2023年の韓国公開時、多くの観客の心を揺さぶった、強い絆で結ばれた幼なじみ2人の女性の切ない友情と愛の物語『ソウルメイト』が、2月23日より日本で公開中だ。今作は、デレク・ツァン監督の中国映画『ソウルメイト/七月と安生(チーユエとアンシェン)』(21)を、韓国・済州島に舞台を移したリメイク作品。監督は、ソウルインディペンデント映画祭にて『短い記憶』(12)で作品賞を受賞したミン・ヨングン。この『ソウルメイト』が初の商業映画作品となるミン・ヨングン監督に、作品への想いや「映画館で観ること」の良さについて語ってもらった。

【写真を見る】キム・ダミとチョン・ソニ、ピョン・ウソクの実際の関係性が、映画の役柄とよく似ていたという

■「実際の3人の関係性が、映画の役柄とよく似ていました」

ハウン(チョン・ソニ)の小学校にミソ(キム・ダミ)が転校してきて2人はすぐに仲良くなり、無二の親友となる。性格も価値観も育ちも違うが、一心同体状態で常に2人で過ごしていた。だが17歳の夏、男子生徒ジヌ(ピョン・ウソク)の登場をきっかけにある秘密が生まれ、彼女たちの絆に変化が起き、次第に疎遠に…。そして16年が経ったある日、ミソとハウン2人だけの重大な秘密が明かされる。

自由奔放なミソを演じるのは、「梨泰院クラス」でブレイクしたキム・ダミ。当初、ミン監督は彼女をハウン役に考えていたが、キム・ダミの強い希望でミソ役に決まった。愛に溢れた家庭に育ち、堅実な人生を生きるハウン役には、「ボーイフレンド」のチョン・ソニ。そして、ミソとハウンの絆に変化をもたらすジヌ役を「力の強い女 カン・ナムスン」のサイコパス役が記憶に新しいピョン・ウソクが演じている。

「実際の3人の関係性が、映画の役柄とよく似ていた」と、ミン・ヨングン監督は語る。チョン・ソニとピョン・ウソクは同い年特有の親密さがあり、2人より4歳下のキム・ダミは映画のシーン同様、ピョン・ウソクにイタズラをしかけてふざけたり、時には女子2人が結託してピョン・ウソクをからかって困らせたりしていたそう。「そんな普段の雰囲気が、映画にもうまく表れた」と回想していた。

■「愛なしでは描けないハイパーリアリズムの絵画、この映画のモチーフにもなっています」

今回のリメイクにあたり、ミン・ヨングン監督は「原作と差別化しなくては、という強迫観念のようなものはなかったが、原作の核となる物語の骨組みを持ってきつつも、独自の設定を自分ならではの表現方法で描きたかった」と言い、中国版ではハウンが小説を書いていたのに対し、今作では鉛筆で描かれるハイパーリアリズムの絵画を描いている設定に変更。それは、長年自分の娘をハイパーリアリズムの画法で大きなキャンバスに描いている画家と話したことがきっかけだったそうだ。

「絵が完成するまで数か月、場合によっては1年以上かかることもあり、“愛なしではこの絵を描くことはできない、と描くたびに感じている”と聞き、それが私の心にとても響いたんです。ソウルメイトになっていくというのは、長い時間をかけて相手を丁寧にじっくりと余すところなく見つめていく、ということでもあり、それがまさにこの映画のモチーフにもなっています。実物とまったく同じように描くのは、相手を素直に見つめることなくしては出来なくて、絵を完成させていく過程が崇高な行為に思えたし、これほどまでに大きく深い愛はないのではないか、と思ったんです」と、その理由を説明した。

■「直接的に表現しなくても、表情が見えてくるような演技をしてみよう」

今回、ミン・ヨングン監督は、撮影に入る前に3人と演技プランについて話し合い、「感情を直接的に表現しすぎないように。でも、感情が見えてくるような演技をしてみよう」と、非常に難易度の高い演技を要求した。「映画の序盤のミソとハウンは、若く活力に溢れているので、直接的な感情表現があったと思いますが、20代になりストーリーが進んでいくにつれ、感情を内に押し殺すというか、なにかを隠し持っている表現に変わっていきます」。

作品のなかで、ミン・ヨングン監督が特に好きな表情は「ハウンの結婚式場での、とても複雑な感情が見え隠れする無表情な顔。そして最後のシーンでの、長い年月を経た感情の蓄積が、無表情ながらも漂ってくるミソの表情」とのことだ。ほかにも、ハウンがミソに初めてジヌのことを話した時の、「もうハウンには、私だけじゃないんだ…」といった、ミソのショックで哀しい複雑な表情も、彼女の心が痛いほど伝わってきて、とても印象的だ。

揺らぐはずのなかった友人2人の絆に亀裂を生む存在のジヌ。ただの“悪い男”にもなりえる彼を、ピョン・ウソクはどっちつかずな曖昧さを上手く表現し、絶妙なバランスで演じている。その感想をミン・ヨングン監督に告げると、「彼に伝えます。喜ぶと思います」と笑顔を見せたあと、「ジヌは2人の女性に想いを抱き、二股めいた行動をしてしまう、ある種“悪い男”とも言えますが、憎みきれない人物として描きたかったんです。10代後半のころは、自分の感情に未熟な面があっただろうし、いままで自分の周りにいなかったタイプの女性に出会って魅かれてしまうのはありうることだと思います」と語った。

そして「この映画では、彼の登場がきっかけとなってミソとハウンの間にひびが入っていくように描かれてはいますが、突き詰めると、ジヌが原因ではなく、彼の登場によって生じた“秘密”が2人の関係性を変えていったのではないかと考えています。それまでは隠しごとなく人生のすべてを共有していたのに、ミソに小さな秘密ができてしまった。そして、ハウンも心の内をすべて明かすことができなくなってしまったんです」と、亀裂の原因について、監督自身の考えを明かした。

■「秘めやかなときめきを感じさせる、廃墟でピアスを付け合うシーンが気に入っています」

ミン・ヨングン監督に好きなシーンを尋ねると、「たくさんありますが、ネタバレになってしまうので序盤で」と前置きして、学生時代にミソがハウンを廃業となったホテルに連れて行き、ハウンのために作ったピアスをプレゼントして付けてあげるシーンを挙げた。

「明け方に撮ったんですが、廃屋となった部屋の窓から済州島の海が見える中でお互いにピアスを付け合う姿が、秘めやかでときめきを抱かせるようなシーンになったと思います。撮影中も編集中も、完成した映画を観た時も好きだなと思いました」

好きなセリフは、「先程お話しした画家の方の言葉の引用ですが、“愛がなければ描くことすらできなかった絵を描きたかった”というセリフです」とのこと。このセリフがどこでどのように語られるのか、ぜひ注目してほしい。

■「“劇場で映画を観る”という貴重な価値は、いまも生きていると思います」

今作は、劇場公開を念頭に置いて作られた。最近は配信用に作られる映画も多く、劇場公開作でも配信を待つ動きも多いなか、「映画館で観る」良さについて尋ねると、「スペクタクルなものを大迫力で楽しめる利点もありますが、同時に、表情を深く見ることができるのが良いところ」と答えが返ってきた。

続けて「大きなスクリーンと良質なサウンドで、映画監督が表現したい繊細な部分を余すところなく観客にも感じてもらえますし、たくさんの人たちと同じ空間で集中しながら観るのと1人で観るのとでは、間違いなく感情や反応に違いがあると思います。映画の危機が叫ばれている昨今ですが、“劇場で映画を観る”という大切で貴重な体験と価値は、いまも生きていると私は思っています」と語り、最後に「『ソウルメイト』は、微妙な目の動きや細やかな息遣いが大きな比重を占めています。それを劇場でぜひ感じていただきたいです」と締めくくった。

取材・文/鳥居美保

ミソ役を強く希望していたというキム・ダミ/[c] 2023 CLIMAX STUDIO, INC & STUDIO&NEW. ALL RIGHTS RESERVED.