてしまう。はたして次に覇権を握るのはどの勢力となるのだろうか。

(文=結木千尋)

画像=Unsplashより