反響の大きかった2023年の記事を厳選、ジャンル別にトップ10を発表してきた。今回は該当ジャンルがなかったが実は大人気だった記事を紹介する!(集計期間は2023年1月~10月まで。初公開2023年8月13日 記事は取材時の状況です)
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全国に数多くあるテーマパーク。今もなお新しいテーマパークが生まれては人々を楽しませ続けている。しかし、そんなテーマパークには、あまり語られることのない側面が存在する。そんな、「テーマパークのB面」をここでは語っていこう。

――そのお化け屋敷で、亡霊の声が聞こえる、らしかった。お化け屋敷、というよりも正しくは「ミラーハウス」なのだけれど、とにかくそこで何者かの悲鳴が聞こえ続ける、という話を耳にした。

当該の恐怖体験はビデオにもなって、当時流行り始めていた実録系のホラービデオでその様子が克明におさめられたことは、ずいぶん後から知った。そのビデオの名前は「ニューロシス」といって、そのミラーハウスに迷い込んだ二人の女性が、鳴り止まない子どもの悲鳴と母親の怒号を聞き続けるというものだった。

◆わずか4年で閉園した「富士ガリバー王国」

ミラーハウスがあったのは、「富士ガリバー王国」といって、1997年富士山の麓の富士ヶ嶺地区に誕生したテーマパーク。元からそこは心霊スポットだったわけではない。というよりも、ありきたりな、バブルと共に全国に建てられた有象無象のテーマパークの一つにすぎない場所だった。そんな何の変哲もない場所がいつの間にか心霊スポットになってしまった。

富士ガリバー王国はわずか4年で閉園してしまい、その後、そこに残された園内施設はそのまま打ち捨てられることになった。その光景が異様だったのかもしれない。

たしかに、当時の廃墟になりたての頃の写真を見ると広大な富士山をバックに、巨大なガリバー像が横たわったいる姿は異様だし、そこに不法侵入者たちによる落書きが書かれていることも不気味さを増している。たしかにそんな場所なら何らかのお化けが出てもおかしくなさそうだ。

◆「立地の悪さ」には二重の意味が

しかし、これだけでは、この場所に住む亡霊に迫ることはできない。そもそも、なぜこの場所は廃墟にならなければいけなかったのか。理由の一つは、この場所の立地の悪さにある。立地の悪さ、と書いたが、これには二重の意味がある。

まず一つは、単純にアクセスが悪いこと。一番近くのインターチェンジから、車で1時間近くかかる。

もう一つは、この場所が上九一色村から近かったことだ。上九一色村。この名前を覚えている人はいるだろうか。1995年1月、世間を震撼させた地下鉄サリン事件を起こした宗教団体「オウム真理教」の本拠地サティアンがあった場所である。

◆次々とテーマパークが建立されていったバブル時代

このテーマパークの近くに富士ガリバー王国は生まれたのである。富士ガリバー王国が生まれた1997年は、地下鉄サリン事件から2年が経過していたものの、やはり上九一色村の名前はオウム真理教の名前と共に人々の記憶に深く刻まれ、そのテーマパークに暗い影を落としたことは否めない事実だろう。

といっても、なぜ、こんな場所にテーマパークを建てなければならなかったのか。もっと良い立地があったはずだ。

テーマパークは、一般的に広大な土地が必要だ。本来、そんな土地はなかなかなくて、場所もなければそれを買うお金もない。しかし、日本は特別だった。バブル景気を体験したからだ。バブルの波に乗った銀行や企業は、投資と銘打って、全国の広大な土地を買い漁り、そこに次々とテーマパークを建設していった。

◆なぜ上九一色村にテーマパークが?

富士ガリバー王国を建てたのは、新潟中央銀行だった。バブル期の好景気に後押しされ、この地方銀行は通常時では無茶とも言える投資計画を半ば強引に推し進め、富士ガリバー王国だけではなく、新潟ロシア村、柏崎トルコ村といったテーマパークの建設も行なった。

しかし、金はあれど、そのようなテーマパークに向いている土地がゴロゴロと転がっているわけではない。その時買うことができた土地は、立地が悪かったり、何らかの因縁がその土地にあったり、とにかくどこか暗い影を持っていたりする。

富士ガリバー王国が典型だ。先にも書いたように、オープンする2年前にはその近くで日本を震撼させるテロ事件を起こした犯人たちのアジトがあった。どこかしら暗い影を持ったその土地は、富士ガリバー王国が建てられる前にはただの原野だった。

元を辿れば、戦後、満州から引き上げてきた満蒙開拓団の一派に与えられた開墾地だとされている。しかし、開墾は混迷を極めた。土地質が良くなく、野菜が丈夫に育つような土地ではなかったのだ。その証拠は、開拓民たちがその土地を手放し、そこが原野になっていたことに表れているだろう。

◆今現在「跡地の使い道は明らかにされていない」

そんな場所にテーマパークを作らせたのはバブル景気によるうたかた夢物語で、そして、その夢物語がはかなく終わるとき、その場所はバブルのゴーストをかかえこむことになる。

その後、富士ガリバー王国は異なる会社に買い取られて、そこにはドッグランが作られた。しかし、それもまた一年程度しか持たず、またその土地は宙に浮くことになった。現在は、関東近郊圏に本社を持つある会社が所有するところになっているのだが、その使い道は明らかにされていない。日本の中心である富士山の麓に、ぽっかりと穴が空いているような状態だ。まだ、そこには、あの、ミラーハウスにいた亡霊が彷徨っている。

もしかすると、富士ガリバー王国のミラーハウスに現れたのは、バブルのゴースト、いや、もっと言うなら資本主義という名前のゴーストだったかもしれないと思うのである。

現在も富士ガリバー王国の跡地はその利用方法が決まっていない。ミラーハウスはなくなり、そこにいた亡霊もいなくなってしまったかもしれないが、まだそこにはバブルの霊が彷徨っているのではないかと思われて仕方ない。

<TEXT/谷頭和希>

【谷頭和希】
ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)

現在は立ち入り禁止になっている「富士ガリバー王国」(筆者撮影)