不倫ドラマ史上もっとも危険な、最低最悪の不倫男より、その役に徹する小池徹平のほうが実はしたたかでは?



『離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―』5話より© テレビ朝日



 毎週土曜日よる11時30分から放送されている『離婚しない男-サレ夫と悪嫁の騙し愛-』(テレビ朝日)に出演する小池を見て、毎回飽きずに驚いてしまう。


 イケメンの探求をライフワークとする“イケメンサーチャー”ことコラムニスト・加賀谷健が、本作第5話で“最高沸点”を記録した小池徹平の怒りの演技を解説する。


◆絵に描いたような高笑い
 どこまでゲスいやつなんだろ。どこまでやったら気がすむんだろ。夫・岡谷渉(伊藤淳史)に気づかれたいがために、マンションの隣室を借りてまで、妻・岡谷綾香(篠田麻里子)との不貞を繰り返す。


 ただしそれはまだ綾香を介した間接的なあてつけでしかない。もっと直接的な方法はないだろうか。そう考えた司馬マサト小池徹平)は、隣人を装って渉に話しかける。


 娘・岡谷心寧(磯村アメリ)の海外留学や綾香から夫の愚痴を聞かされてるなど、執ように渉を徴発しようとする。公園の池で鯉にエサをやりながら、「アッハハハ」と高笑いするマサト。この絵に描いたような高笑いが、何だか妙に耳に残るのは何故だろうか。


◆おぞましくも華麗な怒りの演技



 こんな小池徹平を見たことがないと毎回叫びたくなるのだけれど、第5話の高笑いは、もっと複雑というか。渉を前にから騒ぎしているだけかのようで、その目は真剣そのもの。


 渉が怒りをおさえ、悶えるリアクションを見て、「苦しめ、苦しむんだ」と心の中で吐き捨てる。するとマサト視点の回想となる。公園のベンチに仲良く座る渉と綾香のことを木の陰から怒りの眼差しで見つめる。


「お前だけ幸せになっていいのかなぁ」と怒りをチャージする台詞は、本作の“最高沸点”を記録。綾香との一連の不貞行為を一本線で結びつつ、渉への怒りを強烈な点で打ちつける。おぞましくも華麗な怒りの演技ではないか。


◆寡黙な人・小池徹平の本音
 ゲストが焚き火を囲んで自由にトークする『魂のタキ火』(NHK BSプレミアム)に小池が出演したときのこと(2021年3月23日放送)。盟友である城田優が基本的にトークをリードしながら、ハリウッド映画作品でも活躍する米本学仁が個性をにじませる。


 そんな3人のやり取りの中、小池は、せっせと薪を焚べる役回りに徹する。バラエティ番組などできさくな関西弁と饒舌さが印象にあったけれど、実はこんなに寡黙な人でもあったのか。


 すると小池が、「あまり自分語りが好きじゃない。こういう人間なんですよわかってくださいが苦手。恥ずかしい。黙々と作業をという職人」とやっと自分のことを語る。


 そっか、そういうことを考えながら演技をしている人だったのだ。本音ともいえるこの言葉から、『離婚しない男』での驚異的な怪演を紐解けるかもしれない。


マサト以上にしたたかな小池徹平



 あの高笑いと最高沸点の台詞が、板についているのは、まさに職人がなせる技だと思う。怒りの点をどこにどう配置するのかを計算しながら、全体として不倫の一本線で回収する。


 マサト以上にしたたかなのは、この最低最悪の不倫男役に扮する俳優・小池徹平その人だ。焚き火の前で自分のことを必要以上に語るなんてどうでもいい。でもだからこそ、自分の演技を見てくれ。


 綾香との不貞行為中の饒舌なささやき。渉に対してのこれ見よがしな態度。すべてを演技に落とし込み、表現を完成させる。そんな俳優としての底しれない維持と矜持がにじむ役として小池自身にグッと引き寄せて考えると、マサトの暴虐ぶりも理解が深まる気がする。


マサトの目的とは



6話より



 するとどうだろう。第5話では、マサトの真の目的が明らかになる。彼はなぜあれほど執ように渉を苦しめようとするのか。悪魔的な魅力が光る不倫男の別の側面が見えてくる。


 マサトの目的。それは、渉への復讐だった。「お前はまったく気づいてないな」と回想される高校時代の一方的な恨み。それを晴らすべく、渉を徹底的に苦しめる。


 復讐という響きは何とも虚しいけれど、バーカウンターで目を血走らせて渉への呪詛を吐くマサトは、まるで陰陽師のような鬼気迫るものがある。


 陰陽師的でありながら、渉を弁護する守護神・財田トキ子(水野美紀)の前では、闇を祓われる悪魔のような存在でもある。不倫男であり、整形によって今の顔立ちを得た人工的な存在。この悲しき悪の化けの皮が、ほんとうの意味で剥がれるとき、視聴者はいったい、何を目撃するんだろう?


<文/加賀谷健>


【加賀谷健】音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu



6話より