勉強そのものを好きではなくてもワクワクした気持ちで勉強することで学習速度が2倍から4倍に跳ね上がると言います。その秘密は脳の海馬がら出る脳波にありました。著書『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)より、 加藤俊徳氏が解説します。

ワクワクしたポジティブな感情に海馬はだまされる

「これが好き」「この作業は楽しい」。ワクワクとしたポジティブな感情を浴びると、海馬からシータ波と呼ばれる4㎐から8㎐未満の周波数を持つ脳波が出ます。

このシータ波が出ているときは海馬が活発に働き、入ってきた情報を「これは重要だ!」と判断します。

長期記憶へとつながるルートを開放してくれるのです。

だから、苦手なことも好きになれないことも、どうにかして「好きかも?」くらいには持っていきたいし、勉強の効率化を図るのならばそうすべきです。

昇格試験に必要だから、仕方なくやっている。これでは楽しくないばかりか、イヤイヤ勉強に取り組んでいるとストレスホルモンが分泌され、海馬が萎縮して記憶力の低下を招き、余計にやる気をなくすということにもなりかねません。

そうはいっても、やりたくないことを楽しいと思うなんて無理、という声も聞こえてきそうです。

第1回の記事(関連記事:『脳の最盛期は45歳から55歳だった!?…意外と知られていない脳の新説』)で脳ちゃんの性格をお伝えしましたが、基本、脳はだまされやすいという特徴があります。もちろん、やりたくないことも楽しいと思ったり、好きになったりするのがいちばんですが、それをしなくても大丈夫。

そう、脳をだまして、楽しいと錯覚させればいいんです。

では、具体的にどうやってだましていくか。

忘れてはいけないのは、ワクワクとした前向きな感情で勉強に向かうことであって、勉強そのものを好きになる必要はない、ということ。

たとえば、大好きなカフェラテを飲みながらハッピーな気分で勉強に取り組む。試験に合格した自分へのご褒美を決めておき、そのご褒美を思い出してからテキストを開く。あるいは、好みのタイプの先生のオンラインレッスンを受けるというヨコシマな気持ちでワクワク感を高めていくのもアリです。

シータ波が出ているときは、学習速度が2倍から4倍になるという行動上のデータ(テキサス大学、学習と記憶センター ホフマンら)もあるほど。

普通に勉強するよりも25〜50%の時間と体力で欲しい知識が記憶に入るわけです。

苦手なものに取り組むときほど、「好き」を近くに置いてセット化することで、脳が働きやすい環境を作ってあげるのが大切です。

「なるほど、わかった!」と理解できれば記憶に残る

記憶の調整役・海馬をだまして長期記憶へのルートを開放してもらうテクニックは、ワクワクした気持ちで取り組むことだけではありません。

「なるほどね!」と理解すること。

これだけで理解系脳番地がしっかり働くことになるので、学んだことを無条件に長期記憶として保管することができます。 社会人になってからも学ぶ方が多い、英語を例にご説明しましょう。

日本の英語教育の弊害と言っていいと思いますが、なかなか文法が身につかず、苦労している人はたくさんいますよね。正直に言えば、私も苦労したうちの1人です。 そもそも文法は、相手に伝わるように話すための語順のルールで、日本の学校で重点を置いているのは、このルールを暗記することです。

つまり、記憶系脳番地に頼った勉強法を強いているのです。

学生時代のそういった経験から、大人の脳に切り替わっているにもかかわらず、丸暗記で文法を覚えようとしても覚えられるはずがありません。 なかには、学生時代に暗記を頑張って、文法もかなり覚えたというタイプの方もいるでしょう。しかし、テストの穴埋め問題に答えることはできても、いざ仕事の場面で使いこなすことができるかというと、そこでつまずいてしまう人も多いはず。頭のなかで文章を組み立てている間に話題はどんどん移り変わっていき、話の輪に入れないという悩みもよく聞きます。 英文法は話すためのルールですから、どういうシチュエーションのときにどの文法を使えばいいのかがわかること、これがいちばん大事です。 英文法に限らず、条例でも法令でも化学式でも、どの場面にこの知識を活かすのが適切か理解系脳番地を働かせ、理解しながら学ぶのが正解。 なぜ、理解系脳番地を働かせながら学んだことが、自動的に長期記憶に送られるのかというと、理解するためにはこれまでに蓄えてきた情報を記憶の保管庫から引っ張り出してきて、比較検討したり、新しい情報と結びつけて理解の幅を広げたりする必要があるからです。 このとき、過去に「これは重要」と判断して長期記憶に送った情報と関連するものは、やはり大事な情報である、と記憶の調整役・海馬はそう判断してくれるのです。

「暗記ではなく理解して記憶する」大人の脳の使い方

理解系脳番地とともに、感情系脳番地も一緒に動かすと、より海馬が長期記憶に送ってくれやすくなります。

友情を描いた映画を観てとても感動した。これを英語で言いたい。だから文法を調べる。「なるほど、こう言えばいいのか」と理解する。

英会話のオンラインレッスンで、仕事相手との話題の幅を広げるため趣味のサッカーについて語りたいと思ったら、事前に話したい内容を調べて「こんなシーンでは、こういう言い回しもできるのか」と理解する。 体験をベースとした理解は、第3回の記事でも触れたエピソード記憶に理解を上乗せするような形で、長期記憶として保管されます。

(関連記事:第3回『大人になると、付箋を貼っても線を引いても覚えられない!?…学生時代とはちがう「大人の記憶力」がアップするヒント』

また、英語の文章を読みながら「なぜここでcanが使われているのかな」と自分から疑問を探しにいくことも重要です。

わざわざ調べるきっかけを自分で作り、「can」を使うシチュエーションへの理解を深めるように自分を仕向けていき、自家発電によって理解するチャンスを増やしながら親密度を高めていくのです。 「なるほど、そういうことだったのか!」という瞬間こそが理解系脳番地が働いているときであり、脳が活性化しているタイミング。

理解系脳番地の働きによってあなたの脳は大いに刺激されています。 大人の脳は、暗記ではなく理解して記憶する。 このコツを応用する形で勉強すれば、これまでと同じテキストを使っていても、その効果は何倍にも跳ね上がります!

加藤 俊徳

加藤プラチナクリニック院長/株式会社脳の学校代表

脳内科医/医学博士

(※写真はイメージです/PIXTA)