多くの人が直面する「親の介護問題」。特に認知症の場合は、在宅介護に限界を感じ、離職せざるを得ない状況に追い込まれることも珍しくありません。介護離職を避けるためにも「老人ホーム」に頼るというのも手。しかし施設に入居できたら安心、というわけでもないようです。みていきましょう。

50代で「介護離職」を選択で起こる「2つの大問題」

――久々の外出かと思って喜んでいたのに大号泣

もうすぐ60歳だという女性が、週末の出来事を綴った投稿。大号泣をしたというのは80代の母で、数年前から認知症を患い、その日は老人ホームに入居する日だったそうです。

――帰ろうとしたら何かを察したのか「うちに帰る、うちに帰る」と連呼

後ろ髪を引かれる思いで、何とかホームを後にしたといいます。

総務省令和3年 社会生活基本調査』によると、「家族の介護をしている人(15歳以上)」は推定653万4,000人で、人口に占める割合は6.1%です。

家族の介護している人を年齢別にみていくと、「50代」が最も多く28.1%。「60代」26.8%、「70代以上」24.5%と続き、昨今、問題視されている「老老介護」についても見てとることができます。

また男女別にみていくと、「男性」が39.3%、「女性」が60.7%と、家族の介護において、圧倒的に女性に負荷がかかるケースが多いことが分かります。これは夫婦でみたとき、男性のほうが平均寿命が短く、先に介護を必要とする夫を妻が介護する、というパターンが多いことも一因として考えられます。

介護について、もうひとつ考えておきたいのが「介護離職」のこと。厚生労働省『2022年 雇用動向調査』によると、介護や看護を理由に離職をした人は7万2,600人。男女別にみていくと、男性が2万5,700人、女性が4万6,900人。さらに年齢別に見ていくと、最も多いのが「55~59歳」で1万8,200人。続いて「60~64歳」が1万3,500人。「50~54歳」9,900人、「65歳以上」9,500人、「45~49歳」5,300人と続きます。

50代の介護離職が多いことが分かりますが、そこに大きな問題点が2つ。まず自身の資産形成が不完全な状態での離職になること。50代は会社人として給与がピークに達するタイミング。同時に子どもの教育費負担にひと段落がつき、自身の老後に向けて資産拡大を本格化させるタイミングです。少子高齢化の進行により、今後、年金支給額が目減りしていくのは必至で、いっそうの自助努力が求められています。そこで介護離職をした場合、介護にひと段落した時には自身は老後に突入。老後の生活費が足りずに困窮する懸念があるのです。

では介護がひと段落したら、再び働き始めようとしましょう。しかし50代で介護離職した場合、年齢的に再就職が難しいという現実に直面します。再就職できたとしても、離職前と比較すると大きく給与は下がり、自身の老後に大きな不安を残す形になるのです。

「認知症患者可」でも老人ホームから「退去勧告」の可能性

介護離職を避けるためにも、在宅介護が難しいと感じたら、老人ホームに頼るというのも手です。

株式会社LIFULL senior/「LIFULL 介護」が行った『老人ホームの入居タイミングに関する調査』によると、入居を決めたきっかけとして46%が「認知症」と回答。認知症の症状のなかでも「排せつの失敗」や「お金の管理ができない」等の理由が多くを占めました。

また「入居時の要介護度」としては、排泄や入浴などにも介助が必要な「要介護2」が最も多く16.7%。要介護2以下が全体の54.6%を占めています。いわゆる「特養」の入居条件は要介護3以上ですが、その前の介護状態でも施設入居を必要とする実態がここからも読み取ることができます。

前述の女性の場合も、介護離職を避けたいという思いから、介護度は低いもののすぐに入居が叶う、比較的自宅から近所のホームへの入居を決めたといいます。そこには、何かあったらすぐに行くことができる、という思いもあったといいます。

しかし入居から1ヵ月も経たぬうちに、「うちであずかるのは難しい」と老人ホームから話があったといいます。話を聞くと、たびたび「うちに帰りたい」と騒ぎ立て、ときに手が出てしまうこともあるとか。職員の数が限られているなか、現状では対応が厳しいというのです。

このように「認知症患者可」という施設であっても、退去勧告がされる場合があります。退去要件は入居前の説明や重要事項説明書などに記され、認知症であれば徘徊などにより職員が対応できない場合や、暴言・暴力などで他の入居者に被害が及びそうな行為があると、退去勧告となるケースが多くあります。退去勧告があった場合、ある程度の猶予期間があるので、その期間で次の入居先を探すことは可能です。ただ女性の場合は、一度、自宅に連れて帰り、改めて受け入れ可能な施設を探すことにしたといいます。

――うちに帰りたいと泣き叫ぶので、いったん落ち着かせようと

しかし、老人ホームを退去し、自宅に戻ったのにもかかわらず、「うちに帰りたい」という主張が止まることはなかったといいます。困り果てた女性は親戚に相談をしたといいます。そこで返ってきたのは「うちって、実家のことではないか」という答え。母の故郷は東北で、結婚を機に引っ越してきたと聞いています。

「うちに帰りたい」と家族を困らせる認知症患者は多いようで、しかもその“うち”は自宅とは限らず、幼少期を過ごした故郷であることも多く、認知症の記憶障害である「記憶の逆行性喪失」によるものだとか。

――母は昔に戻り、幼少期の世界を生きているのかも……

女性はケアマネージャーとも相談しながら、新たな施設を探しているといいます。

[参考資料]

総務省『令和3年 社会生活基本調査』

厚生労働省『2022年 雇用動向調査』

株式会社LIFULL senior/「LIFULL 介護」『老人ホームの入居タイミングに関する調査』